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呪華ノ鎖  作者: 雪ねこ
第三章
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パーティーへの潜入

パーティに紛れ込む為に、ティアは淡い水色のドレスに身を包んでいた。

光を含んだような柔らかな布地は、揺れるたびに色の濃淡が変わり、静かな水面のように表情を変える。

歩くたびに裾がふわりと遅れてついてきて、そのたびに微かな光の粒がふわりと散るようにきらめいた。


髪はいつものように下ろしたまま、右側の上部には白ユリの花を模した大きめの髪飾りが添えられている。

視線が自然とそこへ誘導されるような配置は、意図的なものだ。

長い前髪で隠している右目に触れられることを、避けるように揺れている。


血のように紅い右目。

その奥には黒ユリの紋が刻まれている。


本来、そこに存在するはずのない紋様。

異端であることを示すそれは、誰の目にも触れさせないほうがいい。

ティア自身も、それをよく理解していた。


だからこそ、視界を覆う重みのある髪飾りを着けられても、文句ひとつ零さなかった。


一方でクローディアスは、従者としてではなく、貴族の1人として溶け込む為の装いに身を包んでいた。


落ち着いた紺色の礼服は余計な装飾が少なく、それでいて仕立ての良さがひと目で分かるものだった。

いつもは無造作に跳ねている髪もきちんと整えられ、後ろで緩く束ねられている。


もっとも、よほど癖が強いのか、完全に抑えられているわけではないようだが。


アルビオンの馬車に揺られ、数刻。


目的地に到着したようで、揺れを伴いながら動きが止まった。


先に降りたのはアステルだった。

周囲へ軽く視線を走らせ、問題がないことを確認するように一拍置く。

それに続いてティア、そしてクローディアスが順に馬車を降りていった。


自分も続こうと身を乗り出した、その時。


目の前に、クローディアスの手が差し出された。


当然のように差し出された手に、一瞬だけ動きが止まる。


通常ならば不要な所作だ。

馬車の高さは大したものではないし、足元にはきちんとステップも備え付けられている。

自力で降りることに、何の不都合もない。


それでも差し出された手の意味を理解して、思わず苦虫を噛み潰したような表情を浮かべてしまった。


これは、令嬢が馬車から降りる際に、安全に降りられるようにと行われる作法だ。

そのさりげない行動が、今、自分がどのような格好をしているのかを、嫌でも自覚させられる。


差し伸べた本人は、至って真剣な表情をしていた。


(腹を括るしかない、か……)


重い溜め息をひとつ吐き出す。

諦めにも似た感情を押し込めるようにして、黒いレースの手袋を嵌めた手をゆっくりと持ち上げる。


そして、その手をクローディアスの手へと重ねた。





パーティー会場である大広間には、既に多くの人々が集まっていた。

それぞれがグラスを片手に、歓談を交わしている。


見知った顔がいくつもあり、バレないだろうかと不安すら抱いた。

だが、それもすぐに杞憂だと知ることになる。


挨拶を交わした相手は、誰ひとりとして違和感を覚えていない様子だった。


それこそ、カーディナの人間でさえも。

兄や姉の顔もあったというのに、薄情とさえ思うほどに。


好都合なことには変わりないのだが。

同時に、それほどまでに関心が無かったのかと思い知らされる。


会話を交わすのはアステルの役目だった。

話しかけられれば彼が受け答えし、こちらは最小限の応対をする。


新参者という立場のお陰で、不自然に受け取られていないようだ。


少しでも気を抜けば、声質から“男”だと気付かれる可能性もある。

だからこそ、この立ち回りは有り難かった。



挨拶もそこそこに終えた頃。

これくらいで十分だろうと判断したアステルによって、行動を移すように指示された。


表向きは

“慣れない社交に疲れて、休憩に席を外した”

という名目で。

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