1人が楽な2人
今日も、サクラの木の下には誰もいない。
サクラは、もうとっくに散ってしまい、緑の葉っぱが生い茂っている。
なんとなく、私はいつも彼が座っている芝生に腰を下ろした。
花壇より座り心地いいじゃん。
横になってみる。
木の葉の隙間から見える真っ青の春の空、風に揺れて葉が擦れる音、学校で寝転んでいるという優越感。
なにこれ、めっちゃ気持ちいい。
彼がいつも、ここで寝ている気持ちがわかった。
島崎くんが、ここに来なくなってまだ
3日しか経ってないのに、もう随分会ってない気がする。
不思議。
私のこと、鬱陶しくなっちゃったかな……
◇◇◇
柑橘系の香り、聞き覚えのある声。
これは…
「おいっ」
私が目を開けると、赤い髪にピアスの不良男子生徒が、横にしゃがんで私の顔を覗き込んでいた。
「ひゃっ!」
私は驚きすぎて、変な声を出しながら飛び起きた。
「し、島崎くん」
「ここ、俺の、特等席」
無表情でそう言いながら、地面を指差す彼。
「あー、ごめん。てか3日ほどいなかったじゃん」
「いないから試しに寝転んでみよう、あー気持ちいいな、で気づいたら寝てたってところか」
ギクっ、その通りだ。
「島崎くんが、いつもここで寝ちゃう気持ちがわかったよ。で、風邪でもひいてたの?」
って友達でもないのに、いちいち聞くって面倒なやつじゃん。
「俺じゃなくて、母親がな。で、代わりに店出てた」
何食わぬ顔で答える彼。
「え、あのレジにいた人だよね?」
「やっぱりお前か」
ニヤニヤしながら、彼が言う。
「え?」
「俺と同い年ぐらいの女の子がうちに来て、トレイいっぱいにパン買って行ったって、オカンがめっちゃ喜んでたから」
「言われた通り、制服じゃ行かなかったけど、印象に残っちゃったか。恥ずかし。だってどれも美味しそうで、実際美味しかったよ」
「当たり前だ」
と自慢げに笑う。
「あのときはお母さん元気そうに見えたけど、無理してたのかな?」
「休めって言っても、店閉めるわけにはいかないって聞かねーし、親父だけじゃ店開けられねーから、俺が代わりに出たってわけ」
「それは大変だったね。お母さんもう大丈夫なの?」
「あぁ、もう平気」
「そっか。よかったー」
「人の親のこと、どんだけ心配してんだよ」
「いやー、お母さんもだけど、急に来なくなったから私が原因かなって」
「は?とんだ被害妄想だな」
「だって1人になりたくてここでお昼食べてるんでしょ?私がいたら1人じゃないし、別の場所に変えたのかなって」
私の言葉を聞いて、呆れた顔になる彼。
「自意識過剰かよ。お前のことなんて気にしてねーし」
「言い方ひどっ」
私が口をとんがらせ言うと、彼は笑う。
私も釣られて笑う。
この学校に来て、初めて心から、笑った気がする。
会話が一区切りつき、彼がいつものようにパンを齧りだす。
「あ、ごめん、1人で食べたいよね」
私が立ち上がろうとすると、独り言のように彼が呟いた。
「別に」
私は中腰の格好で固まった。
「え?」
「だから、別にここが気に入ったなら、ここにいればいいじゃん」
彼は、わざわざ皆まで言わせるなといった様子で、ぶっきらぼうに答える。
「ありがと」
私は再び、そこに腰を下ろした。
「ねー、ずっと気になってたこと、聞いていい?」
「ダメ」
「島崎くんって、ヤンキーなの?ヤンキーっぽい格好してるだけの優等生なの?」
「ダメって言ったのに、聞いてんじゃねーよ」
「だってー、すごい違和感あるんだもん」
「別に。それに好きでこんな格好してるわけじゃねーから」
「そうなの?」
「この格好してると、誰も寄ってこねーから楽なんだよ」
「なるほど。でも私は寄って来ちゃったね」
「だな。まぁ、お前はあんまそばにいても、鬱陶しくねーっつうか、いてもいなくても変わんねーつうか」
「なにそれ、褒めてんの?貶してんの?」
「さぁ」
とぼけた顔で、彼が首を傾げる。
「でも、ヤンキーになりきれてないのには、理由があったのね。でも、先生に怒られないの?」
「この学校、成績上位キープしてれば、何も言われねーよ」
「えまじ?てか、島崎くん成績上位なの?」
「まぁな」
この男、普通じゃないなとは思ってたけど、まさかの優等生だった。
私が、唖然としながら彼を凝視していると、彼からも質問が飛んできた。
「お前も、あえて連まないようにしてんだろ?」
「うん。わかっちゃった?」
「じゃねーと、あんな笑顔で『私、友達いないから』なんて言えねーだろ」
「確かに。まぁ、私も友達は欲しいけどさ。一緒にいて楽しい、この人といるとありのままの自分でいられる、気のおけない友達ってのが、今までできたことなくてさ。1人の方が楽だなって考えにたどり着いちゃったわけ」
「わかる」
珍しく島崎くんのテンションが上がったのを感じた。
「結局1人が楽なんだよな」
「それなー」
と、2人で笑い合った。




