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第15話 お布団ください

 次の日。


 午前中は前日と同じようにバザーで資金稼ぎをした後、リヒトはプリスペルの街のメインストリートを歩いていた。


 大都市であるこの街のメインストリートには基本的にすべてのお店がそろっている。


 飲食店、宿屋、武器屋、魔道具店、などなど。


 どれも日本にはないものばかりで自然と視線が奪われる。


 見慣れぬ街並みを楽しみながら歩いていたら、大通りの一角に目的の店を見つけた。


「いらっしゃい」


 ドアを開けて中に入ると、カウンターの奥で暇そうにしていた男が声をかけてきた。


「すみません。布団ってありますか?」


 リヒトが訪れたのは家具屋だった。


 今のリヒトが切望しているもの。それは布団だ。


 というのも、すべては昨晩の土鍋キャンプが原因である。


 スキルの利用した床暖房機能つきの土鍋は防寒面では完璧だった。


 だが陶器の床は一晩寝るにはあまりにも硬すぎて、朝起きたときは体がバッキバキになっていた。


 このままではいつか腰が死ぬ。


 そう危機感を覚えたリヒトは、今日と昨日のバザーで得た売上を握りしめ、フカフカのお布団を求めてこの店を訪れたのだった。


「布団ならあるよ。お前さんは……冒険者かい?」


「ええ、まあ一応」


 リヒトの姿を一瞥した店主は、ついてきなと言わんばかりに顎を動かして店の奥へと歩き出した。


 様々な家具が並んだ狭い廊下を、店主の背を追いながら進んでいく。


「今うちにあるのだとこれだね」


 店主が見せてくれたのは種類の異なる二つの布団だった。


 一つはウルフやベアなどの魔物の皮を使った携帯性の高い寝具。


 いわゆる寝袋のようなやつだ。


 持ち運びしやすいという点で冒険者に人気らしい。


 もう一つは普通の綿布団。


 コットンシープという羊のような魔物から採れる綿を麻の布袋に詰め込んだ布団だ。


 触った感触は日本で使っていたときのものに近い。


 大きさも一人用としては十分であり、すぐにでも寝ころびたくなる。


 お値段は金貨2枚とそれなりの金額だが、この二日間のバザーで稼いだお金でちょうど賄える額だった。


「じゃあこっちの綿布団をください」


「え、冒険者用のやつじゃなくていいのかい?」


 店主の男が驚きの声で聞いてくる。


「はい。こっちの綿布団の方が寝心地がよさそうなので」


「いいけど、こんな大きな布団持ち運べないだろう。お前さん、アイテムボックスは持ってるのか?」


 アイテムボックスというのは無限にアイテムを収納できる魔道具だ。


 非常に便利な魔道具だが、かなり高価らしく一部の上級貴族しか持っていないとガンツから聞いたことがあった。


 庶民であるリヒトは当然そんなレアアイテムは持っていない。


「アイテムボックスはないですけど、代わりにこれに入れて持って帰ります」


 そう言ってリヒトは炊飯スキルを使い、店の中で空の土鍋を生成した。


「おわっ!?」


 急に目の前に布団がすっぽり入るくらいの鍋が現れて、店主が驚きの声を上げる。


 突然の出来事に、店主のリヒトを見る目が変わった。


「お代の金貨2枚です。すみませんが布団をこの()()()の中に入れてもらえます?」


「へ? あ、ああ」


 リヒトは金貨を店主に手渡す。


 硬貨は事前に冒険者ギルドで両替してもらっていた。


 店主は金貨をポケットに入れると、綿布団を丸めてリヒトの指示通り土鍋のなかに入れた。


「なあ、あんちゃん。これ、どうやって運ぶんだ? 俺には随分重たそうに見えるが」


「ああ、運ぶ必要はないんですよ。これが収納なんで」


 わけがわからないといった顔で、店主が目を瞬かせる。


 そんな店主をよそ目に、リヒトはスキル炊飯を解除した。


 すると次の瞬間、布団が入った土鍋をパッと姿を消した。


「はっ? 消えた!?」


「消したんじゃなくて、しまったんです」


 そう、実はリヒトは炊飯スキルを応用した"収納"ができるようになっていた。


 つまり生成した土鍋に持ち物を入れて一旦スキルを解除して土鍋を消す。


 その後に持ち物が入った土鍋を意識しながら炊飯スキルを使うと、その土鍋を取り出すことができるという仕組みだ。


 今朝何度か実験したところ、100パーセントの精度で持ち物の出し入れをすることができた。


 消した土鍋がどこに行ってどこから来ているのかはわからないが、とりあえず重い物を運ばなくて済むので非常に便利だ。


 便利であれば難しいことは気にしない。


 このスキルのノリに大分慣れてきたリヒトであった。


「それじゃあ、ありがとうございました」


「お、おう。まいどあり」


 目的の品をゲットできたリヒトは軽やかな足取りで家具屋を後にする。


 一方の店主はというと、目を丸くしたまま不思議な客の後ろ姿を見送っていたのであった。

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