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第1話 スキル「炊飯」

「……あれ? ここ、どこだ?」


 一人の少年が、とある森で目を覚ました。


 紺色のブレザーの制服を着た典型的な日本人顔の少年。


 細身の体型。平均的な身長。無難な顔。


 日本全国のどこにでもいそうなその少年は、周囲を見回しながら小さくつぶやいた。


「これってアレか。もしかして異世界転移ってやつか?」


 田中(たなか)理人(りひと)は、今年で17歳になる平凡な高校二年生だった。


 ついさっきまで学校の教室にいたはずなのに、気がつくと理人は不思議な森の中にいた。


 見たこともないような色や形をした植物。


 足元には柔らかい黄金色の苔。


 ジ〇リ映画に出てきそうな大樹。


 少なくともここが日本ではないということは、まだ高校生の理人からしても明らかだった。


「ファンタジー系の世界に迷い込んだ感じか」


 暇な時間のほとんどをラノベとゲームに突っ込んでいた理人にとって、この手の話を理解するのは難しくなかった。


 夢にしてはやけにリアルだし、これはラノベでよくある異世界転移が現実に起こったと考えて間違いないだろう。


 なぜそれが自分だったのかは疑問ではあるが。


「はあ、なんでこんな陰キャをわざわざ呼び寄せたかね」


 とはいえ、誰の仕業かはわからないが起こってしまったものは仕方がない。


 戻る方法があるならいいが、そうでなければこの世界で生き抜く方法を考えるしかないだろう。


 となれば、まず最初に確認するのはアレだ。そう、ステータス。


 気になるのは自分にどんなスキルがあるのかだ。


 こういうのは大抵、異世界転移者特権として何かしろのスキルが与えられているはずである。


 ステータスについて考えていると、突然目の前に半透明のウインドウが現れた。


「お、そうそう。これこれ」


 そこに書いてあったのは、



【名 前】リヒト・タナカ

【年 齢】17

【レベル】5

【体 力】35

【攻撃力】45

【防御力】40

【魔 力】50

【スキル】炊飯



「…………は? スキル『炊飯(すいはん)』……?」


 見慣れない言葉に思わず目を疑う。


 炊飯って何。米を炊くアレのこと? 


 それがスキル?


 無一文で何の取り柄もない高校生がこれから異世界で生きていくためのスキルが炊飯?


 あまりにも予想外の結果に、呆然と立ち尽くす。


「な、なんで炊飯? もしかして、俺の実家が米農家だからか!?」


 理人の実家は数時間に一本しかバスが来ないような、いわゆるド田舎だった。


 先祖代々で土地を受け継ぎながら、家族経営の米農家をやっている。


 田舎過ぎて実家からは高校に通えないため下宿をしていたが、田植えや収穫などの繁忙期には理人も休日に帰省して家業の手伝いをしていた。


 もちろん理人の実家と今回のスキルに関係があるのかは不明だが。


「最悪だ。完全に外れスキルじゃん……」


 どうせだったら火属性の攻撃魔法とか欲しかった。


 男子というのはいくつになっても火属性魔法に憧れるものだ。


 肩を落としつつも、理人は近くにあった木の根に腰を下ろす。


 外れスキルとは言え、せっかく神(実際に会ったわけではないが)から授かったスキルだ。


 一度くらいは試してみるべきだろう。


「つーかこれ、どうやって使うんだよ」


 誰からも説明を受けていないのでよくわからないが、とりあえず頭の中でイメージしてみる。


 こういうのはイメージが大事と相場は決まっているのだ。


 理人は両手を体の前に出し、お米が炊ける様子を頭に思い浮かべた。


 すると目の前にいきなり、真っ黒い土鍋が現れた。


「うおっ!?」


 まさかの初回成功に大きな声が出る。


 土鍋は地面に直置きになっており、コンロのようなものは見当たらない。


 おそるおそる蓋を開けると、中には米と水が入っていた。


「マジで、炊飯だ……」


 食えるのか、これ。


 というか火がないけど、どうやって炊くの。


 とりあえず蓋を閉めて、もう一度考えてみる。


 冷静に考えてみれば、念じるだけで土鍋と米と水を出せたというのはある意味凄い。


 あとは火さえあればとりあえずは食うものに困らないということになる。


「火も同じように念じれば出せるのか?」


 理人はもう一度土鍋に向かって手をかざし、鍋を火にかける様子を強くイメージした。


 すると少しして、土鍋の中の水がコポコポと音をたて始めた。


「おおっ! 沸騰してる!」


 土鍋の外に火がついた様子はないが、確実に鍋が熱せられているのがわかる。


 古風な見た目に反して、意外とIH的な原理なのかもしれない。


 蓋から湯気が漏れ出てくるのを眺めながらしばし待つと、やがてふっくらとしたご飯が炊きあがった。


 さっそく食べてみようと、近くに生えてた細めの木の枝を箸替わりに使ってお米を口に運ぶ。


 一口食べると、それはまさしく炊き立てのご飯であった。


「うん、美味い」


 土鍋特有の香ばしい香りと、米本来の濃厚な旨味。


 米農家出身の男児もうならせるほどの美味しさがそこにあった。


 気づけば二口、三口と自然と箸が進む。


 おかずがなくてもご飯が進むというのは、良い米の証だ。


 スキル「炊飯」、意外と侮れない。


 理人がご飯に気を取られていると、近くの茂みがガサガサと音を立てた。


「っ!? な、なんだ……?」


 しまった、と理人は思った。


 仮にもここは異世界。


 どんな危険があるのかわからないのに呑気に飯を食うなんて間抜け過ぎる。


 己の愚かさを反省しつつおずおずと茂みに目をやると、そこには二つの小さな人影が見えた。


「あ、見つかっちゃった」


「こ、子ども……?」


 それは理人がこの世界で初めて会った「人」であった。

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