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第11話:魔王、人間界の市場で買い出しをする(※外交フィルター発動中)

皆さんこんにちは!

> 今回はリンちゃんが新鮮な野菜と小麦粉を求めて、人間界の市場へ買い出しに行くお話です。

> 勘違いフィルター全開の展開と、現実を直視し始めたレオンの視点にもご注目ください!

レオン率いる人類の先鋒部隊が、リンの分身体によって壊滅的な敗北を喫してから数日。死者は一人も出なかったものの、圧倒的な戦力差による絶望感から兵士たちの士気は完全に崩壊していた。


指揮官であるレオンは一時的な遠征の中止を余儀なくされ、勇者パーティのメンバーも一度解散して休息を取ることとなった。レオンは態勢を立て直すため、魔王領にほど近い辺境にある故郷「ヴァレンの町」へと戻っていた。



一方その頃、魔王城の玉座の間――。


リンは恐ろしい威厳を放つ玉座の上で、死んだ魚のような目をしながら足を組んでいた。傍らのテーブルには、お湯を注いだばかりのカップ麺が置かれ、香ばしい醤油スープの湯気が立ち上っている。


(……お湯を入れてから、あと3分です)


待ち時間の暇つぶしに、リンはふと魔族の食糧問題を考えた。2千人の獣人族に毎日カップ麺を600箱配り続けるのは、どう考えても持続不可能だ。塩分過多で腎臓病が頻発する恐れがあるし、農地を開墾して収穫を得るにはまだ数ヶ月かかる。


(……自給自足のヒントでも検索してみましょうか)


リンはスマートフォンを取り出し、AIに検索クエリを打ち込んだ。


『異世界でインスタント食品に頼らず、自給自足生活を送るにはどうすればいいですか?』


一秒も経たずに、画面に長文の返答が躍り出た。


【AIの回答】:

1.素材の分析:野草の毒性試験(Universal Edibility Test)の実施、灰からの製塩。

2.生産体制の構築:有機肥料の作成、野うさぎの捕獲と養殖、川での罠猟。

3.加工と保存:醤油の手作り(熟成期間:約6ヶ月)、土製オーブンの製作、燻製肉の作成。


リンは死んだ魚の目で画面をスクロールし、静かに深呼吸をした。


(……立派な理論をありがとうございます。ですが、外でお腹を空かせている2千人の民には、醤油の熟成を6ヶ月も待つ時間なんてありません……結局、今すぐ実践できることなんて、これくらいです)


リンの視線は、テーブルの上に置かれたカップ麺へと向けられた。


ピピピ、ピピピ。タイマーが3分を告げた。


リンはカップ麺の蓋を開け、スープを最後の一滴まで飲み干すと、静かに立ち上がった。


(……ですが、毎日インスタント食品ばかりでは病気になってしまいます。解決策は、人間界から小麦粉や調味料を買い付け、城内に『自動カップ麺製造機』を作ることですね)


リンは容量無制限の「次元ストレージ」を展開すると、単身で人間界のヴァレンの町へと向かった。



ウゥゥゥゥン――!


ヴァレンの町の関所に、警戒レベル最大の警報が響き渡った!


分厚い鉄製の城門が叩きつけられるように閉じられ、城壁の上の兵士たちは弓を引き絞って、目の前に立つ黒い角と二色の目を持つ白髪の少女――魔王リンへと狙いを定めた。


兵士たちの手は激しく震え、冷や汗が頬を伝う。一昨日、魔王の分身が見せた圧倒的な絶望を思い出し、誰も矢を放つことができない。


町に戻っていたレオンも異変に気づき、ハッとして城壁の物陰へと駆けつけた。フードを深くかぶり、息を殺して見下ろすレオンの存在にリンは気づいていたが、死んだ魚の目でチラリと見ただけで完全にスルーした。


リンは空を見上げ、ぽつりとつぶやいた。


「暑いですね……ただの買い出しですよ」


【外交フィルター発動】


リンの平坦な声は、美しく荘厳な響きへと変換され、関所全体に響き渡った。


『――この照りつける太陽は、飢えという苦しみが種族を選ばぬことを我に思い出させる。我は今日、争いを望んでここに来たのではない。ただ平和的に、命を繋ぐ食糧を求めて来たのだ』


城壁の兵士たちは青ざめ、指揮官は生唾を飲み込んだ。もしこの魔王が町を破壊する気なら、こんな防壁など一瞬で粉砕できるはずだ。堂々と正面から対話を試みていること自体が、何よりの証拠だった。


「門を開けろ……!」指揮官は震える声で命じた。「魔王様をお通ししろ! ただし、全軍厳戒態勢を維持せよ!」



市場に入ると、住民や商人たちは恐怖で後ずさりした。


リンは穀物と小麦粉を扱う大型卸売店へと足を運んだ。店の主人はガタガタと震えながら、絞り出すような声で言った。


「ま、魔王様……! 欲しいものがあれば何でも持っていってください! お願いですから命だけは……! お金なんて、恐れ多くて受け取れません……!」


リンは少し眉をひそめると、異世界の品を売って得た金貨がぎっしり詰まった袋をドンとテーブルに置いた。


「ダメです」リンは淡々と言った。「お金を受け取らないなら、商売が成り立ちません」


【フィルター発動】


『――労働者の汗と努力には、しかるべき対価が支払われるべきだ。交易とは文明を育む血脈であり、対価を支払わずに奪うことは暴君のすること。支配者の為すべきことではない』


店主は目を見開いて絶句した。


リンは提示された満額の代金を支払うと、さらに少しのチップを添えて、小麦粉、米、新鮮な野菜、そして製麺機に必要な石臼と鉄製ギアのセットを買い占め、手際よく次元ストレージへと収納していった。


その様子を、物陰から密かに追跡していたレオンは――衝撃のあまり立ち尽くしていた。


(王国の情報は……すべて間違っていたというのか……?)


レオンの頭の中で、激しい葛藤が渦巻く。


(報告書では、魔王は人類の滅亡を目論む残虐非道な化け物だとされていた……だが、もし殺戮が目的なら、なぜわざわざ正面から食料を買いに来る? この町を占領したいのなら、門をくぐった瞬間に壊滅させられたはずだ……)


(それなのに……なぜあの御方は、『労働には正当な対価を支払うべきだ』と商人に説いているのだ?)


レオンの脳裏に、王都で権力を振りかざし、農民から不当に搾取する人間の貴族たちの姿が浮かぶ。


(俺たちが信じてきた魔王の姿……そして、この戦争の正体とは……一体何なんだ……?)



魔王城に戻ったリンが次元ストレージを開放すると、山のような米、小麦粉、野菜、肉、そして製麺機のパーツが雪崩のように溢れ出した。


「魔王様がこんなにもたくさんの食料を持ち帰ってくださったぞー!」

「俺たちの命をお救いくださったんだ!」


魔族たちの歓声と歓喜の叫びが城中に響き渡る。


当のリンはというと――ただ静かに玉座に腰掛け、スマートフォンでマンガを開きながら、心の中でつぶやくだけだった。


(……とりあえず、今夜は久しぶりに新鮮な野菜が食べられそうです)


---

> ついに今夜、リンちゃんが待ちに待った新鮮な野菜を食べることができました!(そして現実を直視し始めたレオン様、ありがとうございます笑)

> ゆるーい魔王リンちゃんの勘違いだらけの魔王領復興ストーリー、楽しんでいただけていますでしょうか?

> もし気に入っていただけましたら……

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