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第12話 お金がない

 ベルタの村を出てから約一瞬間。


 ようやく魔物が出る森を抜けると、ついにプリスペルの街が見えてきた。


「すげえ……」


 高くそびえる城壁に囲まれた巨大な都市。


 門の前には鎧を着た衛兵が立っており、出入りする人々や馬車を検問している。


 よく見ると城壁の上にも警備の兵がいるのが見える。


 丸太の柵で囲われただけのベルタの村とは比べ物にならない厳重な体制。


 その圧倒的な佇まいに、リヒトは思わず息を呑んだ。


「プリスペルは王国内では王都に次ぐ規模だからな。驚くのも無理はない」


 リヒトにそう説明するガンツの足取りは軽かった。


 ガンツたち三人からすれば王都を離れてから二週間以上にわたる旅が終わろうとしている。


 途中死にかける思いもしたが、バルトロやリヒトたちの助けもあり、どうにかここまで来ることができた。


 喜びと感謝を噛みしめながら、ガンツは仲間とともに城門へと向かった。


 城門前の検問所に着くと、衛兵が話しかけてきた。


「入市税として、お一人につき銀貨一枚いただきます」


 衛兵に言われてガンツとクロエとゴルドーはそれぞれの鞄から銀貨を取り出す。


「リヒトの分は俺が払うから心配しなくていい」


「すみません。お願いします」


 ガンツに頭を下げながら、リヒトは自分が無一文であることを思い出した。


 リヒトはこの世界に来てから一度もお金に触れたことがない。


 ベルタの村では基本自給自足だったのでお金は必要なかった。


 だが、ここから先はそうはいかない。


 これからは自分でお金を稼いで生活しなければならない。


(そういえばこっちの世界の通貨の価値とか全然わかんないな。ちゃんと勉強しないと)


 新しい街に着いた喜びも束の間。


 リヒトの頭の中は早くもお金という現実的な問題に支配されていた。


「さて、俺たちはこれから冒険者ギルドに行くが、リヒトはどうする?」


 入市税を払って城門をくぐったところでガンツが聞いてくる。


「そうですね。特に予定もないので一緒に冒険者ギルドに行ってみてもいいですか?」


「もちろんだ。ついでにリヒトも冒険者ギルドに登録したらどうだ? ギルドカードももらえるし、何かと便利なことが多いぞ」


 ギルドカードはこの世界での身分証のようなものだ。


 街で暮らしている市民はともかく、定住地を持たない冒険者や商人たちはギルドが発行したギルドカードを身分証として使用している。


 リヒトは冒険者になると決めていたわけではなかったが、とりあえずどこかのギルドには登録しておいたほうがいいだろうと思った。


「はい、では登録だけでもしておこうと思います」


「ああ。それがいい」


 冒険者ギルドは門から少し歩いたところにすぐ見つかった。


 きっと依頼を受けた者がすぐに街から出れるように門の近くに設置されているのだろう。


 重厚なドアを押し開けて、石造りの立派な建物の中に入る。


 中は広々とした大きな部屋になっており、受付の他には隅にテーブルと椅子が置いてあるだけだった。


 今は昼過ぎであり忙しい時間ではなかったためか、中は比較的に閑散としていた。


 四人で受付に向かい、座っていた女性に話しかける。


「失礼。俺たちは王都からプリスペルに来た冒険者だが、活動拠点をこちらに変更する手続きをお願いしたい。あと彼が新しく冒険者登録したいのだが、そちらも頼む」


「承知しました。では既に登録済みの方はギルドカードをご提示ください。新しく登録される方は手続きの準備をしますので少々お待ちを」


 ガンツたち三人はそれぞれのギルドカードを受付嬢に渡した。


 ギルドカードを見た受付嬢が目を見開く。


「あら、三人ともBランク冒険者なんですね! うちは今Bランク以上の冒険者が不足しておりまして。ぜひ受けていただきたい依頼が山ほどありますよ」


「それは朗報だ」


 受付嬢が嬉しそうに微笑み、さっそく三人の拠点以降の手続きを開始した。


(やはりこの人たちって一流の冒険者だったんだな)


 一緒に旅をしてきたリヒトはガンツたちの戦闘能力の高さはわかっていたつもりだった。


 だが受付嬢の態度を見て、彼らがこの世界におけるエリートであることを改めて実感させられた。


「はい。ガンツ様とクロエ様、ゴルドー様の手続きは完了いたしました。今後ともどうぞよろしくお願いします。それでは今度はそちらの方の冒険者登録を行いますね。まず登録料として銀貨3枚いただけますでしょうか?」


「あ……」


 口を開けたまま固まるリヒト。


 お金がないことをすっかり忘れていた。


 登録料すら払えないとは何とも情けない。


 とはいえ、ないものはないので断ろうとしたら、ガンツがすかさず口を挟んだ。


「この魔石を換金してくれないか。彼の登録料はそこから差し引いてくれ」


「はい、かしこまりました」


 ガンツが差し出したのは道中で倒した魔物から切り出した魔石だった。


 旅の途中、彼らは戦闘を終えるたびに手際よくこれを回収していた。


 強い魔物のものほど価値が高く、ギルドで高値で買い取ってもらえるのだという。


「いや、さすがに登録料まで出していただくわけにはいきませんよ」


「何を言う。リヒトは俺たちの命の恩人なんだ。これくらいの礼はさせてくれ」


 軽やかに言うガンツに、リヒトはたまらなくなって頭を下げた。


「すみません。ありがとうございます」


 とりあえず早く金を稼ごう。


 そう心の中で強く誓ったリヒトであった。

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