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第18話 初めての敗北?

「で、なんでついてくるんだ?」


「そりゃパートナーがどんな仕事してるかくらいは知っておかなきゃでしょ」


 朝食を食べ終えたリヒトは、いつも通り店を出すためにバザー会場へと向かった。


 その横には当然のような顔でついてくるニーナ。


 成り行きで彼女と共同生活をすることになってしまったが、今日はリヒトの生活を一日観察するつもりらしい。


 めんどうなことになったなと、リヒトは乾いた息をこぼした。


「にしてもいつ来ても凄い人だねえ。お祭りみたいでなんかワクワクしちゃう」


「遊びに来たんじゃないぞ」


「あ、あのアクセかわいー。買って♡」


「話聞いてた?」


 そんな会話をしながら会場を歩いていると、路地の一角に空いている場所を見つけた。


 ゴザを敷いてその上に座り、さっそく炊飯スキルで土鍋を複数用意する。


 鍋にはこれから作る料理の食材が入っていた。


「ひゃー、美味しそう」


「まだ食えないぞ?」


 リヒトが用意した鍋は二つ。


 一つはお米の上に切り落とし牛肉とコーン、バターを乗せた鍋。


 ここに焼肉のたれを入れて炊飯することでペッ〇ーランチ風ご飯になる。


 以前自分用に作ったときにかなり美味しかったので売り出してみることにした。


 価格は塩むすびよりも高めの銀貨一枚。


 どれくらい売れるかわからないが、今回は思い切って挑戦だ。


 もう一つの鍋は少し毛色を変えて甘味にする。


 具体的にはチーズケーキ。


 バターやチーズ、卵やミルクなどが入っており、これをこのまま炊飯する。


 以前ガンツたちと旅をしていたときに昼食で出して評判がよかったやつだ。


 価格はこちらも銀貨一枚でいいだろう。


 少し強気な設定かもしれないが、味には自信がある。


 がっつりご飯系とスイーツ系で、幅広い客層のニーズに応える作戦だ。


「ふおぉ、なんかいい匂いしてきたー」


「売り物だからつまみ食いは禁止だぞ」


「わかってるよお」


 待ち遠しそうに鼻をスンスンさせるニーナ。


 だが彼女の言う通り、料理ができるにつれて美味しそうな匂いが周囲に漂い始めた。


 通りを歩く人たちの中にはこちらをチラチラと気にしている姿も見える。


(よし、できた)


 鍋の蓋を開けて中身を確認する。


 ようやく料理が完成し、すべての準備が整った。


 あとはお客さんが来るのを待つだけだ。


「準備オーケー? それじゃあ客引きは私に任せて!」


「……は?」


 隣にいるニーナを見るリヒト。


 ニーナはその場で立ち上がり、すうっと息を吸い込むと、


「みなさああああぁぁん! おいしいごはんはいかがですかああぁぁ!!」


(!? 声デカっ)


 ニーナの大声が響き、周囲の視線が一気に集まってくる。


「よくわからないけどすっごくおいしいごはんですよおおぉぉ、ぜひ買ってくださああぁぁい」


(説明ヘタ過ぎだろ!)


 なんという雑な呼び込み。


 そんな適当な声かけで一体だれが足を止めるのやら。


 いたたまれなくなったリヒトがニーナを止めようとしたとき、


「……あれ、ニーナちゃん?」


「ん? あ、にくやのおじちゃん!」


 一人の男性がニーナに声をかけてきた。


 見ると、エプロン姿のふくよかな男性が立っていた。


「えっと、こちらは? ニーナの知り合い?」


「うん、お肉屋さんの店長。たまーにバイトしてお肉食べさせてもらってる」


「そうそう。ニーナちゃんが呼び込みしてくれるといつもお客さんいっぱいくるから助かるよー」


 楽しげに笑いながら話す男性。


 なるほど。どうやって彼女がこの街でこれまで生活してたのか気になっていたが、どうやら持ち前の明るさとコミュ力で食いつないでいたらしい。


 リヒトとは一味違うが、これもまた見知らぬ土地で生きるための重要なスキルである。


「ニーナちゃんは今日はここでバイトかい?」


「うん! せっかくだからおじちゃんも何か買ってってよ」


「じゃあそのお肉が入った料理をもらおうかな」


 さっそくペッ〇ーランチ風ご飯が売れた。


 リヒトが急いで事前に用意していた木皿に盛り付けていると、


「あら? もしかしてニーナちゃん?」


「あ、おばちゃん! 久しぶり~、元気してた?」


 今度はマダムっぽいおばさんが話しかけてきた。


 と、その矢先、


「あ、ニーナだー! 何してんのー?」


「お、カイルじゃん。私は今お仕事中~。あ、そうだ、ケーキあるよ?」


 家族で買い物中の少年が声をかけてきたり、


「おうニーナ。次はぜってーチェス負けねえからな!」


「へへーん。わたしと勝負したければここで料理を買ってくださーい」


 ちょっとコワモテのお兄さんが話しかけてきたり。


 いつの間にかニーナの周りに人だかりができていた。


(いやコイツ、どんだけ顔広いんだよ!)


 まさに老若男女から好かれるとはこのこと。


 たった一声でこれだけ人を集めてしまうとは。


 日本にいたときから自身を陰キャと称していたリヒトには想像もできない光景だった。


「みんなー。ここのご飯めちゃくちゃおいしいからよかったら買ってってー」


「ニーナが言うなら買うわー」「このお肉入ったやつちょうだい」「私はこのケーキがいいな」「俺はどっちもくれ」


 急に押し寄せてくるお客さんたち。


 結果、その日も用意していた料理は一瞬で売り切れてしまった。


 気づけば手元には大量の銀貨が。


「やった! いっぱい稼げたね!」


「あ、ああ、そうだね……」


 ニーナの言う通り、この日はこれまでと比較にならないほど稼げた。


 お客さんたちも皆リヒトの料理を心から美味しいと言ってくれた。


 だが……、


(な、なんか思ってたのと違う!)


 商売は大成功したが、自慢のスキルがニーナのコミュ力に負けたような気がして、なぜか少しだけモヤっとしたリヒトであった。

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