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第21話 いいお友達だね

(……村が、危ない?)


 ニーナの口からこぼれた言葉に、リヒトが固まった。


 いつもとは違う、うつむき加減なニーナの横顔が不安を煽る。


 さっきまであんなにうるさかったはずのバザー会場の喧騒はもうほとんど耳に入ってこなかった。


「それ、どういうことだ。ニーナ」


 リヒトが問いかけると、少し間を開けて返事が返ってきた。


「……このペンダントは、ベルタの村にある魔鉱石と繋がっているの」


 言葉を探すように、ゆっくりとニーナが語り出す。


 ニーナが身につけていた紫色のペンダント。それはただの装飾品ではなかった。


 クロエから指摘された通り、魔鉱石でできているこのペンダントは元々ベルタの村の地下に眠っていたものだった。


 ベルタの村の地下には大量の魔鉱石が今もなお埋まっている。


 村でただ一人魔術適性があったニーナは、幼い頃からそれに気づいていた唯一の存在だった。


 ある日、ニーナは土の中から魔鉱石の欠片を偶然見つける。


 その欠片をペンダントとして保管していたニーナは、村を離れる前に魔術を使ってある仕掛けを仕込んだ。


 それはベルタの村の地下にある魔鉱石と状態をリンクさせる術式。


 つまり村の地下にある魔鉱石が活性化すれば、ペンダントも共鳴して活性化するという仕組みだ。


 村の魔鉱石とリンクしたペンダントを身につけることで、ニーナは村を離れた後も遠く離れた場所から村の魔鉱石の状態を監視していた。


「ペンダントが割れたのは、きっと村の魔鉱石が突然活性化したから」


 ペンダントのヒビを見つめながら、ニーナが言う。


 ペンダントが割れるほどの活性化は、もはや暴走に近い。


 村の地下にあった魔鉱石が何らかの理由で暴走し、その結果共鳴したペンダントが割れたというのがニーナの推察であった。


「なるほど。あの村に、そんな秘密があったとは……」


 黙って話を聞いていたガンツがぽつりとつぶやく。


 ガンツたちがベルタの村を訪れたときは三人とも疲労困憊だったため、魔鉱石の存在にまでは気がつかなかった。


 だが、村の近くの森で遭難したとき、体内の魔力(マナ)が微かに乱されたような感覚があったのを覚えている。


 あの感覚が地下にある魔鉱石によるものだったとすれば納得がいく。


(問題はなぜ急に魔鉱石が暴走し始めたのかということか)


 魔鉱石が魔力に反応するという性質から考えれば、村の近くに強力な魔力を持つ存在が現れた可能性が高い。


 それは魔物か、魔術師か、はたまた別の何かか。


 詳しいことはわからないが、いずれにせよただ事ではない予感がしていた。


「……私、今から村に戻る」


 突然ニーナが切り出し、皆の視線が集まる。


 拳をぎゅっと握りしめながらニーナが続けた。 


「今こうしている間にも村が危ないかもしれない」


 その瞳には強い焦燥が浮かんでいた。


 すぐにでも駆け出しそうになるニーナをリヒトが止める。


「戻るって……どうやって……?」


 プリスペルの街からベルタの村まではどれだけ急いでも一週間近くかかる。


 もし本当に村が危機的状況にあるのなら、今から戻ったところで間に合わない可能性が高い。


「そ、それは……」


 言葉を詰まらせるニーナ。


 リヒトは少しだけ先の自分の発言を後悔した。


「転移魔術を使えばいい」


「……え?」


 口を挟んできたのはガンツだった。


 リヒトとニーナが戸惑っていると、今度はクロエが口を開いた。


「まあ、それしかないわね」


「クロエ、二人に説明してやってくれ」


 ガンツに頼まれたクロエが、落ち着いた声で話し出す。

 

「私は一度訪れたことがある場所なら転移魔術を使って()()ことができるの。もちろん飛べる距離に限度はあるわ。でもここからベルタの村までならたぶんギリギリ届くはず」


 クロエが言う転移魔術は、術者が一度自分の足で訪れたことのある場所であれば瞬間移動することができる空間系魔術だった。


 空間を飛ぶことができる転移魔術は風属性魔術の応用系の一つだった。


 かなり高度な魔術であるが、クロエのようにBランクレベルの風属性魔術師であればマスターしている者も少なくない。


「まあ転移魔術は難しいし、かなり魔力を必要とするから毎回上手くいくとは限らないけどね。でも今回はそのペンダントがあるからきっと大丈夫」


「ペンダント?」


 クロエに言われ、ニーナが首元のペンダントを見やる。


「そう。割れているとはいえ、その魔鉱石はもともとかなり高密度な魔力を蓄えている代物よ。この魔鉱石に含まれている魔力をすべて使えば、ベルタの村まできっと飛べるはず。しかも村にある魔鉱石とリンクしているのなら尚更好都合だわ」


「よし。だったら、5()()でも飛べそうだな」


 横で話を聞いていたガンツが、にやりと口の端を吊り上げた。


 その言葉に、クロエが不敵に微笑む。


「まったく、人使いの荒いリーダーね」


 ゴルドーも拳を突き合わせながら、二人に続いた。


「っしゃあ! ようやくあの村に借りを返せるぜ!」


 仲間の顔を見ながらガンツが小さく頷くと、今度はリヒトの方に視線を向けた。


「リヒト、お前はどうする? もちろん強制はしないが」


「さっき当然のように5人って言ってましたけど?」


「ん、そうだっけ?」


「まあ、もちろん僕も行きますけどね」


 お互いにフッと笑いながら、視線をぶつけあう。


 なんだか一緒に旅をしていたときみたいだなと、リヒトは少しだけ懐かしさを覚えた。


 一方、勝手に盛り上がっているガンツたちの脇で、当の本人であるニーナは置いてけぼりになっていた。


「ええと、本当にいいんですか? 私としては、すごくありがたいけど」


「ああ、行かせてくれ。ゴルドーが言った通り、俺たちはあの村に大きな借りがある」


 ガンツたちにとって、ベルタの村はかつて瀕死の危機にあった自分たちを救ってくれた場所であった。


 ようやくその恩を返せそうだと、三人は胸を高まらせていた。


 ガンツたちの頼もしい眼差しに、不安気だったニーナの顔にも徐々に笑顔が戻っていく。


「ありがとう。皆さんと会えてほんとによかった」


「礼はいい。それよりもすぐに村へ向かうとしよう。クロエ、転移魔術の準備を頼む」


「わかった。じゃあ皆、なるべく体を近づけるようにして、ニーナの周りに集まって」


 クロエの指示に従い、ニーナのペンダントを中心に体を寄せ合うようにして集まる。


「ニーナ、このペンダントを使わせてもらうわ」


「はい」


 クロエがペンダントに触れ、転移魔術の詠唱を始める。


 するとペンダントから眩い光が溢れ、5人の体を包み込んだ。


 あまりの眩しさに、リヒトは思わず目をつむる。


「……ね、リヒト」


「ん?」


 ふと、ニーナが耳元でささやいてくる。


 ガンツたちには聞こえないくらいの小さな声でニーナがつぶやいた。


「ありがとう。いいお友達だね」


「……ああ、だろ」


 次の瞬間、5人の姿はプリスペルの街から一瞬で消え去った。

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