第5話 土鍋で露天風呂
その日の夜、寝室で横になっていたリヒトはなかなか寝付けずにいた。
日中はよく働いたし、体は疲れている。
夕食も炊き込みご飯とリタの作ってくれた野菜スープを食べてお腹はいっぱい。
それでも寝付けないでいる理由。それは、風呂だ。
この村では当然シャワーなんて贅沢なものはなく、村人たちは水で湿らせた布で体を拭くだけだった。
日中は土にまみれながら働いていたので、布で拭くだけでは体がまだパサパサする。
これでは日本育ちのリヒトにとっては清潔とはいえず、熟睡するのは難しい。
どうにかならないものかと、わら布団に寝ころびながらリヒトは考える。
(あ、そうだ)
ふと、一つの妙案が頭に浮かんだ。
さっそく試してみようと思い立ったリヒトは、寝ているバルトロたちを起こさないようにそっと家を抜け出した。
外にでると村はすっかり寝静まっていた。
辺りには人の気配はなく、風の音しか聞こえない。
リヒトは家から少し離れると、適当な草地で足を止めた。
「さて、やるか」
今から挑戦しようとしていること。
それは土鍋で風呂をつくることだ。
これまでの経験上、炊飯スキルでは土鍋の大きさはある程度自由に決められることがわかっている。
そうであれば人間がすっぽり入ってしまうほどの鍋をつくることもできるはず。
問題は中身。
これまではお米などの食材と炊飯に必要な水が入っていたが、これを水だけにする。
それさえできれば後は程よく加温すれば土鍋風呂の出来上がりという作戦だ。
「よし、集中」
もしも間違えて食材を一緒に生成してしまったら、下手すると食品ロスになってしまう。
農家出身の元生産者としては、それだけは絶対に避けたい。
リヒトは土鍋風呂のイメージを何度も頭の中に描いてから、両手を前方に差し出した。
「いけ」
すると、目の前に半径1メートルくらいの巨大な土鍋が現れた。
大きさとしては事前にイメージした通りだ。
蓋をずらしておそるおそる中を覗いてみると、そこには透明な水だけが入っていた。
「おおっ、できたー」
村人たちを起こさないように声を潜めつつも喜びを嚙みしめるリヒト。
すぐに鍋を加温すると、あっという間に40度くらいのお湯になった。
さっそく服を脱いで湯気が上がる土鍋風呂に入浴する。
「うっひゃー、きもちぃぃぃっ」
頭まで沈めて全身でお湯を堪能する。
身体の汚れと疲れが一気に抜け落ちていくようだった。
「やっぱ日本人は風呂ですな。露天風呂サイコー」
異世界生活二日目にして衣食住だけでなく風呂まで手に入れることができた。
想像以上に好調な滑り出しに、リヒトは満足気な笑みを浮かべる。
「あれ、星めっちゃきれー」
ふいに見上げた先にあったのは満天の星空。
リヒトの実家(ド田舎)でもこれくらいの星空は見えたが、よく見ると星座が全然違う。
日本にいたときには見えなかった不思議な星たちが夜空を彩っていた。
「ちょっと得した気分だな」
ご機嫌な様子で異国の星空を眺める。
と、そのとき。
「リヒト? 何やってんの?」
ふたつの小さな頭が土鍋の淵からひょこっと顔を出した。
「――ッ!? お、お前ら、なんでここに!?」
そこにいたのは、寝室で寝ていたはずのフェイとルカだった。
どうやらリヒトの後をこっそりつけてきていたらしい。
慌てて水しぶきを上げるリヒトを、ルカがうずうずとした瞳で見つめる。
「ねえ、それ何? 楽しいの? 僕も一緒に入る!」
「へっ? いや、ちょ、ちょっと待て」
止めようとしたが時すでに遅し。
ルカは早くも服を脱いでおり、すっぽんぽんになっていた。
そのまま土鍋によじ登り、勢いよくお湯へドボン。
「うわーっ! あったかーいっ」
「こら! し、静かにしろ。村人が起きる」
きゃっきゃと楽しそうにはしゃぐルカ。
それを見ていたフェイもついに我慢ができなくなった。
「ルカばっかりズルい! 私も入るっ」
「……は? 待て待て待て待て。フェイ、君はダメッ」
服を脱ごうとするフェイを全力で止める。
フェイはまだ13歳であり、体つきはまだ子どもだ。
とはいえ女性らしい膨らみがないわけでもなく、こんな狭い風呂で混浴となるとさすがに刺激が強すぎる。
仕方なくリヒトは急いでもう一つ土鍋風呂をつくってやった。
フェイにはそちらに一人で入ってもらい、リヒトはルカと一緒に背中を向けて入浴した。
「うわー、すごーい! あったかーい」
背後からフェイの嬉しそうな声が聞こえてくる。
二人とも土鍋風呂にご満悦のようだ。
「お前ら、今日のことは村の皆には内緒だぞ?」
「「はーい」」
ご飯を配るくらいならまだしも、村人たちの分の風呂まで用意するとなるとさすがに大変である。
この娯楽はしばらくはここだけの秘密にしておこう。
「はあ、なんか疲れたな」
ゆっくり入浴、とはいかなかったが、おかげでリヒトはその夜ぐっすり眠ることができた。




