第2話 餌付け生活
森でご飯を食べていた理人の前に現れたのは、小さなかごを背負った可愛らしい女の子と男の子の二人組だった。
女の子のほうが少し大きくて中学生くらいで、男の子のほうはまだ子どもだ。
二人とも薄茶色の髪に翡翠色の瞳という、明らかに異世界人っぽい見た目だった。
「ねえ、それ何?」
「え、これ? これはお米だよ」
「お米? 何それ?」
男の子が興味津々で土鍋を覗き込んでくる。
どうやら日本語で普通に会話できるらしい。
異世界に来ているのになぜか現地人と共通言語で会話ができるのも転移ものあるあるだ。
「弟がいきなりごめんなさい。私はフェイ。こっちは弟のルカ」
「俺は、リヒトだ。よろしくな」
女の子が簡単な挨拶をしてくる。
二人は姉弟であり、フェイは今年で13歳になるお姉さんで、ルカは8歳の弟だった。
「ねえリヒト、お米ってなーに?」
ルカが目を輝かせながら聞いてくる。
やはり彼らは米というものを知らないらしい。
ここが異世界であるなら妥当な反応だ。
異世界の食事といえば、やはり定番は硬い黒パンと薄味の野菜スープ。
たまに米などの穀物が流通している世界もあるが、メジャーな食べ物ではないはずだ。
となれば、彼らが米を知らなくても不思議ではない。
「これ、すっごくおいしそうな匂いがする。一口食べちゃだめ?」
「こらルカ。人のものとっちゃだめでしょ」
そう言いつつ、フェイの視線もご飯に釘付けだった。
腹を空かせているのだろうか。二人の生唾を飲む音が聞こえてくる。
「別にいいぞ。ちょうど俺一人で食うには多すぎるかなと思ってたところだし」
そう言って箸を差し出すと、二人ともキョトンとした顔をした。
なるほど。箸の使い方がわからないらしい。
使い方を教えるのもめんどくさかったので、少し行儀が悪いが手づかみで米をとって食べて見せてやる。
もう熱々ではなかったので手でも問題なく食べられそうだ。
二人もリヒトの真似をして、手を土鍋に突っ込んで米を口に運ぶ。
「! おいしーっ!」
「うん、やらかくておいしい! こんなの食べたことない!」
米を頬張る二人を見て、リヒトの顔に自然と笑みが浮かぶ。
美味しそうに食べてくれる人たちの顔を見るときが農家の醍醐味だという親父の言葉を思い出す。
「そりゃよかった。全部食べちまっていいぞ」
「ほんとに!? やったー!」
そう言って勢いよく食べ始めるルカ。
フェイも負けじと土鍋に手を突っ込む。
結局二人はあっという間に二合近くあった米を平らげてしまった。
食べ盛りの子どもの食欲は恐ろしい。
「ねえリヒト。もしかしてリヒトは魔術師?」
米を食べ終えたルカが、今度はリヒトの服装をまじまじと見つめてきた。
この世界では見慣れないブレザー制服姿が魔術師のように見えたのだろう。
「いやいや、俺はただの高校生だよ」
「コーコーセー? なにそれ?」
「え? あー、そうだなあ」
思わず言葉を詰まらせるリヒト。
この世界にも学生というのはいるのだろうか。
魔法学校などがあるなら学生がいてもおかしくないかもだけど。
「まあ、俺はただの通りすがりの迷子みたいなもんさ」
「ふーん。変なのー」
適当にごまかすと、ルカが無邪気に笑った。
満腹になって幸せそうな二人を見ながら、今度はリヒトが聞き返す。
「そういえば、二人はどこから来たんだ?」
せっかく偶然人に会えたのだから、この機を逃すわけにはいかない。
この世界について何もわからないリヒトはとにかく情報が欲しかった。
「私たちはベルタの村から採集にきたんだよ。このあたりは薬草とか木の実とかがあるからね。ほら」
フェイが得意気な顔で背負っていたかごの中身を見せてくる。
どれも見たことがない草や木の実ばかりだった。
「へえ、すごいな。ちなみに二人は村で暮らしてるのか?」
「うん。お父さんとお母さんと一緒に住んでるよ」
どうやらこの近くに村があるらしい。
村に行けば大人もいるだろうし、この世界のことをもっと詳しく聞けるかもしれない。
行く当てのないリヒトにとって、これほどの朗報はなかった。
「なあ。もしよかったらお前たちの村に案内してくれないか?」
「いいよー。でも村についたらまたさっきのやつ食べさせてくれる?」
キラキラした目で聞いてくるルカ。
まさか交換条件で食い物をねだってくるとは。
リヒトはやれやれと笑みを浮かべる。
「ああ、わかったよ。何ならお前らの採集も手伝ってやる」
「いいの? やったー! じゃあ僕がリヒトに木の実の取り方を教えてあげる」
ルカがリヒトの手を強く引いて、森の奥へと駆けていく。
つい数分前まで初対面だったのに、フェイもルカもすっかりリヒトに懐いていた。
(なるほど。炊飯スキルの餌付け効果、恐るべし)
こうして、リヒトの炊飯スキルによる餌付け生活が始まった。




