島崎ベーカリー
ある日の英語の授業。
「今日は、2人1組になって、相手のプロフィールを英語で書いてもらいます。2人グループを作ってください」
授業開始早々、英語の教師が、そんなことを言い出した。
こういう時、ぼっちは困る。
どうしたものか。
私が無意識に佐々木さんの方を見ると、彼女もこちらを見ていた。
彼女は、例の下手くそな作り笑いを浮かべながら、席を立ちこちらに向かってくる。
「春野さん、私と組んでくれない?」
私は、少し考え、小さく頷いた。
相手のプロフィールを聞きながら、それを英訳していく。
「佐々木さん、下の名前なんだっけ?」
「加奈子だよ。春野さんは、つむぎちゃんだよね」
「うん、覚えてくれてるんだ」
「可愛い名前だなって、印象に残ってた」
佐々木さん、普通にいい子なんだよな。
「春野さんの性格を、教えてください」
「んー、面倒くさがりで、マイペースで、飽きっぽくて」
「もっといいところあるでしょ?」
「いやー思いつかないなー」
その時、女子の笑い声がして、反射的にそちらを見る佐々木さん。
ついこないだまで、佐々木さんと仲良かった女子たちだ。
私は、聞くなら今だと、ずっと気になっていたことを聞いてみた。
「友達と何かあったの?」
佐々木さんは、悲しげに答える。
「うん、ちょっとね」
そう言い苦笑いを浮かべる佐々木さん。
さすがに、ここでは言いづらいか。
「春野さんって、いつもあえて1人でいるね」す、するどいな。
「う、うん。なんでそう思ったの?」
「だって、1人でいても堂々としてるし、なんかかっこいいなーって」
「いやいや、私はただ人付き合いが苦手というか、面倒なだけで。1人の方が楽だなーって」
「そう思えるのすごいね。私には無理かな」
寂しそうに笑う佐々木さん。
気まずい空気になってしまった。
私は無理やり、話を課題に戻し、無事プロフィールは完成した。
その日から、お昼は佐々木さんと一緒に食べるように、なることはなかった。
私が1人が楽だと言ったから、声をかけてこないのだろう。
プロフィールの性格の話の中で、彼女は自分は寂しがりやだと言った。
それを聞いてしまったからか、1人の彼女はすごく寂しそうに見える。
だが、ここで同情から声をかけると、私はきっとまたしんどくなってしまう。
こうやって、他人の感情に寄り添ってしまうのが、しんどくなる原因の一つなのだろう。
そして私は、申し訳なく思いながら、彼女に背を向け教室を出た。
中庭には、今日も彼がいた。
私は、いつもの場所で、1人お弁当を食べる。
なんだろう、この空間はなんとも言えない安心感がある。
彼とはあれから話をしてないが、ただそこにいることが当たり前になっていて、一緒にいるわけじゃないけど一緒にいる感じ。
彼は、あれから昼寝をするときは、スマホのアラームをかけているようだ。
ほんと、見た目と中身がチグハグって言うか。
真面目なのか不真面目なのか、わからない。
◇◇◇
週末。
あの大きなメロンパンが無性に食べたくなり、島崎ベーカリーに行ってみることにした。
調べたところ、うちから歩いて5分と、意外にもご近所さんのようだ。
お店はすぐに見つかった。
外観は赤茶色のレンガでできた、ちょっとした洋館のような造りだった。
白い枠の窓からは、店内の様子が見え、外にいてもいい香りがして来る。
店先には小さな花壇があり、色とりどりの花が植えられていて、絵本に出て来そうな可愛らしいパン屋さんだ。
ゆっくりと木製の扉を開くと、扉に付いているベルがチリンチリンと鳴った。
中は結構なお客さんがいて、皆数十種類のパンからどれを選ぼうか、頭を悩ませていた。
私も、入り口に置いてあるトレイとトングを手に取り、店内を回り始める。
本当に種類が豊富で、10分ほど店内を周り、気づけばトレイの上はいっぱいになっていた。
例のメロンパンは、レジ前の目立つ場所に、一番人気と書かれたプレートと共に置いてあった。
残り1個だ。
嬉しくて、つい頬が緩む。
レジに向かうと、優しそうなおばさんが私のトレイを見て、「たくさんありがとね」と笑う。
島崎くんのお母さんかな?
「知り合いに、ここのメロンパンをもらったんですけど、感動するほど美味しくて」
「それでわざわざ買いに来てくれたのね。ありがとう」
おばさんの笑顔を見て、やっぱり島崎くんのお母さんだと確信した。
まだ、彼が笑っているところを見たことは1度しかないけど、よく似ていた。
そして、あれだけ買ったのに、思ったより全然安くて驚いた。
帰宅し、早速昼ごはんに食べたが、メロンパン以外も絶品だった。
島崎ベーカリー、最高じゃん。
◇◇◇
翌週の月曜日。
私は、早く島崎くんに、島崎ベーカリーに行ったこと、どのパンもすごく美味しかったことを伝えたかった。
やっと昼休みになり、中庭へ急ぐ。
だが、彼はいなかった。
まだ来てないだけかなと、昼休みが終わるギリギリまで待っていたが、結局彼は現れなかった。




