グラタンパン
私と佐々木さんは、自動販売機の近くのベンチに並んで座った。
また逃げられたらどうしようと思っていたけど、意外と普通に話せそうだ。
「佐々木さん、あのー、最近どう?」
言葉を選んでいたら、なんともアバウトな質問になってしまった。
「え? 別に変わりないけど。あ、もしかしてまだ友達と仲直りしてないこと、心配してくれてる?」
「あー、それもあるけど。ほら、昨日、廊下で会った時、泣いてたじゃない? 大丈夫だったかなって」
首を傾げる彼女。
「あー、あの時、後ろにいたの春野さんだったんだ」
気づいてなかった?
「ごめんごめん。あの時、目にゴミが入ったみたいで」
予想外の答えに、固まる私。
「そ、その後、私を見て走って逃げちゃったよね?」
「メガネ外してたからよく見えなくて、春野さんだとはわからなかったけど、なんかじっと見られてたから、恥ずかしくなっちゃって」
「ほんとに?」
「本当だよ?」
そう言って首を傾げる佐々木さん。
開いた口が塞がらない。
「失礼な態度、取っちゃったよね。本当にごめんね、春野さん」
「いや、私が勝手に勘違いしてただけだから。それにね、佐々木さんが1人で寂しそうにしてるの知ってて、見て見ぬふりしたり、お昼一緒に食べようって誘ってくれたのに断って1人で食べたり、私の方が失礼な態度取ってるから」
「そんなの気にしないでいいのに。春野さんの、1人の方が楽だって気持ち、わからなくもないし。それにお昼、彼氏さんと食べてるんでしょ? 邪魔できないよ」
「え? 彼氏?」
「赤い髪した男子と、中庭で食べてるの見たよ」
「いやいやいや、彼氏じゃないから。たまたま中庭で一緒になって、知り合っただけで」
「そうなの? それにしては、仲良さそうだったけど?」
ニヤニヤしながら、私の腕をツンツンしてくる佐々木さん。
「ほんと違うから」
「そっかそっか。とにかく、私のことは気にしないで。最近、放課後に図書室で勉強してるんだけど、そこで一緒になる子と仲良くなったし」
そう言って、嬉しそうに笑う彼女。
「そうなんだ。よかった」
その後、2人で教室に戻り、それぞれのお昼休みに向かった。
中庭では、もう彼がお昼寝タイムに入っていた。
私がそっと芝生に座ると、薄目を開けて彼はこちらを見た。
「ごめん、起こしちゃった?」
「クラスメイトと話せたみてーだな」
「なんでわかるの?」
「顔見りゃわかる」
「島崎くんの言うとおり、話してみたら中身は全然違ったよ。私の勘違いだった」
「だろ? 他人なんてのは、側から見ただけじゃ、何を考えてるかなんてわからねーんだよ」
「でもさ、この安堵感って、クラスメイトが寂しくて泣いてたんじゃなかったことより、1人で寂しがってるって知っておきながら、手を差し伸べなかった私を恨んでなかったことに対するものなのかも。私、クラスメイトにどう思われてるかを心配してたのかもって」
「別にいんじゃね?」
「え、」
「事実、そのクラスメイトは悲しくて泣いてたわけじゃなかったわけだし、春野のこともどうも思ってなかったわけだし、結果よければすべてよし」
彼は、あっけらかんとそう言った。
「そんな簡単にまとめちゃう?」
「お前は、難しく考えすぎなのー」
「そうかなー。とりあえず今回、島崎くんのおかげで、ちゃんと話ができたよ。ありがとう」
「早く昼飯食わねーと昼休み終わるぞ」
彼はそう言って、私に背を向け、寝る体勢になる。
どうやら、照れているようだ。
彼の背中を眺めながら、私は昼食を終えた。
◇◇◇
週末、私は再び島崎ベーカリーへと足を運んでいた。
今日も店内は、お客さんで賑わっている。
その時、店の奥から焼きたてのパンを運んでくる店員さんが見えた。
島崎くんのお母さんだ。
「はーい、新作のグラタンパン、焼き上がりましたー」
え、グラタンパン?
島崎くんが作っていたやつだ。
お店に並べてもらえることになったんだ。
私は、急いでグラタンパンの並ぶ場所へ向かう。
まだ湯気が立ち上っているそれは、島崎くんが食べていたものと同じだった。
「あら、お嬢ちゃん。いつもありがとね。グラタンパン美味しいよ」
「はい、知ってます」
「え?」
しまった。
「いや、絶対美味しいだろうなって」
苦笑いで誤魔化す。
「これね、珍しく息子が提案してくれたのよ。ちょうどお嬢ちゃんと同い年ぐらいなんだけどね」
「そうなんですね」
「いつもぶっきらぼうなあの子が、珍しく話しかけてきたと思ったら、新作を考えたって。あの子もちゃんとお店のこと考えてくれてたんだって、嬉しくなってね」
そう言いながら、グラタンパンを愛おしそうに見つめるおばさん。
私は、グラタンパンを3つ買った。




