側から見てるだけかじゃわからないこと
あの日から、私は嶋崎くんと一緒に芝生に座って昼食を取るようになった。
「今日は何パン?」
「今日はグラタンパン」
「えー、そんなのあるんだ。こないだ行った時にはなかった気がするけど」
「俺が勝手に作ったやつだから、売ってはねーよ」
「え? 島崎くんが作ったの? すごっ」
「遊び半分で作ってるだけだから」
そう言って、グラタンパンを半分に割って、私に差し出してきた。
「食う?」
「いいの? ありがとう。じゃあ、おにぎり一つあげるね」
「やった。サンキュー」
彼が嬉しそうに、おにぎりを受け取る。
グラタンパンは、パンの器にグラタンが入っている形をしていて、一口齧れば口の中にクリーミーなグラタンとチーズの味が広がり、それが周りのサクサクしたパンと合わさり、冷めていてもとても美味しかった。
「めちゃくちゃ美味しい」
彼は「そう」と言いながら、前髪を触り顔を隠す。
「お店で売ったらいいのにー」
「こんなの、手間もコストもかかるし、きっと売り物には向いてない」
「そうなの? こんなにおいしいのに」
「おいしいだけじゃ、ダメなんだ」
と空を見上げる彼の横顔は、少し寂しげに見えた。
昼休みが終わり、教室に戻る途中、佐々木さんが廊下に佇んでいた。
私は声をかけるか迷いつつ、彼女に近づいて気づいた。
彼女は泣いていた。
メガネを外し、ハンカチで目を拭っている。
その時、彼女が私の気配に気づいたのか、チラリとこちらを振り返ったと思ったら、走って行ってしまった。
今、目が合ったよね?
睨んでなかった?
そして、逃げられた?
私、佐々木さんに嫌われてる?
彼女には、ずっと後ろめたさがあった。
お昼に誘ってくれたのに、嘘をついて断ったこと。
1人で寂しそうにしていたのに、見て見ぬふりをしたこと。
全部、自分を守るため。
もし、あの涙が、私の行動に関係しているものだったら……。
教室に戻ると、佐々木さんは自分の席に座って俯いていた。
私には、再び声をかける勇気はなかった。
◇◇◇
「おい、おーい」
翌日の昼休み、ボーっとお弁当を食べていると、島崎くんの呼びかけで我に帰った。
「メロンパン食うかって聞いてんだろ」
「え、あー、ありがとう」
「何があったんだよ」
「え? いやー、ちょっとクラスメイトとね」
「お前、友達いねーのに、クラスメイトとトラブルとか起きようがなくね?」
「そう思ってたんだけど。ある女子が1人で泣いてて、その理由が私にも責任があるかもしれなくて」
「お前って、1人が楽だから友達作らないって肝が座ってると思ったけど、結局友達でもないやつの心配して、よくわかんねーな」
「だってー、私のせいかもだしー」
「そんなもん、聞いてみねーとわかんねーだろ」
「だって、聞いて本当に私のせいだったらって考えると、怖くて」
「お前なぁ」
と呆れ顔の彼。
「お前お前言わないでよー」
「だって、名前知らねーし」
「あ、そうだっけ? 春野つむぎですー」
うなだれながら答える私。
「春野」
「……はい」
初めて、島崎くんに名前を呼ばれ、ドキッとする。
「側から見ただけで、どんだけ考えても、中身は見えてこねーぞ」
そう言って彼は、一つのパンを私に差し出した。
「このパン、外はクロワッサン生地で固く覆われてるけど」
彼が、それをひと口かじり、中身を見せる。
「中は柔らかく、甘いチョコクリームがぎっしり。側から見たんじゃ中身はわからねーんだよ」
「ふふっ、パンで例えるとか、さすがパン屋の息子だね」
「うるせー」
彼が、口を尖らせそっぽを向く。
「確かに島崎くんも、見た目と中身全然違うもんね」
「話してみねーとわかんなかっただろ?」
「うん、そうね。私、彼女と話してみる」
彼は、大きく頷いた。
どうしてだろう。
彼の言葉には、説得力を感じる。
勇気をもらえる。
まだ出会って間もないのに。
◇◇◇
翌日。
私は朝から、佐々木さんに話しかけるタイミングを見計らっていた。
結局、昼休みになってしまった。
佐々木さんは、お昼を食べる前に席を立ち、教室を出て行った。
私も、急いで後に続く。
後をつけるなんて、すごい罪悪感あるけど、仕方ない、仕方ないんだ。
佐々木さんは、一階の自動販売機の前まで行き、ミネラルウォーターを購入。
彼女が振り返ったところで、私は思い切って声をかけた。
「佐々木さん」
彼女が、目を見開き驚く。
「ごめん、ちょっと話したいことあって。いいかな?」
「うん」と訝しげな表情で、彼女が頷いた。




