第8話:トラップルームと、暇すぎる魔王
「人は奇跡を信じたい生き物だ。特に、絶望の淵に立たされた時ほど――」
最強の『勘違い英雄』レオン・ヴァルハイト。彼がなぜそこまで仲間の言葉や魔法を過剰に信じ込み、覚醒するに至ったのか。その原点となる、過去の「とあるトラップルーム」での記憶。
そして一方、現代の魔王城では、世界を揺るがす存在となるはずの少女が、果てしない「退屈」と戦っていた――。
――数年前、ダンジョン深部。
最初のモンスター群を片付け、ひと休みを終えたEランクの駆け出しパーティー――弓手の少年**ロイ**、魔法使いの少女**エリーナ**、シスター風の少女**クララ**、そしてボロボロの防具を身に纏った剣士**レオン**の四人は、さらにダンジョンの奥へと足を進めていた。
やがて彼らは、どこか異様な雰囲気を漂わせる大広間の前にたどり着く。
大広間の中は無駄に豪華で不自然なほど静まり返っていたが、何より目を引いたのは、中央にでんと鎮座する豪華な『宝石飾りの宝箱』だった!
「すっげえ! 宝箱だぞ!」
ロイは興奮で目を輝かせ、冒険者特有の血をたぎらせた。
「これだよこれ! これこそ冒険って感じだろ!」
「待て、ロイ! 飛びつくな――」
胸騒ぎを覚えたレオンが制止しようとする。
だがロイは聞く耳を持たず、一目散に部屋の中へと駆け出してしまう!
「ちょっと待ちなさいよロイ! 一人占めはズルいわよ!」
「あ、待ってください二人とも――!」
エリーナとクララも慌てて後を追うように部屋へ雪崩れ込んだ。
「入るな、お前たち――っ!」
レオンは全速力で駆け出し、三人をとめようと部屋へ飛び込んだ。……しかし、自分の足が部屋の境界線を越えた瞬間、レオンはある痛恨の事実に気づく。自分自身も部屋の中に踏み込んでしまっていたのだ。
――ガギィィィンッ!
背後の巨大な石扉が猛烈な音を立てて閉ざされ、ロックされる!
同時に、石扉の表面に禍々しい赤い魔法文字が浮かび上がった。
【ダンジョン・トラップルームの規則】
・部屋内の『全モンスターが殲滅される』まで、扉の封印は解除されない。
「逃げ道はなしか……!」
湧き出し、部屋を埋め尽くしていく数十匹の魔物群を鋭い視線で見回すと、レオンは即座にリーダーとしての指示を飛ばした!
「全員パニックになるな! 下がって三角陣形を組むぞ!」
牙を剥いて襲いかかってくる魔物たち。レオンは戦況を瞬時に分析し、矢継ぎ早に指示を出す。
「ロイ! 左からゴブリンが三体来てる、狙撃で牽制しろ!」
「わ、分かった! 『イーグルスナイプ』――っ!」
パニックになったロイの手が大きくブレる。放たれた矢は標的から半メートルも逸れ、虚しく壁に突き刺さった!
「チッ……エリーナ! 右からの挟み撃ちを炎魔法で防げ!」
文句を言う暇もなく、レオンは次の指示へ移行する。
「大、大いなる炎よ……あれ? 詠唱ってなんだっけ!?」
焦りから詠唱を噛みちぎったエリーナの手から出たのは、へろへろとした黒煙のみ。直後、ホブゴブリンの棍棒で殴り飛ばされた!
「クララ! 下がってエリーナを急いで回復しろ!」
「か、神よ……『ライトヒール』……きゃああっ!?」
恐怖で正気を失ったクララは、無傷の自分に回復魔法をかけ続けた挙句、魔物の毒胞子を浴びて倒れ込んだ!
レオンの的確な戦況判断と指揮にもかかわらず、メンバーの実戦経験不足により陣形は一瞬で崩壊。
――ドガッ! ドカッ!
三人全員が戦闘不能となり、地面に転がった。
**遺されたのは、レオンただ一人。**
そしてトラップルームの規則に従い……最後の魔物を殲滅するまで、石扉が開くことは二度とない!
