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6話

 「あの時は12時過ぎまで飲んでたと思います」消防団員の松本悟が言った。あの日とは朝倉直之が目撃された23日の夜のことだ。聞き込みは消防団の事務所を借りて行った。部屋には団員個人のロッカーがあり、その中には朝倉とかかれたものもあった。窓の前にも雑然とものが積まれているため薄暗く、たばこの臭いがする。

 「選挙の打ち上げだったんですよ」選挙とは2月の中旬にあった田村の村長選挙で、原発推進の現職篠宮剛太郎と反原発を掲げる岩本征悟が一票をめぐって争った。僅差で現職の篠宮剛太郎が勝利を収めるものの、裏で多額の金銭が動いていると噂になっていた。

 「直之は篠宮村長を敬愛してたから逆に許せなかったみたいですよ。しきりに約束したと言っていましたからね」

 「約束?」

 「清廉選挙、クリーンな選挙を朝倉は村長に求めていた」松本の言葉に村役場の堺慎之介と郵便局員の宮部竜也が同意するかのように頷いた。あと一人、遠野と言う農協職員がいたはずだが、仕事の都合がつかなかったらしく姿を見せていない。

 「俺たちはそんな選挙は無理だと言ったが、朝倉は我として聞かなかった」

 「聞かなかったっとはどういうことですか?」

 「訴えるって言うんですよ」松本が声をひそめて言った。

 「流石にそれはまずいと俺たちも止めたんだ」堺が口を挟み、松本が同調するように頷いた。

 「原発で勤務してる朝倉にしても、村役場にしても篠宮村長匙加減一つなんだ。郵便局は別かもしれないがな」松本が視線を郵便局員の宮園に向ける。

 「それは郵便局だって同じだよ」宮園が反論する。

 「ここだけの話、今回の件はやばいよ」松本が声をしのばせて言った。

 「何がですか?」

 「村長は選挙でかなりの額を使ったってもっぱらの噂でさ。それで朝倉の奴を殺った話だ。ばらされたら終わりだからな」

 「三春署の刑事課の連中の異動も、村長が絡んでるって話しだ」堺が言った。

 「まじかよ。しんじられねぇ」松本が堺に同調する。

 「じゃあ、ますます村長が怪しいじゃないか?」

 三人の中では村長犯人説が高まったところで話を切った。

 「あの晩、朝倉直之は遅くまで飲んでいたんですか?」

 「いいえ、ずいぶん早く帰ったはずですよ」宮部が言った。

 「早く帰った?」

 「ええ、なんでも明日早くに出かけると言ってました」

 小学校の校門前に白のハイエースが止まっている。轟は運転席の窓をノックすると真壁健吾が気だるそうに窓を下げた。

 「どうして来なかったんだ」扉越しに訪ねる。

 「青年団の連中とは反りがあわねぇんだよ。どうせ、村長の腰巾着だろ。大方、村長擁護の発言をしたんだろ」自らが発案した大和田雅樹犯人説が覆り、気落ちしているように見えた。

 轟は助手席に乗り込み、真壁に言った。「逆だった。三人とも口裏を合わせたように村長が犯人だと言うんだ」

 「はぁっ?何でだ」

 「俺も不思議に思った。土建屋の松本ならともかく、村役場に勤めている堺まで村長の不正を認めた」

 「馬鹿か。松本が一番嘘苦せぇ。あいつの親会社は篠宮土木だ」

 「どういうことだ?」

 「あいつらは嘘をついている」

 「どうして?」

 「犯人が誘導してるんだよ。村長に罪を着せるためにな」

 そこまで来て、視線の隅に軽トラックが見えた。

 「止まってくれ」轟の言葉にハイエースが急停車する。

 「だから、大声を出すなって言ってるだろう」真壁の言葉が言い終わる前にハイエースを飛び出していた。

 軽トラックが止まっていたのは農協で男性職員が荷台に空のカゴを積んでいるところだった。

 「すいませんが、遠野公明とおのきみあきさんではないですか?」

 男性職員は額の汗をタオルで拭いながらこちらを見ていた。

 「公明、こいつは」真壁が運転席から降りて説明しようとするのを遠野が遮った。

 「中で話しましょう。ここでは人目に付く」



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