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第13話 金策は塩むすび

 翌日。プリスペルの街に着いてから最初の朝。


 この日リヒトはガンツたちと別れて、一人で街のメインストリートから外れた路地を訪れた。


 今日リヒトがやること。それはお金を稼ぐことだ。


 昨日この街に来てから、入市税、ギルドの登録料、さらには昨晩の宿代など、さっそく金欠問題が発生している。


 昨日はすべてガンツが代わりに払ってくれたが、このままずっとお世話になるわけにはいかない。


 それに今日からは彼らも冒険者ギルドの依頼を受けると言っていたので、同じ街にいたとしても基本別行動になる。


 つまり自分の生活費は自分で工面しなければいけなかった。


 そうでなければ文字通り路頭に迷うことになる。


(とりあえずその日暮らしができるくらいは稼がないと)


 リヒトの目下の目標は、この街での生活費を稼ぐこと。


 具体的には食費と宿代と日用品の購入費など。


 食費は炊飯スキルを使えばまかなえるが、せっかくなのでこの街の料理も食べてみたい。


 後は魔術の勉強をするための書籍なども欲しいところだ。


 考えれば考えるほど、欲しいものがいっぱい出てくる。


(さて、どれくらい稼げることやら。この街の人たちの口にも合うといいけど)


 そう思いながらリヒトがやってきたのは、プリスペルの街で一番大きなバザー会場だった。


 会場は買い物客であふれており、路地の両側にはたくさんの老若男女がゴザを広げて様々なものを売っている。


 動物の肉や野菜などの食料品。


 手作りの衣服や綺麗なアクセサリー。


 中には怪しい魔道具っぽいものなどもある。


 リヒトは品々を眺めながら、空いている場所を探す。


 少し歩いてちょうどいいスペースを見つけると、陣取るように腰を下ろし、さっそく炊飯スキルで大きな土鍋を生成した。


 もちろんここで食べ物の販売をするためだ。


 事前に冒険者ギルドの受付で確認したところ、ギルドカードさえ持っていれば誰でもバザー会場で自由に商売していいとのことだった。


 さっそくギルドカードが役に立っている。


 リヒトは心の中でガンツに感謝しつつ、いつも通り急速炊飯でお米を炊き上げた。


 土鍋の蓋を開けると、もわっとした湯気と香ばしい匂いがあたりに広がった。


 その様子が気になったのか、匂いにつられたのか、それまで見向きもしていなかった通行人たちがちらほらとこちらを窺ってくる。


 その中の一人の男性がリヒトの元に歩み寄ってきた。


「それは何ですか?」


 見た目40歳くらいの、小太り気味のやさしそうな男性だ。


「お米という食べ物です。塩が効いていておいしいですよ」


「ほう、塩が」


 リヒトが作ったのはシンプルな塩ご飯だった。


 今日は初日なのでまずはこれで様子見だ。


 リヒトはここに来る前に用意していた笹のような葉っぱでお米を包み、おにぎりを作った。


「これ一つで銅貨2枚です。いかがですか?」


「うむ。では一ついただこう」


 男性から銅貨を2枚受け取り、おにぎりを手渡す。


 ちなみにバザー会場の他の品物を見て判断したところ、この世界の貨幣価値は銅貨が百円、銀貨が千円、金貨が一万円といった感じだった。


 つまり銅貨2枚で二百円。


 塩むすび一つで二百円は高いと思うかもしれないが、お米が珍しいこの世界ではむしろ安いくらいだろう。


 いずれにせよ価格はお客の反応を見て決めればいい。


 さっそくおにぎりにかじりつく男性を、リヒトは少し緊張しながら見つめた。


「これは……」


 もぐもぐと咀嚼しながら、男性が目を丸くする。


「なかなかイケるな。初めて食べたが、塩も思ったよりしっかりと効いてる」


「ありがとうございます」


 リヒトはホッと胸をなでおろした。


 この街の人々は比較的裕福で舌が肥えている人が多いかと思い、いつもよりしょっぱめに作ったが大正解だったようだ。


 男性はリヒトの目の前でおにぎりをペロリと食べてしまった。


「すまんがもう一つ、いや二つくれないか? 家にいる妻にも買って帰ろうと思ってね」


「はい! ありがとうございます」


 リヒトはすぐにおにぎりを二つ作り、追加の銅貨と交換した。


 おにぎりを両手に抱えた男性は、珍しいものが買えたと言わんばかりの笑顔で帰っていった。


(よし、うまくいった)


 初めてお金を稼ぐことに成功して喜んでいると、すぐに別のお客が声をかけてきた。


「わしにも一つくれないか?」


「俺も一つ買うよ」


「あ、はい! すぐに作りますので少々お待ちを」


 先ほどの男性の様子を遠目から窺っていた人々がわらわらとリヒトのもとに群がってくる。


 もうすぐ昼時ということもあり、気がつけば周囲には人だかりができていた。


 予想外の大盛況に、リヒトはひたすらおにぎりを作る羽目になった。


「おいしい!」「ウマいウマい」「もっとくれ」「どうやって作ってんだ?」


 次から次へとやってくるお客を休む間もなくさばいていく。


 ちょうど50個近くおにぎりを売ったところで、土鍋の中のお米が空になった。


「今日はもうおしまいでーす。皆さん本当にありがとうございましたー」


 結局午前中だけですべてのお米を売り切ったリヒト。


 稼いだ総額は銅貨が100枚近く。


 それはリヒトが一日生活するのに十分すぎる額だった。


(とりあえずお金の問題もなんとかなりそうだな)


 今後は料理のバラエティーを増やして単価を上げればもっと稼げるだろう。


 そもそも食材や塩を商業ギルドに直接売り込んでもいいかもしれない。


 新生活も順調な滑り出しとなり、リヒトは満足げな笑みを浮かべながらバザー会場を後にした。

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