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第50話:絶界次元と女神のキャリーパーティ

みなさんこんにちは!『魔王様と勇者パーティー』第50話をお届けします!

前回は巨大なトンネルを一瞬で開通させるという恐ろしい魔法を見せたリンですが、今回は魔王城の平和(?)な日常回です。リンの分身である「リン2(ツー)」の秘密や、女神ガチャラの相変わらずのわがままっぷりをお楽しみください!

リンが所持する魔法の奥深くに、ある変化が静かに生じていた……。


もともと『女神の結界』はオートで発動する防衛スキルだった。侵入者や敵が領域に入り込むと、システムが自動的に「リンの分身」を生成して撃退し、戦闘が終われば消滅する仕組みだった。


しかし、その分身は徐々に「自身の意志」を獲得し始めていた。感情、欲望、そして明確な存在感が強まるにつれ、『女神の結界』は一時的な領域から「絶界次元」へと進化を遂げた。それは女神ガチャラが棲む次元と同等の安定性と永続性を持つ、独立した空間だった。


言い換えれば……


『絶界次元』は新しいスキルではない。


『女神の結界』が完全に独立した次元へと進化した姿なのだ。


そのため、リンの分身——「リン2(ツー)」は消滅することなく、その次元の中で永続的に暮らすことができるようになった。


とはいえ、外の世界へ出た場合、彼女の体が維持できるのはまだ限られた時間だけだった(その時間も徐々に伸びてはいるが)。そのため、リン2は限界が来る前に、書類仕事や簡単な任務をこっそり手伝っては次元へと戻っていくのが日課となっていた。


リン自身も分身の存在や感情の変化にずっと前から気づいていた。暇な時間を見つけては次元の扉をくぐり、リン2とお茶を飲んだりおしゃべりをして過ごしていた。


もちろん女神ガチャラもリン2の存在を知っており、リン本体がわがままを聞いてくれない時の「頼れる助っ人」として、頻繁にその次元に出入りしていたのだった。


◇


ここは魔王城……。


東方山脈のトンネル開通作業を終えた、ある日の日の暮れ頃。


応接室には魔法の温かな光が満ちていた。ふかふかのソファにちょこんと座ったガチャラは、眉間にシワを寄せてスマホの画面を睨みつけていた。背景にはどんよりとした暗いオーラが漂っている。そして、隣で背筋をピンと伸ばして座っているエルフの女王・シルフィリアの腕をツンツンとつついた。


「ねえねえ、シルフィリアちゃん! 今夜はランクマッチのパーティー組もうよ! 準備はバッチリだから!」


「えっ……? ら、ランクマッチですか、女神様?」


シルフィリアは目をパチクリさせて困惑した。


「そうよ! でも、私たちのパーティーには強力なキャリー役(無双してくれる人)が足りないの……」


ガチャラはバッと振り向き、対面のソファで異世界の漫画をのんびり読んでいるリンを睨みつけた。


「リンちゃ〜ん! 私のランク上げて(キャリーして)よ〜!」


「ヤダ」


リンは手元の本から目を逸らしもせず、即答した。


「今夜は漫画を読んで頭を休めるの。ゲームなんて絶対にやらない」


「あ〜っ! リンちゃんのいじわる!」


ガチャラは唇を尖らせて駄女神(ダメめがみ)のダダをこね始めた。


「今夜また負けたら、私プラチナランクまで落ちちゃうんだからね!?」


「前回、コマンダーランクまで引き上げてあげたばかりでしょ?」


リンはジト目でガチャラを見た。


「なんでそんな一気に落ちてるのよ?」


「だって……ソロで野良(知らない人)と組むと、変なチームばっかり当たるんだもん! 連敗しまくって星がボロボロ落ちちゃったの!」


ガチャラはソファの上でゴロゴロ転がりながら、部屋中に響き渡る声で泣き叫んだ。


「あんあぁぁん! キャリーしてよリンちゃん! 助けてぇぇぇ!」


シルフィリアは置物のようにカチコチに固まっていた。


(一瞬で山を吹き飛ばす魔王様と、世界を創った女神様が……ゲームのランクで揉めているなんて……)


エルフの女王は心の中で呟くだけで、口を挟む勇気など微塵もなかった。


しばらくギャーギャーと騒いでいたガチャラだったが、リンが完全にスルーしているのを見ると、まるでスイッチが切れたようにピタリと泣きやんだ。そして何かを思いついたように、首を傾げてニヤリと笑った。


「そっか……リンちゃんに頼む必要なんてないじゃん!」


ガチャラは満面の笑みでシルフィリアに頷いてみせた。


「リン2ちゃんを誘えばいいんだ! プレイスキルはリンちゃんと同じだし、リンちゃんみたいにいじわるじゃないしね!」


シルフィリアはビクッと体を強張らせ、恐る恐るリン本体の方を確認してから、慌ててガチャラに向き直った。


「は、はい! 女神様! ですが……魔王様の分身様をゲームに誘うなんて、彼女のお邪魔になりませんか?」


「邪魔なわけないでしょ! リン2ちゃんはとっても優しいんだから!」


ガチャラは胸を張って答えると、シルフィリアの耳元に顔を寄せてヒソヒソと囁いた。


「もし断られそうになったら、『女神様が一緒に遊びたがっている』って言えばいいのよ」


「それ……お誘いじゃなくて、あからさまな圧力です……!」


シルフィリアは思わずツッコミを入れてしまい、慌てて自分の口を押さえた。


ガチャラはパチクリと目を丸くした。


「えー? 自分のネームバリューを有効活用してるだけじゃない」


「女神様のネームバリューは、脅迫より恐ろしいのですが……」


シルフィリアが小声でボソッと呟いたが、ガチャラは聞こえないフリをした。彼女は目を閉じると、『女神の結界』を通じて、外の世界とは隔絶された絶界次元へと念話を送った。


ほんの数秒後、応接室の中央の空間がグニャりと歪んだ。


——フッ!


