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第11話 強敵スライム

 目的地であるプリスペルまであと数日となった頃。


 いつも通り森の中を歩いていたら、草むらからいきなり何かが飛び出してきた。


 見ると、半透明のぷるぷるした物体が行く手を塞いでいる。


「ガンツさん、これってもしかしてスライムですか?」


「ああ。そうだよ」


(おお、やっぱりスライムっているんだ)


 初めて見る生のスライムに、リヒトは興奮気味に目を見開く。 


 異世界で魔物といえばやはり最初に思いつくのはスライムである。


 某RPGで見るような可愛らしい顔はなかったが、色や形状は概ねイメージ通りだ。


 周囲には仲間はおらず、一匹で勝負を挑んできたようだった。


「ちょうどいい。リヒト、せっかくだし戦ってみるか?」


「へっ? 俺がですか!?」


 隊列の先頭にいたガンツが、後ろにいるリヒトに振り返りながら言った。


 何がちょうどいいのかわからないが、突然すぎる提案にリヒトは首を大きく横にふる。


「い、いや、無理ですよ? だって俺、補給係だし」


 当然リヒトはこの世界にきてから一度も戦闘などしたことがない。


 それに現在練習している水属性の魔術だってまだウォーターボールすらできていない状態だ。


 これではいくら相手がファンタジー世界において最弱と称されるスライムであっても戦いにならないだろう。


「そ、それに万が一俺がやられたら、皆さんのご飯を用意できなくなりますし」


 言い訳を並べながら、縋るような目で隣にいたクロエを見やる。


「まあスライム相手なら死ぬようなことはないでしょう。万が一のときは私が魔法でアシストするから大丈夫よ」


「うっ……」


「がんばれーりひとおお」


 拳を掲げて応援してくるゴルドー。


 どうやら助け船は期待できなそうだ。


「リヒト、こういうのは何事も経験が大事だ。もしかしたら魔術の訓練に役立つかもしれないしな」


 そう言ってガンツはスライムから身を引くようにして後退し、代わりにリヒトを前衛に押しやった。


「でも俺、まだ魔術とか使えないし。武器とかも持ってないですし」


「なら俺の短剣を貸してやろう」


 ガンツは腰につけていた短剣を取り出してリヒトに渡した。


 普段使っているメインの剣とは別のもので、30センチくらいの少し大きめのナイフのような剣だ。


 短剣とはいえ、初めて武器を握ったリヒトには充分に重く感じた。


(くそ、こうなったらもう腹くくってやるしかねえ)


 スライムはリヒトを見据えたまま(顔はないのだが)、その場にとどまっている。


 様子見をしているのか、向こうから先に攻撃してくる気配はない。


(こういうのは先手必勝だ)


 リヒトは両手で短剣を体の前に構えて、スライムに向けて刃先を向けた。


「う、うおお!!」


 そのまま勢いよく敵に向かって突進。


 だが、剣の刃先が触れようとした瞬間、スライムがヒラリと横にそれて攻撃をかわした。


「うおっ!?」


 勢い余って転倒しそうになったが、なんとかその場に踏みとどまる。


 振り返るとスライムは無傷で、まるで挑発するかのようにポヨンポヨンと跳ねていた。


 魔物の心を読むスキルなどないが、何となく遊ばれているのがわかる。


「く、くそおぉぉ! バカにしやがって!」


 剣を振りかざして切りかかるリヒト。


 しかしスライムは柔軟な体を変形させながら難なく攻撃をかわしてくる。


 切りかかってはかわされ、切りかかってはかわされ。


 ひたすらそれの繰り返し。


 その様子を傍目から見ていたガンツは、小さく苦笑いを浮かべた。


(リヒトに戦闘はまだ早かったかもしれんな)


 ガンツたちからすればスライムの動きは魔物の中でもダントツに遅い部類である。


 だがそんなスライムにさえ当たらないリヒトの攻撃は、ある意味ガンツたちの予想を遥かに越えていた。


 本当はリヒトの今後の成長のために戦闘で勝利する経験を積んでほしかったのだが、少し目論見が外れたようだ。


 結局リヒトは一度も攻撃を当てられないまま膝に手をついてしまった。


「くそっ、すばしっこいやつめ」


 そんなことはない、というガンツたち三人の内心など知る由もなく、リヒトは肩で息をしながらスライムを睨みつける。


 このままやみくもに攻撃をしても埒があかない。


 どうにかしてアイツの動きを止めないと。


 そんなことを考えていると、リヒトの頭に一つ妙案が浮かんだ。


(あ、そうか。動きを封じる方法、あるじゃん)


 逃げられなくするためには檻に入れてしまえばいい。


 しかも敵がすっぽりとはまってしまうような、ちょうどいいサイズの檻を。


 リヒトには檻の代わりになるものを生成するスキルがある。


「今日の晩飯はスライム鍋にしてやる! スキル『炊飯』!」


 リヒトは剣を置いて両手を前に掲げると、炊飯スキルを発動した。


 するとスライムの周囲にその体をちょうど囲むくらいの大きさの土鍋が生成される。


 何が起きたかわからなかったスライムはさすがに逃れることはできず、大きな土鍋と蓋に捕獲された。


「このまま熱々にしてやるぜ!」


 リヒトはそのままスライムだけが入った土鍋を一気に過熱した。


 中からはグギギギと声にならない悲鳴のような音が聞こえてくる。


 数秒経って音が止み、恐る恐る蓋を開けると、中には溶けてドロドロに液状化したスライムの残骸があった。


「や、やったあああ! やりましたぁ!」


 両手を高く掲げて子どものように喜ぶリヒト。


 その様子につられて、ガンツも思わず手を叩いた。


「斬新な戦い方だったが、とりあえず無事に勝ててよかったな」


「はい! なんとか勝てましたー」


 リヒトが土壇場で編み出したのは、普段の炊飯スキルを応用した技だった。


 空の土鍋を敵の周りに生成して閉じ込め、そのまま中を加熱して攻撃。


 ちなみに熱耐久がある敵には水攻めにすることもできる。


 もし同じことをやろうとすれば、それなりにレベルの高い土属性の魔術師と、火属性、水属性の魔術師が協力しないとできない高度な技だ。


 もちろん魔物戦の初勝利に浮かれているリヒトはそんなこと気づいていないのだが。


「ところでリヒトくん。ひとつだけ聞きたいことがあるのだが」


 土鍋の中に残るドロドロになったスライムを指差しながら、ガンツが問いかけた。


「さっき晩飯はスライム鍋にしてやると叫んでいたが、もしかして今日の飯はこれかい?」


「あ、いえ。さっきのは必殺技の前の決め台詞みたいなものなので」


「そうか。ならよかったよ」


 首を横に振るリヒトを見て、心底安心するガンツであった。

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