美希お嬢様のお家で勉強会
翌日の昼休み。
「島崎くん、昨日はお騒がせしました。無事に仲直りできました」
「おう、よかったな。結局、何が原因だったわけ?」
「それは……友達を悪く言われて」
「お前、友達いないんじゃなかった?」
「あー、まぁ、そうだけど」
「なんだそりゃ」
あなたのことですとは言えない。
「そ、それよりさ、そのパン初めて見るけど、また新作できた?」
「よくぞ聞いてくれた。これは昨夜思いついた、イエローさん剣士3度だ!」
「何その厨二病っぽいネーミング」
「バカにすんなよ? これは、一つのサンドイッチの中に、卵サンドとチーズサンドとバナナサンドの部分があってな。一つで3度美味しいってわけだ。サンドイッチだけに」
ドヤ顔すごいな。
「今度はダジャレ? なんか急にクオリティ下がってない? 確かに卵とチーズとバナナの黄色で揃えたのはいいけど、どれもよくある具材というか。生ハムメロンデニッシュに比べたらパンチが弱いというか」
「そんなにダメ出ししなくてもいいだろ」
あ、拗ねちゃった。
「あー、ごめんごめん。美味しそうだよ? 一個ちょうだい、イエローさん剣士」
「やだだっ」
そう言って私に背を向け、さっさとイエローさん剣士サンドを食べる彼。
「島崎くん、ごめんってばー。拗ねるなよー」
その後、なんとか彼を宥め、ご機嫌を直してもらいました。
いつもクールな彼だけど、子供っぽい一面もあるんだなと、可愛く思えたのは内緒だ。
その日の放課後。
いつものように、勉強会のために図書室に向かうと、図書室の前に美希さんたち3人が立っていた。
「あ、春野さん。今日、図書室使えないみたい」
佐々木さんが困った様子でわたしを見る。
「どうしようか。今日は自主勉強とするかい?」
と小林先輩が言うと、美希さんが手を上げた。
「ねぇ、もしよかったら私の家でしない? 学校に近いのよ」
「え、そんな急にご迷惑じゃない?」
「親は仕事でまだまだ帰って来ないし、全然大丈夫よ」
「んー、じゃあお言葉に甘えちゃう?」
そう言って佐々木さんが、私と小林先輩に問いかける。
「親御さんのいない時に、女子ならまだしも、僕がお邪魔してもいいのかな」
小林先輩が心配そうに伺う。
「全く問題ないですよ。昔から男友達もよく家に連れてきてましたから」
それって、島崎くんのことかな。
「じゃあ、お邪魔するね」
てなわけで、私たちは美希さんの家で勉強することにした。
同級生の家にお邪魔するなんて、いつぶりだろう。
美希さんの家までは本当にあっという間で、学校から歩いて10分もかからない所にあった。
そして、とても大きかった。
立派なお庭もあり、住宅街でひときわ異彩を放っている。
なんとなくそんな予感はしていたけど、やっぱりこの子、お嬢だったか。
大きな玄関の扉を開けると、黒いゴールデンレトリバーがお出迎えに出てきた。
「ツムギ、ただいま」
「え、ツムギ?」
私と同じ名前だと知っている佐々木さんが、私と同時に驚く。
「何? 可愛い名前でしょ?」
そう言って、美希さんはゴールデンレトリバーの頭を撫でる。
「私も、つむぎって名前」
私が呟くと、少し間を置いて、美希さんと小林先輩が驚く。
「そうなの?」
「すごい偶然だね」
「ツムギ、あのお姉さんもつむぎって言うんですって」
美希さんがツムギにそう言うと、ツムギは私の方を見ながら尻尾を振ってみせた。
「よろしくね、ツムギちゃん」
「ねー、春野さん。今日からつむぎちゃんって呼んでもいい?」
「え、うん」
「やった。可愛い名前だから、前から下の名前で呼んでみたいなって思ってたんだよね」
嬉しそうに笑う佐々木さん。
「じゃあ、わたしもいいかしら?」
と手を上げる美希さん。
「美希さんもどうぞ。好きに呼んで」
「やったー! よし、むぎちゃん、かなっぺ、こば先輩、我が家へようこそ」
「なんか、私と先輩まで好きに呼んじゃってますけど」
「まぁ、いいんじゃない」
呆れた様子で美希さんを見る佐々木さんと小林先輩。
「あと、むぎちゃん、さん付けはもうやめてよね? 美希って呼んでちょうだい」
「え、うん。わかったよ、美希」
なんか、この人、島崎くんに怒鳴られてから、キャラ変わった?
それとも、彼の前では猫被ってたのか?
まぁ、楽しそうだからいっか。
その後、美希さんの部屋へ通された。
ツムギも私たちについてきて、部屋に入ると私の横に落ち着いた。
同じ名前と知り、仲間意識を持ってくれたのかな?
「飲み物持ってくるわね」
「あ、私も行くよ」
と美希と佐々木さんが出て行ってしまい、部屋には私と小林先輩の2人きりに。
どうしよう。
何話していいかわかんない。
気まずさを紛らわせるため、ツムギをなでなでしていると、小林先輩が口を開いた。
「ねぇ、春野さん、ずっと気になってたんだけどさ、カバンにつけてるそれ、ニャンタ先生だよね?」
「え、あ、はい。そうですけど、知ってるんですか?」
「うん。夏目友人本はアニメも漫画も読んでて、大好きでさ」
「ほんとですか? 私もです。いいですよねー」
「うちの学校の人で、アニメの話できる人に出会ったことなかったから、嬉しいな」
その時、美希たちが飲み物を持って部屋に戻って来たので、話はそこで打ち切られてしまった。
勉強会を終え、途中まで同じ方向だということで、小林先輩と一緒に帰った。
もちろんアニメの話になり、大いに盛り上がった。
楽しかったな。




