第14話 土鍋キャンプ
「宿たけえ……」
バザー会場での資金集めを終えたリヒトは適当に街を散策した後、その日泊まる宿を探していた。
が、さっきから見つかるのは宿泊費の高い宿ばかり。
昼間に稼いだお金で払えなくはないが、もし泊まると宿代だけでほとんど消えてしまう。
プリスペルは王都に次ぐ都市ということもあり、決して物価が安い街ではなかった。
さっそく大都市の洗礼を受けることになったリヒト。
ちなみにガンツたちのようにランクの高い冒険者だと割引してくれる宿もあるらしいが、リヒトはまだ駆け出しのFランク冒険者。
当然そんな都合のよい割引などはない。
(どうする? いっそ野営?)
この街にも家賃や宿代が払えなくなり、仕方なく街中で野宿している人もいるらしい。
ただ、馴染みのない街でいきなり一人で野宿するのは何となく抵抗を感じる。
そこまで治安は悪くなさそうだが、できれば危険な真似はあまりしたくない。
それに昨日一日過ごしてみてわかったことだが、この街は夜と朝方はそこそこ冷え込む。
変に野宿して風邪でも引いたら、下手したら死活問題になりかねない。
「せめてキャンプ用のシェルターでもあれば――ん?」
リヒトはまた思いついてしまった。
シェルターはないが、それに似ているものなら用意できるのではと。
いつであったか土鍋で風呂に入ったときのように、今度は土鍋の中で寝ればいいのではと。
土鍋ならそれなりに固いので身を守れるし、適度に加熱すれば暖房にもなるのではないかと。
(天才か、俺)
リヒトはにやけてしまう口元をおさえながら、さっそく今日の寝床を探すことにした。
かなりでかい土鍋を作ることになるので、怪しまれないようになるべく人目につかない場所がいい。
あとは突然の雨などにも慌てずに済むところがベターだ。
そうなるとやはり橋の下とかだろうか。
なんだかホームレスみたいになってきたが、宿代を節約できるならそんなのは全く気にしない。
農家出身で堅実な家庭で育ったリヒトは、良くも悪くも所帯じみていた。
適当に街をふらついていたら川を見つけたので、そのまま川沿いに歩いて行く。
しばらくすると街の中心から少し外れたところに橋を見つけた。
橋の下に降りてざっと見渡したところ、あたりには誰もいないようだった。
「よし、今日はここでキャンプだ」
リヒトは立ったまま両手を体の前に出し、キャンプ用のシェルターくらいの大きさの土鍋を意識して炊飯スキルを使う。
すると目の前には直径3メートルくらいの巨大な土鍋が生成された。
「うおっ、でけえ」
こんなに大きな土鍋を作ったのは初めてだ。
大きすぎて鍋というよりもはや小屋である。
見た目がちょっとダサい気もするが、とりあえず今日は目をつむることにする。
「あ、これ、どうやって入ろう」
さっそく中に入ろうと思ったが、入り口がない。
鍋は2メートル近く高さがあるから登るのも難しい。
そもそも登ったところで上には蓋も付いているので入れない。
仕方なくリヒトは一度土鍋を消し、今度は自分が中に入った状態で土鍋を作り直すことにした。
つまりスライムを土鍋で閉じ込めたときのように、今回は自分を閉じ込めるのだ。
自分の周囲に鍋を作るイメージをしながら、もう一度炊飯スキルを使う。
「うわ、真っ暗」
どうやら無事に中に入ることができたらしい。
当然電気などないので中は真っ暗だった。
周囲と足元は陶器の壁と床で囲われ、上には鍋蓋の天井がある。
蓋には蒸気穴がついているため窒息する心配はない。
暗闇の中、さっそく床に寝ころんでみる。
「うん、やっぱり硬いよね」
草の上で寝るのに比べたら床は硬く、寝心地はあまりよくなかった。
あとは直に寝ころんでいると陶器のひんやり感が伝わってきて少し寒い。
リヒトはスキルを使ってほんの少しだけ土鍋を加熱してみる。
するとまるで床暖房のように温まってきて、すぐに快適な温度になった。
(これなら寒さは心配ないな。あとは布団があれば完璧なんだけど)
ここを今後の居住環境にするならば必要な生活用品をそろえていきたい。
まず欲しいのは布団。
睡眠の質は日中の活動に大きく影響する。
それから夜真っ暗なのも不便なため、ランプ的な魔道具なども欲しい。
あとは小さなちゃぶ台とかがあってもいいかもしれない。
(生活用品とか家具を鍋に入れて自由に出し入れできると便利なんだけどな)
今までは一度生成した土鍋は使い終わったらそのまま消していた。
だが、もし一度消した土鍋を再び呼び出すことができるのであれば、新たな使い道が考えられる。
土鍋の中に家具や荷物をしまっておいて、必要なときに呼び出せれば収納として使える。
そのままそこに住んでしまえば、携帯可能な居住環境にもなる。
キャンピングカーならぬ、キャンピング土鍋。
それができれば宿代の節約だけでなく、街を出て冒険するときもいつでも快適な野営ができるようになる。
(今日はもう遅いし、また明日検証してみるか)
炊飯スキルの無限の可能性に期待しながら、リヒトは巨大な土鍋の中で眠りにつくのだった。




