第52話:伝説の大災厄と、全く動じない魔王たち
読者の皆様、こんにちは!
第52話をお届けいたします。
今回は、無事にクエストから帰還した勇者レオンとリン2の甘酸っぱい再会……になるはずだったところへ、伝説の大災厄「水帝竜ネレーア」の襲来報告が飛び込んでくるお話です。
人間界にとっては世界滅亡レベルの危機のはずが、魔王城の面々にとっては完全に温度差がありすぎる展開をお楽しみください!
「...」
リンはゆっくりと足を進め、王座の間へと向かっていた。そのすぐ後ろには、リン2がピタリとついてきている。
リンはチラリと後ろを振り返り、我が身から生まれた分身の顔を盗み見た。
リン2が必死になって高鳴る胸のときめきを隠そうとしている様子を見て、リンは思わず口元をほころばせた。
もちろん、相手に気づかれないよう、ごく自然に……。
大広間の中央に到着すると、旅の甲冑に身を包んだ勇者レオンが、魔王の姿を認めるなり恭しく片膝をついた。
「報告いたします、魔王様……。無事に城へと帰還いたしました」
レオンは凛とした声で言葉を紡ぐ。
「任務はつつがなく完了いたしました。明日より、再び通常の送迎業務に復帰いたします」
「分かったわ」
リンは静かに頷くと、隣に立つ分身へと視線を向けた。
「それじゃあ……リン2、勇者を部屋まで送ってあげて。それと、明日からの送迎もよろしくね」
「は、はいっ!」
リン2の声が上ずった。
その愛らしい頬が瞬く間に朱に染まっていく。彼女は思わず視線を上げてレオンを見つめ——ちょうど彼も顔を上げたところだった。
二人の視線が空中ではっきりと交差する。
フッ!
二人は慌てて互いから目をそらした。
レオンは照れくさそうに首筋をかき、リン2はパニックになりながら自身のつま先を見つめ込んでいる。
リンはその光景を冷ややかな目で見つめた。
(二人とも、本当に素直じゃないわね)
そして、小さく溜息をつく。
(私、自分の分身のキューピッドまでやらなきゃいけないのかしら……)
◇
シューン!
甘い雰囲気が漂い、今にも甘い空気が爆発しそうだったその瞬間、大広間の中央に転移の魔法陣が眩く輝いた。
現れたのは女神ガシャラ。泣きそうな顔をしたエルフの女王シルフィリアの袖を引っ張りながら登場した。
「リンちゃん! 今夜こそランクマッチいくわよ!」
周囲の空気などお構いなしにガシャラが大声で叫ぶ。
リンが断りの言葉を口にする前に——
タッタッタッ!
廊下の奥から急慌ただしい足音が響いてきた。
魔族の筆頭将軍ガズガルが、今にも泡を吹きそうな青ざめた顔で大広間へ駆け込んできた。
彼は魔王の足元へ転がるようにひざまずく。
「ご無礼をお許しください、魔王様! 大変な事態が発生いたしました!」
ガズガルは息を切らしながら報告した。
「我が領域の see 南方上空にて……太古の竜『水帝竜ネレーア』が出現いたしました!」
「ネレーアだと?!」
レオンとシルフィリアが同時に声を上げた。
二人の顔からは一瞬で血の気が引いていく。
一方……。
リン、リン2、そしてガシャラの三人は、示し合わせたかのように同時に首をかしげた。
「...」
三人とも全く同じような顔をしている。
(何をそんなに騒いでいるのかしら?)
ハッと正気に戻ったシルフィリアが、震える声で慌てて説明を始めた。
「も、申し訳ありません、魔王様! 水帝竜ネレーアといえば……かつて古代大陸を丸ごと一つ海に沈めたとされる、伝説の超巨大災厄ですよ?!」
「俺も以前、炎竜イグニアとの死闘をくぐり抜けたばかりだというのに……」
レオンは腰の剣の柄を強く握りしめ、険しい表情を浮かべた。
「今度はネレーアまで現れるとは……」
シルフィリアは驚愕の眼差しでレオンを見つめた。
「勇者様は、あの炎竜イグニアと戦われたことがあるのですか?!」
「ああ」
レオンは頷いた。
「討伐には国中の兵士と冒険者を総動員し、まさに死力を尽くした凄絶な戦いだった……」
「あー……あのトカゲたちのこと?」
ガシャラは興味なさそうに耳をほじくっている。
「そうですわ!」
シルフィリアは何かを思い出したように、パッと表情を明るくした。
「私たちには女神様がいらっしゃるではありませんか!」
「それは無理よ、シルフィリアちゃん」
ガシャラは胸を張り、腕を組んで極めて誇らしげに言い放った。
「私が人間界の出来事に直接干渉することはできないの。だってそれは……」
彼女は一拍置いた。
「私が自分で作ったルールだから!」
「...」
シルフィリアは言葉を失った。
結局、彼女は救いを求めるようにリンへと視線を向けた。
「ならば……魔王様にお願いするしかありませんわ」
リンは剣を抜かなかった。
呪文を唱える気配すら見せない。
ただ、ポケットからアップデートされた愛用のスマートフォンを取り出しただけだった。
「ねえ、[女神の領域]は発動しないの?」
スマートフォンが怪しく光を放ち、AIの美しい合成音声が響き渡った。
【当システムは『あなたにとって有害な脅威』のみを排除するよう設定されております。水帝竜ネレーアのエネルギー構造を解析した結果、あなたに対する危険度は『皆無』と判定されました】
「...」
部屋全体が静まり返った。
レオン、シルフィリア、そしてガズガルは顎が外れんばかりに口ぐうぐうと開けている。
顔を蒼白にし、言葉すら失っていた。
(かつて大陸を沈めた伝説の超大災害が……)
(『危険度皆無』だなんて判定されるなんて?!)
リンは軽く肩をすくめた。
彼女にとって、こんなことは驚くにあたらない日常の一コマに過ぎない。
リンは自身の分身へと向き直った。
「リン2……あいつを領域の中に引きずり込んで、片付けてきて」
「承知いたしました」
リン2は頷いた。
先ほどまで照れくさそうに輝いていた美しい瞳が、一瞬で氷のように冷ややかに冴え渡る。
その時——
「リン2ちゃん!」
ガシャラが慌てて割って入ってきた。
「絶対に殺しちゃダメだからね!」
リン2は動きを止めた。
彼女はガシャラを振り返る。
「……どうしてですか?」
ガシャラはニヤリと悪巧みのような笑みを浮かべた。
「理由は後で教えてあげるから!」
リン2はしばらく女神を見つめていたが、やがて頷いた。
「分かりました」
そして、再び空間の扉へと視線を向ける。
その瞳には、再び確かな闘志が宿っていた。
伝説の大災厄……。
他の者にとっては国を挙げて立ち向かうべき絶望的な脅威。
だが、リン2にとっては……
片付けるべき、単なるもう一つのタスクに過ぎない。
そして今、彼女には明確な命令が下されたのだから。
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第52話をお読みいただき、ありがとうございました!
ついに伝説の大災厄、水帝竜ネレーアが姿を現しました!
しかし、魔王城の面々にとっては恐怖どころか「危険度ゼロ」の判定が出されるという相変わらずの温度差です。
「あなたに対する危険度は皆無です」と言われた瞬間の、レオンたちのドン引きした表情が目に浮かびますね。
そして、ガシャラがリン2にネレーアを「殺すな」と命じた本当の理由とは……?
次回、リン2による圧巻の(?)バトルと、ネレーアの運命をお楽しみに!
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