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呪華ノ鎖  作者: 雪ねこ
第三章
92/115

好意を抱いた理由

「……という感じです」


ティアの長い髪を、指先で丁寧にまとめながら、思い出話を締めくくる。

高い位置でふたつに結び終えたところで、そっと手を離した。


それまで静かに話を聞いていたティアは、しばらくの間ぽかんと固まっていた。


「……え?」


ようやく出てきた声は、それだけだった。


「えっと……、なんでそれで好きになったの?」


少し遅れて飛んできた問いに、こちらも一瞬だけ言葉に詰まる。

髪を軽く指で整えながら、視線を少しだけ逸らした。


「うーん……」


改めて何故と問われても、はっきりとした理由は浮かばなかった。

自分でも考えてみても、これだと言い切れる答えは見つからない。


けど、無理やり言葉にするのなら、と言葉を続けた。


「流されたんでしょうねぇ……私。我ながらおかしいとは自覚してますよ」


少しだけ肩を竦めながら、淡々と続ける。


「だってそうでしょう?こんな子供みたいな見た目の私を選んで、着せ替え人形みたいに扱って。どこからどう見ても、幼女趣味の危ない人ですよ?第一印象最悪です」


言いながら、ほんの少しだけ視線を横へ逸らす。

当時のことを思い返してしまった所為か、それとも気恥ずかしさからなのか、口調が無意識に早くなる。


「おまけにしつこいし、やめろと言ってもやめないし、胡散臭いし、話し方も気持ち悪いと何度思ったか」


そこまで一気に言い切ってから、ようやく息を吐く。

それでも。

少しだけ間を置いて、視線を戻す。


「でも、一度惹かれたらもうどうしようもないでしょう?」


その言葉は、諦めとも、受け入れともつかない静かな響きだった。


ティアが小さく瞬きをする。

その反応を見ながら、ふっと力の抜けた笑みを浮かべてしまった。


「セレナ、ノクスのこと大好きなんだね」


ティアが少しだけ首を傾げながら、何気なく言った。

その一言に、ほんの少しだけ言葉が詰まる。


「……えぇ」


すぐに笑って返した。

けれど、その笑みはいつもより少しだけ穏やかだった。


「誰にも渡したくありません。それこそ、ティアにだって」


さらりと出てきた言葉は、冗談のようでいて、どこか本音が混じっている。

ティア一瞬だけきょとんとしたあと、すぐにふっと表情を緩めた。


「ふふっ、いらなーい。私はレインがいるから!」


軽く跳ねるような声。

その無邪気さに、少しだけ肩の力が抜ける。


不意に、部屋に軽いノック音が響いた。


「ティア。セレナ。おやつ持って来たぞ……、って、うわっ!?」


扉を開けながらクローディアスが中へ入ろうとした、その瞬間。

まるで入れ替わるように、ティアが勢いよく飛び出していく。


軽い足音とともに白い髪がふわりと揺れ、クローディアスのすぐ目の前を掠めた。


「っ、危な……!」


反射的に体を引いたクローディアスが声を上げる。

あと一歩遅れていれば、まともにぶつかっていた。


紅茶とケーキの乗ったサービスワゴンが傍にあるあたり、わざわざ部屋まで運んできてくれたのだろう。


「ごめんクローディアス!後で食べる!」


背を向けて走り抜けながら、ティアは振り返るようにして顔だけをクローディアスに向ける。

そのまま迷い無く、クローディアスの来た方向、レインがいる部屋へと駆け出して行った。


「あ、あぁ……」


クローディアスは、少し遅れて短く返事をした。


視線の先には、廊下の奥へと消えていく白い影。

その後ろ姿を見送りながら、安堵したようにふっと小さく息を吐く。


「仲直り、出来そうですね」


遅れて、廊下の先を覗き込みながら、ぽつりと呟いた。


「……だな」


私の言葉に同感とばかりに、短い声が返ってくる。


「私もようやく解放されそうですし、ノクスのご機嫌取りにでも行くとしますか。どうせ鬱陶しいことになっているのでしょう?」


軽く肩を竦めながらそう言うと、クローディアスはわずかに目を細めた。


それなりの期間、ティアに独占されていたのだ。

就寝時間だけはノクスといられたけど、それだけの時間であの男が耐えられるとは到底思えない。


「それは有り難い」

「折角持ってきてくれたのに、手間掛けさせてごめんなさいね」


そう続けると、クローディアスは首を横に振った。


「気にしなくていい。それよりノクスをさっさとどうにかしてくれた方が助かる」


切実とも言えるその訴えに、思わずくすりと笑ってしまった。

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