第3話 塩、生成できました
森での採集を終えたリヒトはフェイたちと一緒に村へと歩いていた。
なだらかな道をしばし歩くと、ようやく小さな集落が見えた。
「おお! 村だ」
太い木材でできた柵の内側に木造の平屋がいくつも立ち並んでいる。
周囲には畑や川もあって、ちらほらと人影が見えた。
見た感じ、やはり農業中心の村らしい。
かなり田舎な雰囲気だが、人が住んでいるということがわかっただけでリヒトは大きな安心感を覚えた。
「こっちだよ。ここが僕たちの家」
ルカに案内されたのは村の真ん中にある、他に比べたら比較的大きな家だった。
ドアを開けてフェイとルカが大きな声でただいまと叫ぶ。
すると中から一人の男性が出てきた。
「二人ともおかえり。今日は少し遅かったな――ん、そちらは?」
男性の視線がフェイたちの後ろにいたリヒトに止まる。
まるで異邦人でも見るかのような物珍しげな目だ。
実際にリヒトはこの世界では異邦人なわけだが。
「初めまして。俺、リヒトって言います。森で迷子になっていたところを二人に助けてもらいまして」
「それは災難でしたな。私はこの子たちの父で、この村の長をしておりますバルトロと申します」
そう言ってバルトロは握手の手を差し出してきた。
農業で鍛えたであろう筋肉質な腕に、身長180は越えているだろう大柄な体躯。
銀色の短髪と髭面は貫禄があり、リヒトは背筋がピンとなる。
「あら、お客様?」
話し声を聞いて家から出てきたのは、麻布のスカートをはいた薄茶色の髪の女性。
きっとフェイたちの母親だろう。
翡翠色の瞳が美しい、やさしそうな顔つきの人だった。
「こっちは妻のリタです。今はここで四人で暮らしております」
バルトロがそう紹介すると、リタが軽くお辞儀をした。
挨拶をするリタに、子どもたちがかごの中身を自慢げに見せつける。
「お母さん見て見て。こんなに木の実がたくさん! それに薬草も!」
「リヒトが手伝ってくれたの。それにお米も食べさせてくれて、すっごくおいしかった!」
「あらあら。そうだったの。でもお米って?」
首をかしげながらも、かごの中身を見たリタは嬉しそうだった。
三人の様子を見ていたバルトロがリヒトの方に向き直る。
「どうやら子どもたちが色々とお世話になってしまったようで。もう夜になるし、よければ今晩はうちに泊まっていってください。貧乏ですのであまりもてなしはできませんが」
「そうさせてもらえると大変助かります。実は行く当てがなくて困ってたので」
何とか初日から野宿は免れたと、リヒトは内心で胸を撫で下ろした。
◇
家に入れてもらったリヒトは中を案内してもらった。
ドアをくぐるとすぐに食卓と台所があり、その奥には家族の寝室と大きめの物置部屋がある。
室内は薄暗くて、全体的に少し埃っぽい。
日本の衛生事情に慣れているリヒトにとって、お世辞にも清潔とは言い難かった。
とはいえ、見知らぬ土地で野宿するよりは遥かにマシだ。
家の中を一通り見せてもらったリヒトは、すぐに台所にいるリタに声をかけにいった。
「あの、リタさん」
かまどの前で食事の用意をしていたリタが振り返る。
「ごめんなさい。食事ならもう少し時間がかかるわ」
「あ、いえ。そうではなくて」
バルトロがうちに泊まっていけばいいと言った際に、リタの顔が一瞬曇ったのをリヒトは見逃さなかった。
その理由が見ず知らずの男を家に上げることの警戒心ではないことは、この貧相な家を見て容易に察することができた。
「もしよければ食事の用意を手伝わせてください」
「えっ」
リタが大きく目を見開く。
おそらくリタが懸念していたのは「食事」だろう。
人が一人増えたら家族の食事がその分少なくなる。
ましてやそれが若い男となれば、余裕のない家計にとってはかなりの痛手だ。
だが、リヒトにはちょうどよいスキルがあった。
「まあ、料理ができるというわけではないんですけどね」
リヒトが言うと、リタはますますわからないといった顔で首を傾げた。
とりあえず説明するよりも見せた方が早いだろう。
リヒトは台所の脇にしゃがんで昼間と同じ要領で両手を体の前に出す。
今からやるのはもちろん「炊飯」だ。
昼間はお試しだったので二合分くらいだったが、今回は五人分の食事なのでもう少し多めに用意したい。
リヒトは前回よりも大きな土鍋をイメージしながら頭の中で「スキル炊飯」と唱える。
すると、目の前にリヒトのイメージ通りの大きさの黒い土鍋が現れた。
「え? えっ? ど、どういうこと!?」
困惑するリタを余所目にリヒトは鍋の中身を確認する。
そこには美しい白米と適量の水がしっかりはられていた。
「よし、上手くいった。もう少しでできると思いますから、少々お待ちください」
そう言ってリヒトは鍋に熱を加えていく。
火加減や時間の調整については米農家出身のリヒトにとってはお手の物だ。
そのまましばし待つと、ふっくらとしたお米が炊きあがった。
「あ! お米だー!」
「やったー! 早くたべたいっ」
「ほう、何だこれは?」
気がつくと子どもたちやバルトロも集まっており、土鍋を覗き込んでいた。
リタさんにお願いして人数分のスプーンを持ってきてもらい、さっそく皆で試食してみる。
「あれ? リヒト、これ森で食べたときよりももっとおいしくなってるよ」
「え? うそ」
ルカにそう言われて、リヒトは慌てて味見してみた。
するとそこにあったのは、ほのかな塩味だった。
なんと今回は勝手に塩ご飯になっていたらしい。
「ほんとだ! こっちのほうがおいしー」
続けてフェイも一口頬張り、感嘆の声をもらした。
子どもたちにつられてバルトロとリタも土鍋の米をスプーンですくう。
「確かに、これは美味い。まさか塩を生み出せるとは……驚きだ」
「ええ。やわらかいし、塩がしっかり効いててすごくおいしいわ」
バルトロとリタが驚愕の目でリヒトを見る。
二人にとってはご飯そのものよりも塩がついていることの方が驚きだったようだ。
きっとこの世界では塩はかなり高価な品なのだろう。
「いやー、俺もよくわかんないんですけど。とりあえず喜んでいただけたならよかったです」
想定外の結果に一瞬冷や汗をかいたが、無事に喜んでもらえたようで一安心するリヒトであった。
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