第19話 濡れ場だね
バザー会場での販売を終えたリヒトとニーナは、大通りで買い物をしたり、街中をぶらぶらしたりしながら過ごしていた。
「ねえねえ、この後はどうするの?」
「そうだな。特に予定はないし、魔術の練習でもしようかな」
リヒトは以前クロエに魔術を教えてもらった日から、毎日欠かさずに魔術の練習をしていた。
まだまだ実戦で使えるレベルではないが、以前に比べれば多少は魔力をコントロールできるようになっていた。
「へえ、いいね! じゃあ一緒に練習しよ。私も魔術師だから色々教えてあげる」
ニーナが得意気な顔で覗き込んでくる。
ニーナはベルタの村で唯一魔力を持って生まれた少女だった。
以前クロエに教えてもらった通り、魔術が使えるかどうかは生まれつきで決まるものであり、親の遺伝はあまり関係ないらしい。
つまり完全にガチャであり、ニーナはそれを持っている人間だった。
彼女がどれくらい魔術ができるのかわからないが、まだまだ修行中の身であるリヒトからすればニーナの提案は素直にありがたかった。
「それは助かるよ。じゃあどこか練習できそうなとこに行こうか」
「今朝私たちが会った河原とかどう? あそこなら人もいないから練習できそうだし」
そうしてリヒトとニーナは二人が出会った河川敷の橋の下に戻ることにした。
少し歩いて目的地の河原に到着すると、周囲に誰もいないことを確認して二人で向き合う。
「ではさっそくだけど、リヒトが今どれくらい魔術を使えるのか見せてもらえる?」
「ああ、わかった」
リヒトは右の手のひらを上にむけると、心の中でウォータボールと唱えた。
すると手のひらの上にはグレープフルーツくらいの大きさの水の球が現れた。
「へえ、水属性の魔術師なんだ!」
「まあね」
本当は他にも火属性と土属性の適正も持っているが、騒がれても面倒なのでまだ言わなくていいだろう。
それに水属性の魔術だってまだまだ使いこなせているわけではない。
ウォーターボールを作ることはできるようになったが、これ以上は大きくはならないし、何より飛ばないのだ。
やはり魔法と言えば敵に向かって遠距離攻撃をしてこそである。
ウォーターボールでもファイアボールでも石礫でもいいから、とにかく敵に向かって飛ばしたい。
だがリヒトがどれだけウォーターボールを飛ばすイメージをしても、この水球が手から離れることはなかった。
「ウォーターボールを作るとこまではなんとかできたけど、飛ばしたりはまだできないんだよね」
「なるほどー。まだ体から魔力を飛ばす感覚が掴めてないのかもね。私が手伝ってあげるよ」
そう言ってニーナは、ウォーターボールを生じさせているリヒトの右手のすぐ下に自分の手を重ねた。
「今から私の魔力を少しだけリヒトの中に流し込んで、魔力を飛ばすイメージを教えてあげるね。それで感覚はつかめるはず」
「そ、そんなことできるのか?」
「できるできる。たぶん」
「え、たぶん?」
「ほら、いいからいいから。こういうのは体で覚えるのが一番なの。じゃ、いくよ」
次の瞬間、リヒトの体のなかに何か熱いものが入り込んできた。
ニーナの魔力がリヒトの体内を駆け巡る。
(うわっ、なんだこれ……ッッ!?)
今まで味わったことがない不思議な感覚。
体の芯がゾクゾクと震えるのがわかる。
気がつけば手のひらの上のウォーターボールは見る見るうちに大きくなっていた。
「まだまだァ!!」
ニーナの威勢の良い声とともにボールはさらに膨らんでいく。
その大きさはバランスボールくらいになっていた。
「ちょ!? これ、どうするの!?」
「よーし! そろそろ飛ばすよ! せーのっ」
ニーナが掛け声とともに思い切り力む。
すると次の瞬間、巨大なウォーターボールが少しだけ浮かび上がった。
だが――
バッシャーーーン!!!
「「ッ!?」」
数十センチだけ飛んだウォーターボールは、盛大に爆ぜた。
あたり一帯に水が飛び散り、リヒトとニーナに容赦なく降り注いだ。
「……ハハハ、ちょっとでかくし過ぎたかも。でも飛ばすイメージはわかったでしょ?」
「まあね、でもびしょびしょなんですけど?」
「これが本当の濡れ場だね♡」
「うまいこと言ってごまかさないでくださいニーナさん」
「まあまあ、そう言わずに水も滴る良い男が台無しだぞ?」
アハハと笑い飛ばすニーナと、今日何度目かわからない溜め息を吐くリヒト。
ふいに見上げた空は日が傾いていて、風が冷たくなっていた。
「ところでリヒトさん。濡れた服と体を急速に乾かす魔術とか使えたりします?」
「そんな都合の良い魔術は知らん」
だがたしかに、このまま濡れた状態では二人とも風邪をひいてしまう。
今日はしっかりと体を温めてから寝るようにしないと。
(なんか疲れた。今日はもうお風呂入ってそのままお布団で寝たい)
二人は魔術練習を切り上げることにし、今日は体を休めることにした。
ちなみにこの後リヒトが土鍋風呂を用意したのだが、当然ニーナからもせがまれて先に入浴させてやることになった。
一番風呂に入れてもらったニーナは、終始ご満悦な様子で土鍋風呂を堪能したのであった。




