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第9話 リヒトの旅立ち

 クロエに魔術鑑定をしてもらった後、午後の仕事を終えたリヒトはもう一度ガンツたちのところを訪れた。


 魔術のことをもっと聞きたいと思い、夕食を用意するから話を聞かせて欲しいと頼んだところ快諾してくれた。


 クロエたちの話でわかったのは主に以下の三つ。


 ①魔術の有無は生まれつきで決まる

 ②魔術は訓練によって伸ばせる

 ③魔術とスキルはおそらく別物(詳細不明)


 特に③のスキルに関しては、魔術オタクのクロエにとっても分からないことが多かった。


「マナを使って発動することからすると、たぶん魔術の延長線なんだろうけどね。その人の魔術と他の要素を組み合わせて発動する固有の技みたいな感じかな」


 ちなみにこの世界では魔力のことをマナと呼ぶ。


 続けてクロエは「大きな街に行けばもっと魔術に詳しい人がいるから何かわかるかも」と加えた。


 やはり魔術について勉強するためには大都市に行く必要があるらしい。


 少なくともベルタの村には魔術適正のある人はいなそうだし、ここでリヒトが独学で勉強するのも難しいだろう。


 だとすれば、魔術やスキルについてもっと学ぶためには都市部に行くしかない。


(問題はどうやって都市まで行くかということだな)


 ガンツたちの話によれば、ここから一番近いプリスペルという街まで約一週間かかるらしいし、その道中には魔物も出ると言う。


 いくら魔術適正があるとはいえ、現時点で炊飯と農作業しかできないリヒトが一人で街まで無事に移動するのは不可能だ。


 つまりリヒトが街に行くためには護衛が必要だった。


「そういえば皆さんは明日プリスペルに向かうとおっしゃってましたよね?」


「ああ、明日の朝にはここを出る予定だ」


「ちなみにですが、一緒に街まで連れて行って欲しいと言ったらダメですかね?」


 本当は冒険者ギルドに依頼すべきかと思うが、当然そんなものはこの村にはない。


 そのため偶然冒険者と出会えたこのチャンスを逃すわけにはいかなかった。


「そんなの、こっちからしたら願ったり叶ったりだ。リヒトがいれば道中の補給の問題を心配しなくて済む」


 リヒトの提案に、ガンツが身を乗り出して食いついてくる。


 ガンツからしてもリヒトが同行してくれるのが最も理想的な形であると考えていた。


「っしゃあぁっ! またリヒトのウマい飯が食える!」


「私も大歓迎。私は君という存在に興味があるからね。道中に徹底的に分析させてもらうわ。フフッ」


 最後のクロエは少し怖いが、他の二人も歓迎してくれたようだった。


「よし。それじゃあ今日は明日の出発に備えて準備をするとしよう」


「はい」


 ついにリヒトは村を出る決断をした。


 ◇


 翌日の早朝。


 村の入口にはリヒトを見送るバルトロ一家の姿があった。


「さみしくなるな」


 バルトロが穏やかな笑みを浮かべてリヒトと握手を交わす。


 昨晩リヒトが「村を出ようと思う」とバルトロに伝えたところ、少し驚いてはいたが二つ返事で了承してくれた。


 本当は他の村人たちにも挨拶したかったが、彼らに伝わると引き止められるかもしれないので、バルトロの提案で早朝にこっそり旅発つことにした。


「本当に今までお世話になりました」


 バルトロと見つめ合うと、リヒトは急に目元が熱くなった。


 突然現れた身寄りのない自分を温かく迎えてくれた。


 急に出ていくと言っても嫌な顔一つ見せずに見送ってくれた。


 リヒトは本当に頭が上がらない思いだった。


「りびどおぉ、りびどおぉぉっ」


 ルカが人目を気にせずわんわん泣きながら抱きついてくる。


 フェイは静かに目をこすりながら、リヒトの服の袖を掴んできた。


「お前らも本当にありがとな。必ずまた帰ってくるよ」


「絶対だよ? 絶対また帰ってきてね?」


「ああ約束する。次はもっとウマい飯食わせてやる」


 リヒトは洟を啜りながら、フェイとルカの頭をわしわしと撫でてやった。


 リヒトにとってこの村は故郷のような場所であり、バルトロたちは家族のような存在であった。


 いつか自分一人でこの世界を歩けるくらい強くなったら必ずまたここに戻ってこよう――そう、胸に強く誓った。


「そうだリヒト。これからプリスペルに向かうと言っていたな。一つだけ伝えておきたいことがある」


 ふと、バルトロが思い出したような声で言う。


「実は私たちにはもう一人娘がいるんだ。ちょうどお前と同じ歳の、ニーナという子でな。まあ色々と事情があってここにはいなくて、今はプリスペルにいるはずだ。だから、もし向こうであったら、よろしくな」


 バルトロにしては珍しく、少し歯切れの悪い口調だった。


「ええ、わかりました」


「それじゃあ、気をつけて」


 皆と別れを交わし、リヒトは手を振りながら村を離れるように歩き出す。


 ガンツたちは少し離れたところでリヒトを待ってくれていた。


 三人と合流し、プリスペルへと向かう旅路につく。


「よし、行くか!」


「はい」


 ガンツに背中を叩かれ、リヒトは力強く次の一歩を踏み出した。




 ちなみにこれは後日談になるが、この村にはやがて大きな災いが訪れることになる。


 その際にリヒトは再びこの村に戻ってくることになるのだが、それはまだ少し先のお話。

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