久しぶりのボッチ飯
翌日から、私は非常階段の踊り場でお弁当を食べることにした。
ここなら、人に見られることもないし、彼にも見つからないだろう。
久しぶりのぼっち飯は、以前より少し寂しく思えた。
これでいいんだ。
これが楽なんだ。
階段に座り、踊り場から見える真っ青な空を見上げた。
梅雨が始まったにもかかわらず、空には雲ひとつない。
吸い込まれそうな空だった。
私は思わず、身を乗り出して空を仰いだ。
ふと下を見ると、赤髪の男子と黒髪ロングの女子が、木の下に座っていた。
しまった。
ちょうど中庭が見える位置だった。
私は頭を低くし、2人の様子を伺う。
なにやってんだ私。
これじゃあ覗きじゃないか。
この場から離れようとした、その時、
島崎くんの怒鳴る声が下から聞こえた。
「いい加減にしろよ」
彼のあんなに大きな声を聞くのは、初めてだった。
もう一度、中庭を見下ろしてみる。
その後の会話は聞こえなかったが、何か揉めているのは明らかだ。
そして、美希さんが顔を覆いながら、走って中庭から出ていった。
これは、ただ事ではない。
もしかして、私が行かなかったのが、原因か?
居心地が悪かろうが、我慢して3人で食べるべきだったのか?
あー、胸が苦しくなってきた。
食べかけのお弁当を片付け、昼休みが終わるまで、ただ階段に座って呆然としていた。
翌日。
少し迷ったが、今更ひょこひょこ中庭に戻ることはできず、今日も非常階段へ向かう。
昨日の踊り場に着き、やっぱり気になって中庭を覗く。
しかし、誰もいなかった。
昨日の今日だから、また2人で並んで食べるはずはないと思ったが、島崎くんもいないとは。
どこで食べてるんだろう。
その時、非常階段の扉が開く音がして、誰かが階段を上がってくる。
え、誰?先生だったら怒られるかも。
ドキドキしながら、階段の下を覗き見ると、1人の男子生徒が上がってきた。
「あ、いた」
「島崎くん?」
彼が私の前に立つ。
「どうしてここが?」
「中庭から見えた」
気づかれてた。
彼が、私の前に2つのパンを差し出した。
「メロンパンとグラタンパン、どっちがいい?」
「えー、食後にメロンパン食べたいけど、グラタンパンも捨てがたい」
「本気で迷ってんじゃねーよ」
プッと吹き出し、笑う彼。そして、私の手に両方のパンを握らせた。
「島崎くんの分は?」
「ある」
そう言って、サンドイッチを私に見せる。
「ありがとう」
私と島崎くんは、並んで階段に腰を下ろした。
しばしの沈黙の後、彼が口を開く。
「美希がいろいろ、ごめんな。あいつ強引だから」
「ううん。私こそ、勝手に場所変えてごめん」
「あいつ、何か失礼なこと言わなかった?」
「いや、言ってないよ。ただ、ちょっと苦手なタイプかも」
「だと思った」
苦笑いを浮かべる彼。
彼は、一呼吸置いて、話し出した。
「付き合ってたんだ。中学の時、美希と」
「え、」
「でも、中3の時に、俺から別れを切り出した」
サンドイッチを見つめながら、彼が続ける。
「美希は聞き入れてくれなかった。高校も美希に内緒で離れたところを選んだけど、どこからか情報を聞いてついて来た」
「そうなんだ……」
「俺も悪いんだ。彼女の涙を見ると息が詰まって、ちゃんと突き放せなかった」
「でも、昨日美希さんに怒ってたよね?」
「聞こえてたか」
「ごめん、いい加減にしろよってところだけ聞こえちゃった」
「あー、ちょっと頭に血が上った」
頭を抱える彼が、大きくため息をついた。
「とにかく、もう春野に美希を近づけないようにするから」
「そこまでしなくていいよ。私が勝手に苦手意識持ってるだけで、何かされたわけでもないし」
「俺たちの昼休みに、勝手に乱入してきたじゃん」
俺たちの昼休み、なんだかその響きが、無性にむず痒くて嬉しかった。
「とにかく、中庭に戻って来いよ」
彼に真っ直ぐに見つめられ、心臓が跳ねる。
「うん。戻ろう」
お互いに頷き合い、いつもの木の下へ、2人並んで歩いた。




