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第6話 命の恩人

 リヒトがベルタの村に来てから約一週間が経った。


 その間も日々の農作業でリヒトのレベルは着実に上がっており、炊飯スキルで作れる料理のバラエティも増えていった。


 とり胸肉のトマトチキンライス。


 まいたけを使ったガーリックバターライス。


 さらには(たい)丸ごと一尾を使った鯛めし、などなど。


 せっかくなので村人たちにも料理をふるまったところ、そのどれもが大好評で気づけば村全体がリヒトの料理の虜になっていた。


「リヒトの飯は本当にうまいなあ」


「ああ。こんなうまいもんが食えてオレは幸せだ」


「なあリヒト。行く当てがないならずっとこの村にいてくれていいんだぜ?」


「そうだ! うちの娘を嫁にもらってくれないか? お前が相手なら娘も大喜びだ!」


 こんなことを言い出す輩まで出る始末。


 少し餌付けしすぎてしまったかもしれないと、リヒトは乾いた笑みを浮かべる。


 ずっとここにいていいと言ってくれるのはありがたいが、これからどうすべきかは正直自分でもよくわからない。


 今後ずっとこの村で暮らすのか。それとも村を出てどこかに行くのか。


 とりあえず生きていく術は身につけたと言えるが、今後特にやりたいことがあるわけでもなかった。


 魔法の才能があるなら極めてみたいと思うかもしれないが、リヒトには良くも悪くも炊飯しかない。


 レベルが上がったら新しいスキルが解放されたりするといいのだが。


「まあ、何かやりたいことができたらまた考えればいいか」


 それまではここで着実にレベル上げをしておこう。


 そんな呑気なことを考えていたリヒトだったが、転換点は意外にもすぐに訪れるのだった。


 ◇


 ある日のこと。


 いつものように農作業をしていると、突然誰かの大きな声が響いた。


「おーいっ! 皆来てくれ、森で人が倒れてる!」


 そう叫んだのは、森に狩猟に出ていたはずの村人だった。


 こちらに大慌てで走ってきて、息をきらしながら皆に説明してくる。


「三人組の冒険者だ。虫の息だが、まだかろうじて生きている」


 冒険者という言葉に、作業していたリヒトの手が止まった。


 やはりこの世界にも冒険者と呼ばれる人々がいるらしい。


 周囲がざわめく中、バルトロが一歩前に出る。


「わかった。すぐに行く。すまないが何人か私と一緒に来てくれ。あとリヒトも来て欲しい」


 バルトロは力のありそうな者数名とリヒトを連れて急いで森へと向かった。


 狩猟に出ていた村人が案内してくれたのは、リヒトがこの世界に来たときに最初に目を覚ました森だった。


「この森は地元の者ならまず迷うことはないが、土地勘のない者には自力で抜け出すのは難しい」


 バルトロがリヒトにそう説明しながら、小走りで冒険者たちの元へと向かう。


 たしかに周囲には似たような木々が多く、歩いているうちに方向感覚を失いそうになる。


 あの時は偶然フェイやルカに出会えたからよかったが、そうでなければリヒトも危なかったかもしれない。


「バルトロさん、あそこです」


 先導していた村人が立ち止まって前方を指差す。


 見ると、三人の人が木の根元に寄りかかるようにして座っていた。


 男性が二人と、女性が一人。


 男たちはそれぞれ剣と斧を持っており、女は魔術師らしい黒いローブを着ている。


「ど、どうします? バルトロさん」


 一人の村人がおずおずと訊ねる。


 彼らの素性がわからない以上、助けるかどうかの判断は極めて重要である。


 仮に彼らが悪党であれば、助けたところで村に危害を加えるかもしれない。


 緊張した空気の中、村人たちの視線がバルトロに集まる。


「むろん、助ける。リヒト、水を用意してくれ」


 バルトロに指示されたリヒトは小さく頷き、すぐに炊飯スキルを使った。


 一人用の小さな土鍋を三つ用意し、その中に水だけを入れる。


 村人たちと手分けしながら冒険者たちに土鍋で水を飲ませると、一人の男が意識を取り戻した。


「……み、ず……ありが、たい……」


 かすれた声でそう言うと、男は息をつく間も惜しんで一気に水を飲み干した。


 次第に残りの二人も意識を取り戻し、同じようにがぶがぶと水を飲み始める。


「た、たすかった……すまんが……くいもの、持ってないか。もうしばらく、口にしていない」


 最初に意識が戻った男が懇願するような目でバルトロを見上げる。


「そっちの、二人だけでもいい……たのむ」


 どうやらこの男がこのパーティのリーダーのようだった。


 男に頼まれたバルトロは何も言わずにリヒトに視線を向ける。


「ええ、一緒に来いと言われたときから何となくわかってましたから」


 そう言ってリヒトはさっそく炊飯を始めた。


 ほぼ毎日炊飯をしているおかげもあり、リヒトの炊飯スキルは格段に向上していた。


 特に最近身につけたのは急速炊飯の技術だ。


 これをすると通常よりも消費する魔力は多くなるが、いつもよりも遥かに短い時間で炊飯ができる。


 少し待つと、すぐにほかほかご飯が出来上がった。


 今回作ったのはシンプルに塩ご飯だ。


 近くにあった葉でご飯を包み、塩むすびにして冒険者たちに食べさせてやる。


「う、うまい……」


 一口かじった男の目から涙が自然と流れ落ちた。


 他の二人も塩むすびをかじるや否や、ボロボロと泣き始める。


「うめえ、うめえ……たすかった……」


「こんなにおいしいの、はじめて……」


「あ、あのー、おかわりもできますからそんなに慌てないでください」


 がっつく三人を見て、リヒトはもう一杯水を用意してやることにした。


 米を食べ終えて再び水を飲むと、三人は少し元気を取り戻したように見えた。


「危ないところを助けてくれて心から感謝します。俺はこのパーティのリーダーのガンツ、そっちの二人は仲間のゴルドーとクロエ。あなた方は命の恩人だ」


 リーダーの男がよろよろと立ち上がり、バルトロと握手を交わす。


 まだ足取りはふらついているが、立ち上がった姿を見てリヒトは安堵の息を吐いた。


「君にも感謝する。随分と不思議な魔術を使えるようだが、君のおかげで助かった。本当にありがとう」


「へっ? あ、いえいえ」


 急にガンツに深々と頭を下げられ、リヒトは慌てて首を横に振った。


(冒険者ってもっと野蛮な人なのかと思ってたけど、こういう丁寧な人もいるんだな)


 冒険者に対する勝手なイメージを改めるリヒト。


 このときのリヒトはまだ、まさか自分が彼らとパーティを組むことになろうとは知る由もなかった。

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