「くそっ……!」
レオンは歯を食いしばり、一人で戦線を維持した。ボロボロの剣を振るい、部屋を埋め尽くす魔物の群れを切り伏せていく。一人きりの過酷な戦い。疲労が蓄積し、視界が次第に霞んでいく……。
――ドサッ!
大型ホブゴブリンの巨大な斧が、レオンの胴体を直撃した!
鮮血が舞い散り、レオンは地面へ叩きつけられる。手から剣がこぼれ落ち、血の海の中で虫の息となった。
(ここまで……なのか……。逃げることもできず……誰も守れなかった……)
意識が途切れかけたその時――
隣で倒れていたクララが、わずかに残った意識で震える指先をレオンへ向けた。
「レ……レオン……さん……『ライト……ヒール』……」
――フワッ!
温かな光の粒がレオンを包み込む。
傷口がかすかに塞がり、**レオンのHPが約20%ほど回復した。**
――しかし、まさにその瞬間だった!
――カッ!
霞んでいたレオンの瞳に、圧倒的な闘志の光が宿る!
HPはたったの20%しか回復しておらず、全身血まみれのままであるにもかかわらず――彼の体から溢れ出すオーラと速度は、まるで鬼神のごとき変貌を遂げていた!
レオンは震える脚で力強く立ち上がる。
(クララ……意識を失いかけているのに、命がけで俺を回復してくれた……! クララのヒールが、俺に力をくれたんだ……!!)
「うおおおおおおおっ!!」
レオンは咆哮とともに剣を握り直し、魔物の群れへ突撃した! 満身創痍の体からは想像もつかない速度と破壊力で、次々と魔物を一閃のもとに切り捨てていく!
――ズバァン! ズバァン! ズバァン!
ほんの数分後――最後の魔物が絶命し、地面へ倒れ伏した。
――ゴゴゴゴゴ……!
全ての敵が消滅したことで、扉の赤い魔法文字が消え去り、巨大な石扉がゆっくりと開き放たれた。
レオンは三人の無事を確認すると、糸が切れたように意識を失い、そのまま床へと倒れ込んだのだった……。
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【魔王城:暇すぎる魔王とWi-Fi】
――場面転換:現在の魔王城。
静寂に包まれた広大な玉座の間。
ハイレグの黒レザーボディスーツに身を包んだ凛は、玉座で頬杖をついていた。
ジト目(死んだ魚のような目)で誰もいない広間を見回し……そのまま視線を下げ、直立不動で警戒に当たる副官**ガスカル**を見下ろす。
凛は小さくため息をつき、もう一度広間を見回してから、再びガスカルへ視線を戻した。彼は一ミリたりとも微動だにせず立ち続けている。
(……シーンとしてて、マジでやることがありませんね……)
本日二度目のため息をつくと、凛はスマートフォンを取り出し、例の**女神**へ通話をかけた。
「魔王のコスプレモデルとして座っていればいいと言われましたけど……流石に暇すぎませんか」
凛は淡々とした声で切り出した。
(『ポリポリ……サクサク……』と、受話器の向こうから女神がお菓子を貪る音が聞こえてくる)
「あら? マンガ読むなりスマホで動画でも観て暇つぶしすればいいじゃない! 魔王城全体にWi-Fi飛ばしておいてあげたんだから!」
女神は適当な調子で返してきた。
「そうですか……」凛は少しだけ眉をひそめた。「この世界にWi-Fiがあるなんて、初めて知りました」
「えっ? 言ってなかったっけ? まぁいっか!」女神はからからと笑った。「そんなに暇なら、こっそり外に出てモンスター倒したりダンジョンでレベリングでもして暇つぶししてくれば?」
スマホを耳に当てたまま、凛はジト目で心の中で呟くのだった。
(……今のステータスとスキルを見る限り、これ以上レベル上げする必要なんて無さそうですけど……)
ご愛読ありがとうございます!
レオンの過去回想編はここで一旦一区切りとなります。
一生の勘違い(?)を背負うことになったレオンの原点、いかがだったでしょうか。
【次回予告:第9話】
たった一人の「従業員」であるガスカルの真面目すぎるブラック働きぶり(?)を見かねた凛。
そして女神の軽薄なアドバイスをきっかけに、ついに魔王城の重い扉が外に向かって開かれる――!?
「……まあ、レベル上げは不要ですけど、この世界の『現実』くらいは見に行ってあげましょうかね」




