島崎くんの彼女?
6月になり、私が島崎くんと一緒にお昼休みを過ごすようになって一ヶ月が過ぎた。
初めはあまり会話はなかったが、最近は彼からも話を振ってくれるようになった。
彼は、無理に話を合わせようとしたり、人の悪口を言ったりしない。
私も気を使わず、会話ができる。
彼といると、落ち着く。
「春野、デニッシュ食うか?」
「食べるー。何のデニッシュ?」
「生ハムメロンデニッシュ」
「げー」
「いやいや、めちゃうまいから。自信作だぞ」
その時、校舎から1人の女子生徒が、黒髪ロングを靡かせながら走って来た。
「龍二、何やってんのよ」
ひどく焦った様子だ。
「美希? 何って飯食ってんだろ」
「今日、昼休みに委員会の集まりがあるのよ」
「え、そんなこと聞いてねーぞ」
「いいから、早く行くわよ」
そう言い、彼女は島崎くんの手を掴み、強引に引っ張る。
「わかったわかった。春野、そのデニッシュ食えよ」
そう言い残し、2人は校舎の中へ走って行った。
綺麗な子だったな。
下の名前で、呼び合ってたな。
仲良さげだったな。
島崎くんも1人が楽とは言ってたけど、なんだかんだクラスメイトとは仲良くやってるのかな。
急に、1人が寂しく思えた。
寂しさを紛らわすため、私は、彼にもらった生ハムメロンデニッシュを手に取り、かぶりついた。
「何これ、美味しい」
メロンの甘さと、生ハムのしょっぱさと、パイ生地のパンが絶妙にマッチしている。
思わず笑顔が溢れた。
翌日の昼休み。
「春野、昨日は話の途中で悪かったな」
「ううん、忘れてたの?」
「いや、それがあいつの勘違いだったらしくて」
「そうなの?でも、委員会入ってるとか意外だった。めんどくさがりそうなのに」
「いやー、推薦されて無理やりだよ」
「信頼されてんじゃん」
「みんな面倒だから押し付けただけだろ。それより、食ったか? 生ハムメロンデニッシュ」
急に、彼の目がキラキラし出す。
「すごい美味しかった」
「だろ?」
めちゃくちゃ嬉しそう。
「親にも食わしてみるかー」
「また、お店に並ぶといいね」
いつも通り、島崎くんの隣に腰を下ろし、一呼吸置いて聞いてみた。
「昨日、島崎くんを呼びに来た子、綺麗な人だったね」
「そうか?」
「友達、なの? ほら、下の名前で呼んでたし」
私、うざいこと聞いてるな。
「何? 気になるわけ?」
私の顔を覗き込んでくる彼。
「ち、違うよ。そういうんじゃなくて。なんか、その、私と違ってクラスにも馴染んでるのかなーって」
「別に馴染んではねーよ。俺、群れとか苦手だし」
「そう、なんだ」
私は何をドギマギしてるんだろう。
結局、あの女子とどういう関係なのかは、はっきり聞けなかった。
◇◇◇
翌日の登校時。
教室に向かっていると、例の彼女に出会ってしまった。
「あ、あなた、龍二といた、春野さんでしたっけ?」
私に気づいた彼女が、こちらに駆け寄ってきた。
「えっと、美希さん?」
「名前覚えてくれたんだ。嬉しいわ」
満面の笑顔で喜ぶ彼女。
「それで、春野さんに聞きたいことがあるんだけど……龍二とはどういう関係なのかしら?」
彼女が、急に真顔になる。
やっぱり、この人、島崎くんの彼女?
「えっと……」
私と島崎くんって、どういう関係なんだろう?
友達? いや、ただお昼食べる場所が同じなだけだし。
いや、それ以外の場所でも会ったことはあるけど、あれは偶然だし。
島崎くんちにも行ったけど、あれはパンを買いに行っただけだし。
「何で黙っているの? 人に言えないような関係なのかしら?」
彼女が、イライラしている。
「いや、違うよ。偶然お昼食べる場所が同じで、なんとなく一緒に食べるようになっただけで……」
「ほんとに? 付き合ってたりしないのね?」
「え、しないしない」
私が、首を横に振ると、彼女は安心したように息を吐いた。
「そっか。急にごめんなさい。どうしても気になっちゃって。じゃあさ、私も一緒に食べていいかしら?」
「え」
そう来たか。
結局、この人は島崎くんの彼女ではないってこと?
どうしよう。
正直、面倒くさい。
「えっと、島崎くんがよければ」
一瞬、不快そうな顔をした彼女は、また笑顔を作り、「わかったわ。じゃあ、今日からお邪魔するわね」
は? 今日から? わかってないじゃん。
華麗に走り去る美希さんの後ろ姿を、私は呆然と見送った。




