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1人が楽だと思っていたのに、あなたと2人が楽しすぎて  作者: あぽぉ


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13/20

初めての家出

今まで、母に対して自分の気持ちをぶつけたことはなかった。

ぶつけたところで、わたしの気持ちを理解しようとはしない。

激怒し、家事を放棄し、自分の殻に閉じこもる。

幼い頃にそれを学習し、自分の気持ちは外に出してはダメなんだと、言いたいことはすべて飲み込んできた。

だけど、なぜか今日は飲み込めなかった。

彼の顔が頭に浮かび、彼を貶されたことが、どうしようもなく悔しくて、腹が立った。


「見た目で人を判断するなんて最低」

偉そうに言ったけど、少し前までの私も、彼を見た目だけで判断していた。

赤い髪にピアス。

だらしなく着崩した制服。

初めて彼を見たとき、私は彼のことをヤンキーだと思った。

でも、彼は違った。

人と距離を置きたいがために、ヤンキーの格好をしているだけで、中身は真面目で優しい優等生だった。

私は、母と同じことをしていた。

人を見た目で判断して、勝手に決めつけていた。

それなのに今、母に向かって「最低」なんて言った。

そう思うと、胸の奥がズキッと痛んだ。


そんなことを考えながら、あてもなく歩いていると、見知ったパン屋の前にいた。

「島崎くん……」

無意識に、そうぼそりとつぶやいていた。

「春野」

声のした方を振り向くと、今帰ってきた様子の制服姿の彼が立っていた。

「制服で来るなって言ったろ」

「いや、パン買いに来たわけではなく」

「じゃあ、何しに来たんだよ」

「……家出してきた」

「は? なんで」

「親にムカついたから」

「へー、お前でもそういうことするんだな」

「初めてした」

「まじか。やるじゃん」

ニヤリと笑う彼。

「ついてこいよ」

そう言って彼が歩き出す。

「どこへ?」

彼は黙って、いつもの公園の際にある細い道をずんずん進んでいく。

その先に急な坂があり、彼は躊躇なく登っていく。

「足元、気をつけろよ」

「一体、どこ行くの?」

「ついてからのお楽しみだ」

しばらく坂を登って、やっと平らな道が見えてきた。

登りきった先には、驚きの光景が広がっていた。

「わぁー、きれー」

そこには、茜色に輝く夕陽が、街を照らしていた。

わたしは数分、その光景に目を奪われていた。

ふと横を見ると、赤い髪がいつも以上に赤く輝いていて、ピアスは夕陽を受けて光り、彼の表情はとても優しかった。

「イライラしたり、落ち込むことがあると、いつもここに来るんだ。すると、なんだか癒されて、まぁ、いっかーって思えてくるんだよな」

夕陽を見つめたまま、彼は言う。

「確かに、負の感情が浄化される感じする」

そのまま、2人並んで、夕陽が沈んでいくのを黙って眺めていた。


あっという間に辺りが暗くなり、私は我に返る。

まるで、異次元に来たような、現実味のない時間だった。

気がつけば、さっきまでのイライラやモヤモヤは、すっかり消えていた。

「わたし、帰るね」

「短い家出だったな」

「わたしも親に言いすぎたし、桃花も心配してるだろうし」

「そっか」

安心したように笑う彼。

「こんな素敵な場所に連れてきてくれて、ありがとう」

わたしがそう言うと、彼は前髪を触りながら、

「いつでも来ればいい」

そうつぶやいた。


家に帰ると、玄関で桃花が待っていた。

「桃花、急に出ていってごめんね。お母さんは?」

「リビングだよ。初めてあんなお姉ちゃん見たって、さすがに反省してる」

ほんとかな、と思いながらリビングに向かうと、母はテレビもつけず、ソファに1人で座っていた。

手元の何かを、ずっと見つめている。

背後から母の手元を見ると、そこには家族4人で写った写真があった。

父も写っている。

わたしは母の前に回り込み、床に正座した。

母が、ゆっくりとわたしを見る。

「お母さん、さっきはひどいこと言ってごめん」

私は、深く頭を下げた。

「お母さんも、勝手に決めつけて悪かったわ。桃花にも怒られちゃった」

わたしが、ゆっくりと頭を上げると、母が写真を見つめながら語り出した。

「お父さんとは、高校生の頃から一緒だったんだけどね。あの人も、昔はヤンキーだったのよ」

「え? お父さんが?」

「リーゼントで、制服も改造しちゃって、カバンもぺちゃんこでね。ザ・昭和のヤンキーだったわ」

昔を懐かしむように目を細め、笑顔で話す母。

「私は絶対関わりたくないと思ってたんだけど、急に呼び出されて、告白されて。断るのが怖くて、成り行きでオッケーしちゃってね」

「お父さんやるねー」

「彼は、不器用で、無愛想だけど、とても優しく、大切にしてくれたわ。だけど、喧嘩ばかりで怪我は絶えないし、私が他のヤンキーに絡まれることもよくあったわ。それでも、必ずお父さんが助けに来てくれた」

「いいヤンキーじゃん」

「でもお父さん、高校を卒業してからも、昔の悪い仲間との縁が切れなくてね。あなたたちが生まれて少しした頃、お父さんは家族を危ない目に遭わせたくないと、家を出ていった」

「え、」

父が家を出た理由は、ちゃんと聞かされたことはなかった。

わたしは勝手に、お父さんが浮気をして、家族を捨てて出て行ったんだと思っていた。

勝手に決めつけていたのは、私の方だったんだ。

「あの頃まだあなたたち小さかったから、ちゃんと話してなかったの。ごめんね。とにかく、お母さんが心配だったのは、あんたたちがあの赤い髪の子と一緒にいることで、危ない目に遭うんじゃないかってことなのよ」

不安そうにわたしを見つめる母。

「大丈夫だよ。彼といて危ない目にあったことないし、桃花たち小学生が安全に遊べるように、見守ってくれてる」

「そう。だからと言って、これからも危ない目に遭わないとは限らないけど、あの子がいい子なのはわかったわ。よく知りもしないのに、悪く言ってごめんなさい」

「わかってくれてよかった」

そこに、桃花が「よかった」と、リビングに入ってきた。

どうやら、廊下で聞き耳を立てていたようだ。

それから、3人で彼の話をした。

見た目と中身が全然違うこと。

実家がとても美味しいパン屋さんであること。

とても努力家で、優等生なこと。

わたしは、初めて他人に彼の話をした。

自分でも驚くほどに、夢中で話をしていた。

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