放課後の勉強会
もうすぐ、夏休み前の定期考査。
元々、無理してレベルの高い高校に滑り込んだので、入学してからも大変だろうとは覚悟していたけど、思った以上にやばい。
とりあえず、今日から放課後は図書室で勉強して帰るか。
家ではなんだかんだ集中できないし、わからないところがあれば先生に聞きに行けるし。
てなわけで、私は図書室の扉を開いた。
さすが進学校、あちらこちらで勉強中の生徒が、参考書とにらめっこをしている。
その中に、見知った横顔を見つけてしまった。
佐々木さんだ。
そういえば、放課後は図書室で勉強してるって言ってたっけ。
その隣には、もう1人女子生徒が座っていて、時々佐々木さんに話しかけている。
あれは……美希さん?
あの2人、知り合いだったの?
そういえば、佐々木さん、図書室で一緒になる子と仲良くなったって言ってた。
まさか、美希さんのことだったとは。
美希さん、島崎くんと同じ高校に行くために、必死に勉強したって言ってたし、私と同じく授業についていくのに必死なんだろう。
それで、日頃から放課後ここで勉強していたのか。
試験前になって焦っている私とは大違いだ。
私は2人に気づかれないように、一番離れた席に座ろうとした。
が、何を察したのか、佐々木さんがこちらを見た。
気づかれた。
でも、声はかけてこない。
彼女は、私が好んで1人でいることを知っている。
それに、美希さんと私が知り合いだとは知らないのだろう。
気を遣ってくれている。
なのに……。
「あらー? 春野さんじゃない? こっちこっち」
手招きする美希さん。
周りの人たちの視線が集まる。
何してくれてんだ。
「ちょっと、美希ちゃん。図書室で大きな声出しちゃダメだよ」
慌てて、美希さんを止める佐々木さん。
私は苦笑いを浮かべながら、仕方なく2人に近づいた。
「やぁ。…美希ちゃん、春野さんと知り合いなの?」
「うん。まぁ、友達の友達みたいな感じかしら」
いつから友達に?
「へー、そうだったんだ。春野さん、勉強しにきたの?」
「あー、うん。試験勉強しようかと」
「じゃあ、一緒にしましょうよ。加奈子ちゃん、頭いいし、教えるの上手なのよ。ねー、加奈子ちゃん」
「そうかな。教えるのは私の勉強にもなるから、全然いいんだけどね。私でよければ」
美希さんが、佐々木さんの隣に座るよう促してくる。
んー、どうしよう。
まだ、美希さんへの苦手意識は克服していないんだけど。
だけど、勉強を教えてもらえるのはとても助かる。
ここは、試験のため。
「じゃ、じゃあ、仲間に入れてもらおうかな」
こうして、試験まで放課後の3人での勉強会が始まった。
美希さんの言う通り、佐々木さんはとても教えるのが上手だった。
美希さんも、意外と静かに勉強に取り組んでいた。
予期せぬメンバーと試験勉強することになっちゃったけど、この空間は結構快適かもしれない。
◇◇◇
「美希と勉強?」
島崎くんに、図書室でのことを話すと、とても驚かれた。
「私もびっくりだよ。まさかこんな展開になるなんて」
「また、美希のやつが強引に誘ったんだろ」
「まぁ、きっかけは美希さんだったけど、意外と勉強捗ったよ」
「それならいいけど、無理してつるんで、またうじうじ悩むなよ」
「なにそれー! 大丈夫だもん。多分」
でも、島崎くんなりに心配してくれてるのかな。
その日の放課後も、図書室で3人並んで勉強会。
佐々木さんは理数系が得意だけど、英語は苦手らしく、3人で英文に悩まされていた。
「ここはこうじゃないかしら?」
「いや、それは違うんじゃないかな」
「じゃあ、どれが正解よ?」
「んー、春野さん、どう思う?」
「えー、全然わかんない」
その時、私たちの斜め前に座っていたメガネの男子生徒が、こちらに話しかけてきた。
「ちょっといい?」
「あ、すみません。うるさかったですよね」
「いや、その問題は……」
そう言って、丁寧に解説しながら問題を解いていく彼。
「あー、そういうことだったのね」
「ありがとうございます。助かりました」
3人で頭を下げる。
「あなた、頭いいのね」
「まぁ、僕、一応2年だから。そのくらいなら教えられるよ」
「先輩でしたか」
美希さんが慌てて頭を下げる。
「僕こそ、盗み聞きみたいなことしてごめんよ。英語なら僕も教えられると思うから」
そこから、英語は彼に教えてもらうことになった。
彼は、2年生の小林悠太先輩。
とても優しく、謙虚な人だった。
家に帰ると、母と桃花が何やら揉めていた。
「あんなヤンキーと関わっちゃダメ」
「りゅう兄ちゃんは優しいもん」
まさか……。
「どうしたの、2人とも」
「お母さんが、りゅう兄ちゃんのこと危ない人って言うの。そんなことないよね? りゅう兄ちゃん、いい人だもんね?」
桃花が涙目で私に同意を求めてくる。
「紬も、あのヤンキーと知り合いなの? あ、そういえば、あの制服、あんたの高校のだわ。優等生ばかりが通う学校かと思ってたのに、あんなヤンキーがいるだなんて」
「島崎くんは真面目だし、成績も私なんかより全然いいし、優しい人だよ」
私は、つい熱くなり、母に食ってかかっていた。
「あんな格好してる子が真面目なわけないでしょ」
鼻で笑いながら言う母。
私は、怒りが湧き上がってくるのを抑えることができなかった。
「人を見た目で判断するとか最低。お母さんはいつも自分が正しいと思ってるよね。私たちの言葉に耳を傾けようともしないで。そんなんだから、お父さんに逃げられんだよ」
そう言い捨て、私は家を飛び出した。




