7話
遠野が事務所の灯りをつけ、カウンターの奥にある来客用のソファーへ案内する。
ガラス製のローテーブルにはアルミの灰皿があり、吸い殻が数本残っていた。
「失礼」遠野はポケットからくしゃくしゃになったマイルドセブンを取り出すと口に加え火を付けた。
「朝倉直之の一件について調べてるんでしょ」遠野は真壁と轟に視線を移し言った。
「27日、朝出勤時にはここに朝倉の車が置いてあった。気になってあいつの家に電話をかけた。母親の話じゃ、24日の朝出て行ったきり姿が見えないというじゃないか。団の連中にも声をかけたがわからなかかった」
「どうして団の連中とは別で話す気になったんだ?」真壁が訪ねた。
「正直に言う。俺はあいつらが怖い」
「怖い?」
「金のためなら殺人さえもいとわないってことさ」遠野のたばこの火が赤く光った。
「やつらには朝倉直之を殺す動機がある」
「村長選挙での不正」遠野は頷く。
轟は先ほどの三人との会話を説明する。
「たしかにそういった会話はあったでも全部じゃない。それに裏金云々の会話をはじめに持ち出したのは堺だった」
「堺が?」
「堺と松本が大声で騒ぎ始めた。今思えば朝倉を焚きつけているように思えた」
「何のために?」
「さぁ、ただ朝倉は俺たちより先に店を出た。日付が変わり、俺たちが店にでた後、農協の駐車場にはまだ朝倉の車があった」
「どういうことだ?」
「歩いて帰ったとか?」
「無理だ。あいつの家は岩井戸だ。車でだと15分ほどだが、歩いてだと街灯も無い急勾配を一時間近く歩く羽目になる」真壁が説明し、遠野が頷いた。
「でも24日の朝方、車で出かけるのを父親の朝倉総介が目撃している」
「酔いが醒めるまでどこかにいたんじゃないのか?」
「どこに?」
「決まってるだろ。この場所に車を止めて行くとしたら場所は一つだ」真壁が言った。
「教員住宅。澤村千尋のところか」農協と教員住宅は目と鼻の先である。直之が澤村千尋の家に行ったとしても不思議ではない。ただ、澤村千尋には大和田雅樹という恋人がいるのは周知の事実であり、周囲に知られるとまずい。だから先に帰ると言って店を出た。十二分に考えられる。
「朝倉直之と澤村千尋は親しい関係にあった」
「そのことを松本はよく思ってなかった。松本は澤村千尋に好意を持っていた」
「松本が」
「雅樹から相談を受けたことがあった。澤村千尋が嫌がらせを受けている」
「嫌がらせ?」
「無言電話だとか、誰かに見られているだとかその程度だと話していたが、実際はもっと酷いこともあったんじゃないかと思う」
「千尋が」真壁が顔を赤くする。
「その犯人が松本」
「さぁ、そこまでは。ただ松本は澤村千尋に熱を上げていたのは間違いない。そこに雅樹との結婚の話が持ち上がった。松本は二人のことをよくは思わないだろ」
「ちょっと待てよ。澤村千尋や大和田雅樹を恨むならともかく、どうして朝倉直之なんだ?」
「朝倉は雅樹から相談を受け、松本の嫌がらせを止めさせようとした」
澤村千尋は24日に大和田雅樹と共に実家である仙台に帰省している。朝倉直之は二人がいない間に松本と話をつけようとしたが、決裂し殺害された。
「だから澤村千尋の便糟に放り込んだんだよ。宿舎は3つあった。死体を隠すならめったに使われてない2つのどちらかの便糟に放り込むべきをわざわざ澤村千尋の住んでいる便糟に放り込んだのは澤村千尋に対する松本の異常な執着だ」
三人が朝倉直之を取り囲み便糟へ押し込む様子を想像する。
「すると三人は共犯になる」
「一人では難しいが、三人いれば動きを封じることができる」真壁が鼻息を荒くする。
「仮に犯人が松本、堺、宮部の三人だとして、24日から2日間朝倉直之はどこにいたんだ?」
「三人がどこかに監禁したとか」
真壁の推理に首を振る。
「朝倉直之に拘束された形跡はなかった。24日の早朝、朝倉直之はセダンに乗って自宅を出るのが目撃されている。25日に至っては目撃情報すらない」
「それこそ澤村千尋と仙台に行ってたんじゃないのか」真壁が言った。
「仙台……可能性はある」むしろその線を考えなかったことが疑問だった。
「よし」真壁は事務所の電話を取るとどこかへかけ始めた。
「馬場か、俺だ。真壁だ」馬場と二三やり取りをすると真壁は電話を切った。
「先生、明日仙台に行ってくれ」
「仙台」
「おうよ。すべての鍵は澤村千尋が握ってんだよ」




