第20話 再会
ニーナと出会ってから数日が経った。
炊飯スキルの餌付け生活により、リヒトはすっかりニーナに懐かれていた。
バラエティ溢れる豪華なご飯、あったかい土鍋風呂と床暖房付き土鍋キャンプ。
至れり尽くせりの贅沢環境に、ニーナは完全に虜になっていた。
ちなみに同居するにあたり、リヒトはニーナ用の布団を新しく買ってやった。
そうしないとニーナがリヒトの布団に無理やりもぐりこんできてゆっくり眠れないので仕方なく買い与えたのだ。
安い買い物ではなかったが、理性を保ち安眠を得るためにはやむを得ない出費だった。
このように色々と頭を抱えることも多かったが、一方でニーナとの共同生活はリヒトにとってもそこまで悪いものでもなかった。
顔の広い彼女のおかげでバザーでの販売は好調だし、自然と街の住人たちとの交流も増えた。
また魔術の練習も一人でやるより捗ることが多かった。
そして何より、自分が作ったご飯を「おいしい」と言ってくれる人がそばにいるのは、想像していた以上に心地のよいものだった。
こんな生活がずっと続くのも悪くないかもしれない。
いつの間にかリヒトはそう思い始めていた。
「さーて、今日もさくっと稼いじゃおっか! リヒト、準備できたー?」
「ああ、いつでもオーケーだ」
その日も二人はいつものようにバザー会場で食料の販売をしていた。
ニーナの明るい声とリヒトの料理の匂いにつられてたくさんの人が集まってくる。
中には顔馴染みになっているリピーターも多く、気さくに話しかけてくれるお客さんも増えた。
初めはただのお金稼ぎでしかなかったが、今では街の人々の笑顔を見るのが少しだけ楽しみになっていた。
「うん、今日も順調だな」
お客さんの波が一段落し、リヒトがホッと一息ついていた頃。
通りを歩く人混みの中から、手を振りながらこちらに歩み寄ってくる三人組がいた。
「よう、リヒト。元気そうだな」
「あ、ガンツさん!? それにクロエさんとゴルドーさんも!」
リヒトの元に現れたのは、かつて一緒にベルタの村からプリスペルの街へと旅をした仲間であるガンツ、クロエ、ゴルドーであった。
懐かしい仲間との再会に、リヒトの顔に自然と笑みが浮かぶ。
「お久しぶりです。今日は冒険者ギルドの依頼はないんですか?」
「ああ、こっちでの仕事も大分慣れてきたからな。今日は依頼は休んで街に調達にきたんだ。ついでにリヒトのとこも寄ってみようと思ってな」
腕組して微笑みながら、ガンツが言う。
Bランク冒険者であるガンツたちは普段はギルドの依頼で街の外に出ていることが多かった。
「なるほど。でもよく僕がここにいるってわかりましたね?」
「あなた、冒険者ギルドで噂になってるわよ。バザー会場で街のどの高級レストランよりも美味い料理を売ってる変わり者がいるって」
「え……?」
「そんなやつ、絶対リヒトしかいねーってすぐわかったからよ。こうやって遊びにきたんだぜ!」
ガンツの両隣にいたクロエとゴルドーがくすくすと笑いながら言った。
どうやらリヒトの存在は街中に知れ渡っているらしい。
嬉しいような、恥ずかしいような。
何とも言えない複雑な気分だった。
「ねえねえ、この人たちはリヒトの知り合い?」
隣で話を聞いていたニーナが会話に入ってくる。
興味津々な様子で三人の顔をじっと見比べる。
「うん。ベルタの村で知り合って、プリスペルまで一緒に旅をさせてもらったんだ」
「へえ、じゃあ皆さんもベルタの村に来たことがあるんですね!」
リヒトはガンツたちがバルトロに助けられたこと、そしてニーナがバルトロの娘であることをそれぞれに紹介した。
共通の話題があるおかげで、初対面にもかかわらずニーナたちはすぐに打ち解けた。
「ねえニーナ。ちょっと聞いてもいいかしら?」
談笑していたさなか、クロエがニーナの首元を見ながら切り出す。
「ずっと気になってたんだけど、そのペンダント、もしかして魔鉱石?」
「え、すごい! わかるんですか?」
「わかるわかる。しかもそれ、かなり上質な魔鉱石でしょ」
まるで宝物を見つけたかのような目で、クロエがニーナの紫色のペンダントを見つめる。
かつてリヒトの炊飯スキルにも異常な食いつきを見せたクロエ。
魔術オタクの彼女には、魔鉱石もストライクゾーンだったらしい。
「ステキね。よかったら近くで見てもいい?」
「ええ、どうぞどうぞ」
ニーナがペンダントを手に取って持ち上げる。
差し出されたペンダントを近くで見ようと、クロエが顔を近づける。
その瞬間だった。
――ピキッ
「……へ?」
ペンダントに、一筋の亀裂が入った。
美しかった紫色は曇り、その輝きが一瞬で消え失せる。
突然の出来事に場の空気が凍りついた。
「う、うそ……な、なんでー!?」
「クロエ……お前、何したんだ」
「し、してないしてないっ! 何もしてないわよおー」
横からガンツにじっとりとした視線を向けられ、クロエが慌てて首を横にふる。
一方のニーナはというと、目の前で慌てふためくクロエのことは気にもかけず、ただ黙ってヒビ割れたペンダントを見つめていた。
今まで見たこともないくらい神妙な面持ちに、リヒトは思わず息を呑んだ。
「……ニーナ? 大丈夫か?」
リヒトが声をかけてもニーナの視線はしばらくペンダントから離れなかった。
よほど大切なものだったのだろうか。
気まずい空気が流れる中リヒトが心配していると、ニーナの唇がわずかに動いた。
「……らが、……ない」
「え?」
リヒトがニーナの口元に耳を近づける。
ニーナはペンダントを見つめたまま、絞り出すような声でつぶやいた。
「村が、危ない」




