第10話 初めての魔術
ベルタの村を離れてから数日後。
リヒトはガンツたちとともにプリスペルの街を目指して森を歩いていた。
「よし、そろそろ休憩にしよう。リヒト、飯の準備を頼む」
「はい。少しお待ちを」
見通しのよい開けた場所を見つけ、ガンツが足を止めた。
道中の役割分担はガンツたち三人が魔物との交戦、リヒトが水と食事の用意となっていた。
移動中は途中で何回か休憩を挟むが、そのうち三回は少し長めの食事休憩であり、それがリヒトの仕事の時間だ。
基本的に朝から晩までずっと歩いているか魔物と戦闘しているため、食事は一日のうちの唯一の楽しみとも言える。
そのためリヒトは皆が飽きないように毎回別のメニューを用意していた。
「はい、ご飯ができましたよ。どうぞ」
「ありがとう。なあリヒト、なんだが日に日に飯が豪華になってないか?」
「え? そうですか?」
今日のメニューはホロホロ柔らかローストチキン(もちろんライス付き)。
ちなみにデザートは炊飯窯で作ったベイクドチーズケーキだ。
最近は炊飯で作れるものならご飯系以外も作れるようになっていた。
スープにパスタ。野菜たっぷりポトフ。ケーキに蒸しパン。
炊飯で作れるレシピは意外と多い。
「うん、今回も相変わらずウマいな」
「おいしすぎて旅の途中って感じがしないわ。街のレストランで食事してる気分」
「な、なんだこりゃ!? こんなウマいケーキ、初めてくったぞ!」
リヒトの無自覚な絶品料理のせいでどんどん舌が肥えてきた三人。
以前の食生活に戻るのはもう難しいかもしれないと、ガンツたちは密かに頭を悩ませていた。
「お口に合ってよかったです。実は皆さんと一緒に旅をはじめてからレベルがめちゃくちゃ上がるようになったんですよね。料理のクオリティが上がったのはそのせいかと」
ベルタの村を発ったときのリヒトのレベルは15だった。
だが、今のレベルはなんと30。
旅をしてからたった数日で倍近くに上がってしまったのである。
これはベルタの村で農作業をしていたときとは比べ物にならない早さだった。
「そりゃ魔物と戦っているんだから成長が早いのは当然さ」
「うーん。でも戦っているのは皆さんだけで、僕は何もしてないんですよ?」
魔物との戦闘は一日に数回、多いときには5回くらいある。
もちろんリヒトは戦闘に参加はしない。
魔物が出たときは基本的に前衛としてゴルドーが斧で交戦し、後方からクロエが風属性魔法で遠距離攻撃をしかける。
ガンツは状況に応じて前衛として立ち回ったり、火属性魔法で攻撃したりと臨機応変にふるまう。
一方でリヒトはというと、クロエよりもさらに後方で身を潜めている。
補給係が出しゃばったところで足手まといになるだけなので隅で大人しくしていた。
ただそんなリヒトでも、ガンツたちが勝利し戦闘が終わると経験値がもらえてしまうのだ。
このシステムにはかなり驚いたが、ガンツ曰く「パーティというのはそういうものだ」とのことだった。
つまり実際に戦闘に貢献していなくても、パーティとして勝利した場合はその報酬である経験値もパーティで分け合うことになっているという。
たしかにこうしないと戦闘系メンバーばかりがレベルアップしてしまい、補給係はいつまで経っても成長しないので理にかなっているシステムと言えるだろう。
ただ何もしていないのレベルアップしてしまうのはリヒトにとっては少し心苦しくもあった。
(戦闘に貢献とまではいかなくても、何か手助けくらいはできるようになりたいよな。一応魔術適正もあるわけだし)
リヒトはまだ炊飯スキルしか使えないが、火、水、土の三つの魔術適正を持つ珍しい存在でもあった。
せっかく恵まれたポテンシャルを持っているのにそれを活かさないのはもったいないような気もする。
それにせっかくレベルも上がったことだし、そろそろ魔術の勉強を本格的にはじめてもいいだろう。
「あの、クロエさん。よければ魔術の使い方を教えてくれませんか?」
「ん? ええ、いいわよ。ちょうどご飯も食べ終えたし、食休みに練習してみましょうか」
「はい! お願いします!」
「お、リヒトの初魔術か。これは見物だな」
ガンツとゴルドーも見守る中、さっそくクロエのレクチャーが始まった。
「じゃあ最初は水属性魔法でも試してみましょうか。これなら万が一暴発しても危なくないからね。まずは体の中のマナを手のひらに集中させて、ウォーターボールをイメージしてみて。マナはスキルを発動するときにも使ってるはずだからリヒトなら体感的にわかるはずよ。マナが集まってきたら、今度は一気に放出するの」
「は、はい。やってみます」
リヒトは右の手のひらを上に向けて、言われた通りに体内のマナを集中させる。
詠唱は特に必要ないらしい。
数秒すると、体を巡っている温かい何かが手のひらに集まってきたのを感じた。
(お、イイ感じな気がする。ウォーターボール。ウォーターボールっと)
頭の中で手のひら大の水の球をイメージする。
そして次の瞬間、集まってきたマナを一気に手から放出した。
(いけ! ウォーターボール!)
――ジワァ
「……あ、あれ?」
手の上にはリヒトがイメージした水の球はできず、代わりに手のひらがぐっしょりと濡れていた。
「え、なにこれ? 手汗?」
汗にしてはベトついてはいないが、事前に思っていた美しい水という感じもしない。
「残念ながら失敗のようね。まあ初めてならこんなもんよ」
リヒトの肩をポンポンと叩きながらクロエが慰めるように笑う。
炊飯スキルが簡単にできるので魔術も同じようにできるかと思っていたが、これは一筋縄ではいかなそうだ。
「リヒトはまだ上手くマナを集中させられてないのよ。これは歩きながらでも練習できるから、焦らずにゆっくりと練習するといいわ」
「はい、そうします」
「ただし練習のし過ぎでマナを使い切らないように。君がスキルを使えなくなると私たちのご飯がなくなるから」
「……気を付けます」
クロエにしっかりと釘を刺され、自分の仕事を思い出したリヒトであった。




