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第8話 魔術鑑定

 翌日。


 リヒトがいつも通り農作業をしていると、見慣れぬ三人組が姿を現した。


「少年、仕事中にすまない」


 リヒトは慌てて作業していた手を休める。


 声をかけてきたのは、冒険者たちのリーダーであるガンツだった。


「実は君に聞きたいことがあるんだ」


「はあ、何でしょう?」


「この前森で見せてくれたあの魔術は、君が独自に生み出したものか?」


 森で見せてくれた魔術というのは炊飯のことを言っているのだろう。


 何と答えるべきだろうかと、リヒトは頭をひねる。


「独自に生み出したというか、気づいたら最初からできたという感じなんですよね」


「なるほど。であれば、ますます驚きだな」


 顎に手を当てながら、ガンツが唸る。


 すると隣にいたクロエがリヒトの前に一歩踏み出した。


「あのさ。率直に言うと、君のその魔術の秘訣を教えてくれないかな?」


「えっ」


 困惑するリヒトに向かってクロエが続ける。


「かなり無理なお願いをしているのはわかっているわ。でも今の私たちにはどうしても必要な魔術なの。もし教えてくれるのなら、それ相応のお礼はするつもりよ」


 真剣な眼差しでクロエがリヒトを見つめる。


 突然の申し出にリヒトが呆気にとられていると、横からガンツが口を挟んだ。


「驚かせてしまってすまない。実は俺たちは明日以降ここから一番近い街であるプリスペルに向かおうと思っている。ただ一番近いと言っても一週間近くかかる旅になるから、君のその食料を生成する魔術を少しでも教えてもらえたらすごく助かると思って聞いてみたんだ」


 申し訳なさそうに言うガンツに、リヒトはいえいえと首を振る。


「ええと、別に言いたくないとかではないんですけど、実は自分でもどうやっているのかイマイチよくわかってなくて。まあちょうど今から休憩しようかと思ってたし、実際にお見せしましょうか」


 そう言ってリヒトは三人を連れて作業場から離れると、適当な草地に座り込んで炊飯を始めた。


 リヒトの目の前に大きな土鍋が現れると、三人から大きな感嘆が上がった。


 土鍋の中に入っていたのは鶏肉と根菜ときのこを使った炊き込みご飯の材料だ。


 今回も時短のため急速炊飯で米を炊く。


「はい、できました。どうぞ食べてみてください」


 近くにあった葉でご飯を包み、三人に渡してやる。


 ご飯をかじったガンツが驚愕の表情を浮かべる。


「こ、これはすごい……」


 言葉を失っているガンツの横で、ゴルドーが歓喜の声を上げた。


「うんめええっ! なあ、もう一つもらってもいいか?」


「ええ、いくらでも」


 さっそくおかわりを要求してくるゴルドー。


 ふと隣を見ると、クロエが小刻みに体を震わせていた。


「……す、すごい、凄すぎる……物体と水を生成したと思ったら、温度も自由に変えられる? しかも火を使わずに? 一体どういう理屈なの!? ああ、知りたい、知りたい! 知りたいぃぃっ」


 半狂乱で頭を抱えてもだえるクロエ。


 もぐもぐとご飯を咀嚼していたゴルドーが大きな溜め息をついた。


「あーあ。またクロエの悪い癖が始まった。悪いなリヒトさん。コイツは昔からちょーっとばかし魔術オタクなところがあるんだ」


「ハ、ハハ、そうなんスね」


 ちょっとという感じには見えないが。


 内心でツッコんでいると、今度はクロエがいきなり手を握ってきた。


「お願い、この魔術の原理を教えてっ! それが無理なら、せめてあなたの魔術適正を鑑定させて!」


「ま、まじゅつてきせい?」


 クロエの話によると、この世界では一部の人間のみが魔術適正を持っており、そのような人間を魔術師と呼ぶらしい。


 主な魔術適正は火、水、土、風の四元素魔術だが、それ以外にもマニアックなものを含めるとその種類は多岐に渡る。


 四元素魔術を持っている方が応用が利く幅が広いため、その他に比べて魔術師としての価値が高いらしい。


「自分の魔術適正は知っておいて損はない。クロエなら今すぐに鑑定できるからこの飯の礼代わりに見てもらうといい。ちなみに俺は火属性で、クロエが風属性、ゴルドーは適正なしだ」


 ガンツにそう説明されて、リヒトはなるほどと頷く。


 確かに己の適正くらいは把握しておいた方がよさそうだ。


 今後やりたいことを見つけるきっかけにもなるかもしれない。


「わかりました。是非鑑定お願いします。どうすればいいですか?」


「君の体に触れてさえいれば、私は君の中に流れるマナを読み取ることができる。それじゃあ、さっそくいくわ」


 両手でリヒトの手を握ったまま、クロエが静かに目を閉じた。


 そしてその数秒後、クロエの顔に驚きの表情が浮かぶ。


「な、なにこれ……? 四元素魔術が……三つ!?」


「なんだと?」


 クロエの言葉にガンツとゴルドーが目を見開いた。


「感じるのは、土。でもそれだけじゃない。水と……あとは火もある。それぞれがごちゃ混ぜになっている感じで、正直よくわからない」


 土と水と火。


 四元素魔術のうち、リヒトはなんと三つも適正があるらしい。


「あ、あの。これって、凄いことなんですか?」


「凄いなんてもんじゃない。通常は四元素魔術が一つでもあれば有望とされる。二つ以上持っている魔術師はかなり稀で、三つなんてのは聞いたことがない」


 いつもは冷静なガンツも、このときばかりは落ち着きを失っていた。


 それだけリヒトの鑑定結果に驚いていたのだろう。


「土と水と火……」


 リヒトは思わずもう一度口に出す。


 考えてみれば、その三つは炊飯スキルを使うときの構成要素でもあった。


 土鍋の生成。水の生成。加熱。


 そう考えれば、この鑑定結果にも納得がいく。


 米や食料を生成できる理由は未だによくわからないが。


「まあでもしかし、もしも先ほどのスキルがその三つの魔術適正を必要とするのであれば、仮に教えてもらっても俺たちには真似できないというわけだ」


「悔しいけど、そういうことになるわね」


 がっくしと肩を落とすクロエに、ガンツとゴルドーがなぐさめるように声をかける。


 まだ呆然としていたリヒトには、三人の会話はほとんどに耳に入らなかった。

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