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1人が楽だと思っていたのに、あなたと2人が楽しすぎて  作者: あぽぉ


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11/20

恋する乙女

放課後、下駄箱に向かっていると、1人の女子生徒に声をかけられた。

「春野さん?」

私を待っていたようだ。

「ちょっといいかしら」

そう言って、人気のない廊下へ連れて行かれる。

何を言われるのかと、ドキドキしながらついていくと、急に美希さんが私の方へ振り返った。

「春野さん、ごめんなさい」

彼女が頭を下げる。

突然の謝罪に、困惑している私を前に、彼女は続ける。

「私、龍二にとっくに振られてるのに、どうしても受け入れられなくて、また振り向いてくれるって信じて高校にまでついて来て。龍二は優しいから、話しかければ答えてくれるし、気遣ってくれるし。そんな龍二の優しさに甘えてたた、そばにいたかったから」

涙を浮かべる彼女。

「そんな時、中庭であなたと楽しそうにしてる彼を見かけて、居ても立っても居られなくなって、2人の間に割り込んで、あなたに不快な思いさせて、本当にごめんなさい」

再び、さっきよりさらに深く、頭を下げる美希さん。

「美希さん、もういいから、頭を上げて」

ゆっくりと頭を上げる彼女の頬に、涙が伝う。

「昨日、龍二に怒られて、目が覚めたの。自分勝手なことして、他人に迷惑かけるなって言われたわ。龍二と長く一緒にいるけど、あんな彼を見るのは初めてよ」

私は、制服のポケットからハンカチを取り出し、彼女に手渡す。

彼女は、「ありがとう」とそれを受け取り、止まらない涙を拭った。

「春野さんは、龍二のこと好き?」

「え、」

唐突な質問に動揺する私。

「わかんない。でも、私人付き合いが苦手なんだけど、彼とは気を使わず話せると言うか、一緒にいて落ち着くなーとは思う」

「わかるわ!なんか癒されるのよね。龍二からマイナスイオン出てるんじゃないかって思うの」

彼女の表情が、パッと明るくなる。

「春野さん、あなたといる時の龍二は、すごく穏やかないい顔してるわ。悔しいけど、私の前では見せなかった顔をしてた」

大きく深呼吸した彼女が、最後にこう言った。

「彼、ぶっきらぼうで、不器用で、優しすぎるところがたまに傷だけど、これからも仲良くしてあげてね。って私が言うなって感じだけど」

そして、「またね」と手を振りながら、美希さんは去って行った。

島崎くんのことが大好きな彼女のことが、少し可愛く思えた。

私もいつかあんな風に、自分の感情を抑えられないほどに、他人を好きになれる日が来るだろうか。


◇◇◇


帰宅すると、妹の桃花(ももか)が、席替えで好きな男の子の隣になったと、大喜びで母に報告している最中だった。

妹は、私と違って人付き合いが上手で、友達もたくさんいるようだ。

好きな男の子にも、積極的に話しかけているみたい。で、そのコミュ力分けてほしいと思う。


週末。

リビングでゴロゴロしている私を見つけ、近づいて来た。

「お姉ちゃん、今日はパン屋さん行かないの?」

「え、別に行く予定はないけど」

「なーんだ。あのチョコクロワッサンまた食べたいなー」

そう言ってうなだれる桃花。

「行ってもいいけど」

「やった。私も行きたい」

「じゃあ、一緒に行くか」

「わーい」

てことで、大喜びの妹と一緒に、島崎ベーカリーに行くことになった。


島崎ベーカリーに着くと、さらにテンションの上がった桃花は、これもこれもと次々にパンをトレーに乗せていく。

これでは、トレーがいくつあっても足りないので、ワントレーまでに絞るよう言い聞かせ、悩みに悩んでやっと選び終えた。

「あら、妹ちゃん?可愛いねー」

と、レジの島崎くんのお母さんに言われ、満更でもなさそうなリアクションの妹。


島崎ベーカリーを出て、早く食べたいとうるさい妹に促され、例の公園へ。

公園では、今日も子供達が元気に遊んでいた。

そして、彼の姿も。

「あ、りゅう兄ちゃんだ」

桃花が、駆け出す。

「おー、桃、ひさしぶりだな」

島崎くんが、駆け寄って来た桃花の頭を撫でる。

「え、桃花と島崎くん、知り合いなの?」

私が驚いて、尋ねる。

「あれ、春野も一緒か?」

彼も驚いている。

「りゅう兄ちゃん、お姉ちゃんのこと知ってるの?」

「桃の姉ちゃんか。知ってるぞ。友達だ」

友達。

そう思ってくれてるんだ。

「そうなんだ」

「桃花、そのお兄ちゃんとどこで会ったの?」

「ここだよ、時々この公園で遊んでくれるの」

「あーなるほど」

「ねぇ、りゅう兄ちゃんも一緒にパン食べよ」

そう言いながら、島崎くんの手を引っ張る桃花。


それぞれ意外な繋がりに驚きながら、私たちは公園のベンチに3人並んで座った。

嬉しそうにパンの袋を手に取る桃花。

動きが止まる。

「どうしたの?桃花」

「ねぇ、お姉ちゃん。さっきりゅう兄ちゃんのことなんて呼んだ?」

「島崎くんだけど」

パンの袋に書いてある店名を凝視する桃花。

「えー、パン屋さんと同じだ」

「おー、よく漢字読めたな」

わしゃわしゃと、桃花の頭を撫でる彼。

「もー、バカにしないでよ。私もう小学5年生だよ」

「そのパンは俺んちのだ」

「ほんとに?すごい!」

尊敬の眼差しで彼を見る桃花。

この子ったら、私と同じリアクションしてる。

「別にパン屋なんてどこにでもあるし、すごかねーよ」

とキャップを深く被り、顔を隠す。

こっちも、あの時と同じリアクションだ。

私は思わず、吹き出した。

「おい春野、何笑ってんだよ」

「ごめんごめん、なんか可愛くて」

「りゅうにいちゃん、可愛いってさー」

そう言って島崎くんを肘で突く桃花を、「うるせー」と言いながら頭を撫で回す彼。

じゃれ合う高校生男子と小学生女子。

私はそれを、微笑ましく見守っていた。


小学生と接している彼は、なんだかイキイキしていて、学校では見せない顔をしている。

ほんと、いいお兄ちゃんなんだよね。

『俺は実の妹にとって、いい兄になれなかった』

以前、彼が言っていたあの言葉の意味は、まだわからないでいた。

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