リンと全く同じ容姿、顔立ち、髪色をした少女が、静かな足取りで空間の亀裂から現れた。


リン2は部屋の雰囲気を見渡すと、ソファで横になっているリン本体に向かって柔らかく微笑んだ。


「やあ、リン2」


リンが声をかける。


「駄女神が迷惑かけたでしょ?」


「少しだけ……」


リン2は穏やかな声で答えると、ガチャラとシルフィリアに視線の向きを変えた。


「でも、私もみんなと遊びたかったので」


「ほーらね! 迷惑じゃないって言ったでしょ!」


ガチャラはドヤ顔でVサインを作った。


シルフィリアはリン2に向かって丁寧にお辞儀をした。


「お手を煩わせてしまい申し訳ありません、リン2様。ですが女神様がその……」


「ちょっと待った!」


ガチャラが慌てた声を上げ、シルフィリアの口を手で塞いだ。


「余計な説明はいらないの! 私の尊厳がかかってるんだから!」


リン2は二人を見つめ、クスッと微笑んだ。


「分かりました。どうやら今夜の女神様は、とても大変な状況のようですね」


「そうなの! 超大変なの! プラチナに落ちそうなの!」


「ふふ、そういうことですね」


リン2は理解したように頷いたが、口元の笑みがほんの少し濃くなった。


「それなら、お手伝いしますよ」


「やったあああ! リン2ちゃん大好き!」


ガチャラはソファの上でぴょんぴょん跳ねて喜んだ。


リン本体は漫画のページをめくりながら、顔も上げずに呟いた。


「ほらね、普通に頼めば手伝ってくれるでしょ。私を巻き込まないでよ」


ガチャラはリンをバッと振り返った。


「リンちゃん見てなさいよ! 自力(リン2ちゃんのキャリー)でコマンダーに戻ってみせるんだから! フンだ!」


「はいはい」


「ふふっ!」


ガチャラは笑うと、体内から聖なる魔力を高めた。


**【発動:女神の結界】**


薄ピンク色のオーラが魔王城全体を優しく包み込んだ。


これは新たな絶界次元を作ったのではない。


『女神の結界』の範囲を現実の魔王城全体に広げることで絶界次元とリンクさせ、リン2の存在を安定させるためのサポートだった。


瞬間、リン2は次元の外にいる時にいつも感じていた「存在を削られるような圧迫感」が、ほぼゼロまで和らいでいくのを感じた。


「よし! これで長時間のプレイもバッチリね!」


ガチャラは誇らしげに胸を張ると、手をサッと振った。


女神の創造スキルが発動し、異世界の記憶とデータベースから再現されたアイテムが実体化した。


「神仕様・特製ゲーミングPCセット」


なんとそれが一気に3台も出現したのだ!


RGBライティングでピカピカ光るPCケース、高リフレッシュレートの曲面モニター、メカニカルキーボードにヘッドセットが、長テーブルの上に整然と並べられた。


「さあ! 機材良し、キャリー役良し!」


ガチャラは一番目の席にテンション高く座った。


「シルフィリアちゃんはこの席ね! リン2ちゃん、今夜は私をコマンダーまで連れて行ってね!」


シルフィリアは目の前の豪華すぎるPC機器に戸惑いつつも、ガチャラに教えられた通り恐る恐るボタンに手を置いた。


「このボタンで移動、このボタンで攻撃よ!」


ガチャラが早口で説明する。


「あの……中央にあるこの大きな赤いボタンは何ですか?」


「あ、それ絶対に押さないでね!」


「なぜですか?」


「だってそれ、『サレンダー(降参)』ボタンだもん!」


シルフィリアはゆっくりとガチャラを振り返った。


「……なぜそのようなボタンを、私の手元近くに配置されたのですか?」


ガチャラは一瞬固まったが、すぐに画面を指差した。


「い、いいから! 細かいことは気にしないの!」


一方、リン2は三番目の席に座り、慣れた手つきでヘッドセットを装着した。しなやかな指先をマウスとキーボードに置き、ゲーマーとしての戦場へ入る準備を整える。


ソファには変わらずリン本体が横たわっている。


やがて、部屋の中には楽しげな笑い声、作戦を立てる声、そしてキーボードを叩くカタカタという音が夜通し響き渡った。


リン本体はソファからその騒がしい光景を眺め、口元に小さな笑みを浮かべながら、再び幸せそうに漫画のページをめくるのだった。


魔王城の、とても平和で賑やかな一夜であった……。


---

最後までお読みいただきありがとうございました!

第50話では、リン2の秘密と『絶界次元』の仕組みが明かされました。切ないテーマ(楽曲『ร่างเงา - Illusion』)を持つリン2ですが、みんなとゲームをして過ごす時間はとても楽しそうですね!


さて、次回は少し雰囲気が変わり、リン2の抱える「切なさや憂鬱」にスポットが当たります。そしてその先には、あの水龍の古代竜「ネレイア」とのバトルも……!?

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