第4話 レベルアップは突然に
バルトロの家で一夜を過ごしたリヒトは翌朝、村の仕事を見学させてもらった。
この村は人口が100人ちょっとくらいしかおらず、大人たちは皆朝から働いている。
男たちの仕事はもっぱら土地の開拓や農作業などの力仕事だ。
狩猟などで外に出る者もいるが、基本的には皆村の中で働いている。
一方で女性の仕事は食料加工や衣服の仕立てなどがある。
特にここではライ麦を栽培しており、彼らの主食であるライ麦パン作りは重要な仕事だ。
それ以外にも豆や肉を保存食にしたりと、やることはたくさんある。
それゆえに子供たちも遊んでいるだけでなく、フェイやルカのように森に採集に行ったり、家畜の世話をしたりとそれぞれ家の手伝いをしている。
「小さな村だからな。村人全員が家族のようなものだ」
そう言いながら、バルトロはリヒトをつれて仕事場へと向かう。
バルトロの仕事場である農耕地には既に何人も男たちが働いており、リヒトは挨拶をして回った。
挨拶ついでに今朝作ったばかりの塩むすびを配ると皆目を輝かせて食べてくれた。
「な、なんだこりゃ」
「う、うめえ!」
「おい、もっとくれ!」
あまりの美味しさにまた作って欲しいと依頼してくる人が続出。
結果、特に今後の予定もなかったリヒトはしばらく村に滞在させてもらうことになった。
行く当ても家もない根無し草だったわけなので、リヒトとしてもありがたい。
ただ村に残るならば何もしないわけにはいかないので、リヒトも農作業を手伝うことにした。
働かざる者食うべからずである。
リヒトに与えられたのは鍬で土を耕していくというベタな作業だった。
幸い農家出身ということもあり、子どもの頃から土に触れていたリヒトにとって難しい仕事ではなかった。
制服では動きづらいので村人から借りた布の服に着替えて、さっそく土を耕していく。
「ほう、なかなか上手いじゃないか」
「ハハ、実家でも似たようなことしてたんで」
バルトロに褒められつつ、黙々と作業をこなしていく。
土が相手ならどこまでも集中できる。
それはリヒトが前の世界で身につけていた一つのスキルだった。
むしろ同世代の学生と話すより土と戯れているほうが落ち着くくらいである。
そのためリヒトにとってこの村での生活はそこまで苦ではなかった。
途中で休憩を挟みながら作業を進めていると、気がつけばあっという間に夕方になっていた。
いつの間にかリヒトも土まみれである。
「よし。今日はここまでとしよう。皆お疲れ。ゆっくり休んでくれ」
バルトロの合図で仕事をしていた男たちは解散し、夕食をとるために各自の家に帰っていった。
リヒトは村に滞在している間はバルトロの家にお世話になることになっている。
そのため今晩も再びバルトロの家に帰宅した。
「ただいまー」
「お帰りお父さん! あ、リヒトもいるー」
子どもたちが笑顔で出迎えてくれる。
この笑顔を見るだけで疲れが半分くらいは吹き飛びそうだ。
ふと台所を見ると、リタが夕食の準備に取りかかっていた。
「手伝いますか?」
リヒトが訊ねると「いいの?」とリタが期待の目で見返してきた。
自分のせいで食いぶちが一人増えてしまったので、手伝うのは当然である。
それにリヒトからしても疲れた後はライ麦パンよりもしょっぱいご飯の方が食べたい気分だった。
「ええ、もちろんです」
ニコリと頷いて、さっそく昨日と同じように炊飯の準備を始める。
頭の中で6人分くらいのお米をイメージしながら(実際は5人だが昨日は足りなかったため)スキルを使う。
するとすぐにいつもの土鍋が目の前に現れた。
上手くできたか確認しようと蓋を開けてみると、
「……あれ?」
中に入っていたのはいつもの白米――だけではなく人参やごぼう、しめじ。さらには角切りになった鶏肉まで。
「これって……炊き込みご飯?」
まだただの材料だが、もう既に美味そうに見える。
だがリヒトの内心はそれどころではなかった。
おかしい。こんなものイメージしていないのに。
気持ちを落ち着かせようと、一旦蓋を閉じる。
一番最初にやったときはただの白米。その次は塩ご飯で、今回は炊き込みご飯。
明らかに内容がグレードアップしている。
一体何が起こっているのか。
悪化しているわけではないが、自分のスキルを制御できないというのは何とも落ち着かない。
「ま、まさか」
急いでリヒトは自分のステータスを確認してみる。するとそこには――
【名 前】リヒト・タナカ
【年 齢】17
【レベル】8
【体 力】54
【攻撃力】62
【防御力】57
【魔 力】70
【スキル】炊飯
「やっぱり、レベルが上がってる!」
初めて見たときはレベル5だったのに今は8になっている。
なぜ? 魔物と戦闘とかしてないのに。土、耕してただけなのに。
だが、そうであれば今の状況も説明がつく。
昨晩の炊飯が塩ご飯にグレードアップしたのは、おそらく森での採集を手伝っている間にレベルがあがっていたのだろう。
そして今日の炊飯が炊き込みご飯になったのは、日中の重労働で再びレベルが上がったから。
どうやら魔物と戦わなくても、それ相応の負荷がかかれば経験値的なものが蓄積されていくシステムのようだ。
「リヒト、どうかしたか?」
夕飯のメニューが気になったのか、バルトロが台所を覗いてきた。
「あー、いえ大丈夫です。でも今日のメニューは昨日よりもちょっと豪華かもです」
その日の夕飯が家族から大好評だったのは言うまでもなかった。




