オフィススーツと魔王の制服
いつもお読みいただきありがとうございます!
第6話です。
実家で朝食をとる凛ですが、お母さんから「魔王の仕事着」について思いがけない提案(という名の強制)が……!?
お母さんの優しさと駄女神の性癖が激突する衣装トラブル、そしてついに明かされる「勇者」の真実をお楽しみください!
――ジリリリリッ!
聞き慣れた目覚まし時計の音が部屋に響く。
昨夜の騒動を終え、実家のベッドで熟睡した凛は静かに目を覚ました。
顔を洗い、歯を磨き、いつものモーニングルーティンを済ませてリビングへ下りていく。
朝のリビングには、味噌汁の香ばしい匂いと鮭を焼くいい匂いが漂っていた。
父親は新聞を読み、母親は楽しそうに朝食の準備をしている。
「おはよう、凛。夕べはよく眠れた?」
「おはよう、お母さん。ぐっすり眠れたよ」
凛は食卓につき、母親の手料理をおいしそうに口へ運んだ。
食事の途中、母親がふと思い出したように首をかしげる。
「ところで凛、今日は魔王のお仕事にどんな服を着ていくの? まさかパジャマのままじゃないでしょうね?」
「ダボッとしたTシャツとスウェットみたいな、楽な格好にしようかなって……」凛はご飯を噛み締めながら答えた。「どうせ玉座でゴロゴロしてるだけだし」
「ダメよ、そんなの!」
母親は即座に否定すると、バタバタと二階へ駆け上がり、綺麗にアイロンがけされた服を手に戻ってきた。
「これを着ていきなさい! ママが昔、会社で着てたオフィススーツ!」
母親が胸を張って差し出したのは、白い長袖ブラウスに黒のタイトスカートという、コテコテのオフィススーツだった。
凛は引きつった顔でそのスーツを見つめる。
「えっと……ちょっと堅苦しすぎない? 私はただ、楽な服で行きたいんだけど……」
「ううん、色が幾分きちんとした格好をして行きなさい!」
母親は目を輝かせながら猛アピールする。
「これなら『清潔感があって、まじめでしっかりした仕事人』に見えるでしょ! たとえ魔王だって、だらしない格好をしてたらナメられるわよ。きちんとした社会人として働きなさい!」
母親からの「ちゃんとした格好をしなさい」という無言のプレッシャー。
凛は死んだ魚の目になり、静かにため息をついた。
(……お母さんの押しには勝てませんね。まあ、言われた通りにしておきましょう……)
「……わかりました」
凛はスーツを受け取り、部屋で着替えた。
鏡に映ったのは、清楚でまじめなオフィスガール風の女子高生姿。母親の思惑通りの「きちんとした社会人」の完成である。
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【午前8:00整:崩れ去った「まじめな格好」】
両親に「行ってきます」と告げ、凛は次元ポータルをくぐって魔王城へと出勤した。
しかし——
――カチッ!
システムクロックが【午前08:00】を告げた、まさにその瞬間!
パチンッ! と音を立ててブラウスのボタンが弾け飛び、スカートのファスナーが勝手に下りて床へ滑り落ちた!
「えっ……?」
呆然とする凛を置き去りにし、彼女の体がふわりと宙へ浮かび上がる。
体が半透明になり、周囲にキラキラとした魔法の粒子が旋回し始める。どこからともなく流れるBGM——まさにアニメの魔法少女の変身シーンそのもの!
――パッ!
光が収まり、凛が床に着地した時には——
黒のハイレグ革ボディスーツに龍の角を生やした、『完全なる魔王仕様』へと変貌を遂げていた!
(お母さんががんばってアイロンをかけてくれた清楚なスーツは、一瞬で露と消えた……)
凛がシステムの嫌がらせにジト目を向けていると、後ろをついてきていた獣人族の配下『ガスカル』が足を止めた。
持っていた書類と皿をガッシャンと床に落とし、顔を真っ赤にして口をパクパクさせている。
(※ちなみにガスカルは、前日凛に「0秒KO」されて以来、『強さこそ全て』という獣人の本能が刺激され、凛を神として崇拝するようになった。今やどこへ行くにもついてくる金魚のフン状態である)
「ま、魔王様……それは……!?」
「……着替えてくる。ガスカルはそこで待ってて」
凛はため息をつき、床に落ちた母親のスーツを拾って控室へ向かおうとした。
しかし、ドアノブに手をかける前に、頭の中で機械的なシステムアナウンスが響き渡る。
【システム通知:勤務時間内の制服変更の試みを検知しました】
・勤務時間(08:00〜17:00)内のため、雇用契約に基づき他の衣装への着替えを拒否します。
・雇用契約書の記載:『勤務時間中、従業員は常に指定の制服(魔王衣装)を着用すること』
・雇用主(神)による補足理由:『完全に雇用主の個人的なフェチと性癖を満たすためです!』
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【駄女神との対決、そして勇者の真実】
――パッ!
凛は迷わず転移魔法を使い、空間が遮断された神界の駄女神の自室へと乗り込んだ。
「これ、どういうことですか?」
凛は無表情のまま、背後にどす黒い殺気を漂わせて問い詰めた。
お菓子を食べていた女神はびくっと跳ね上がり、冷や汗をダラダラ流しながら必死に言い訳を始めた。
「だ、だってー! なんというか……そ、そう! コスプレよ、凛ちゃん!」
女神は声を裏返しながら叫ぶ。
「セクシーで威厳のある魔王のコスプレ! 配下のモンスターたちを見下して服従させるため、人間どもを怯えさせるための企業ブランディングよ!」
(※真相:女神が好きなゲームのキャラを模して魔王のアバターを作成し、勤務時間中はその服を強制着用するよう世界の基幹プログラムを書き換えただけである)
凛は呆れ果ててため息をついたが、ふと思い出した疑問を口にした。
「まあいいです……。ところで、私に魔王城でまったり過ごさせるつもりなら、なんでわざわざ『勇者』なんて存在を作ったんですか? 自分から首を絞めてませんか?」
その問いを聞いた瞬間、女神は目を丸くし、ぶんぶんと手を振って否定した。
「ち、違うわよー! 私が勇者を任命したり生み出したりしたわけじゃないわよ! あっちの人間どもが勝手に盛り上がって、勝手に『勇者』って持ち上げてるだけなんだから!」
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【場面転換:西の辺境】
前日、魔王城を目指して進軍していたはずの眩い鎧に身を包んだ大軍勢——。
今や、騎士も魔導士も凄腕の戦士たちも、全員が草原の上で全滅し、横たわっていた。
そんな静寂に包まれた戦場の中で——
――ピクッ
土に汚れた手が、ゆっくりと地面を押し上げた。
傷だらけの鎧、数々の修羅場をくぐり抜けてきた傷跡のある顔。
貧しい村の少年から、血の滲むような努力で幾多の修羅場をくぐり抜けてきた男。
「勇者レオン」は、ゆっくりと目を覚ました。
その瞳には、世界を守るという揺るぎない意志と熾烈な光が宿っていた——。
ご覧いただきありがとうございました!
お母さんの「きちんとした社会人になってほしい」という優しさは、駄女神の個人的な性癖(システム権限)によってわずか数秒で打ち砕かれてしまいました……(笑)
そしてラストで明かされた「勇者は神が作ったのではなく、人間が勝手に祭り上げた」という衝撃の真実!
次回・第7話からは、いよいよ【勇者レオン編】が本格始動します!
過酷な運命に立ち向かう彼の熱い(?)半生をお楽しみに!
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