好意を抱いた理由
「……という感じです」
ティアの長い髪を、指先で丁寧にまとめながら、思い出話を締めくくる。
高い位置でふたつに結び終えたところで、そっと手を離した。
それまで静かに話を聞いていたティアは、しばらくの間ぽかんと固まっていた。
「……え?」
ようやく出てきた声は、それだけだった。
「えっと……、なんでそれで好きになったの?」
少し遅れて飛んできた問いに、こちらも一瞬だけ言葉に詰まる。
髪を軽く指で整えながら、視線を少しだけ逸らした。
「うーん……」
改めて何故と問われても、はっきりとした理由は浮かばなかった。
自分でも考えてみても、これだと言い切れる答えは見つからない。
けど、無理やり言葉にするのなら、と言葉を続けた。
「流されたんでしょうねぇ……私。我ながらおかしいとは自覚してますよ」
少しだけ肩を竦めながら、淡々と続ける。
「だってそうでしょう?こんな子供みたいな見た目の私を選んで、着せ替え人形みたいに扱って。どこからどう見ても、幼女趣味の危ない人ですよ?第一印象最悪です」
言いながら、ほんの少しだけ視線を横へ逸らす。
当時のことを思い返してしまった所為か、それとも気恥ずかしさからなのか、口調が無意識に早くなる。
「おまけにしつこいし、やめろと言ってもやめないし、胡散臭いし、話し方も気持ち悪いと何度思ったか」
そこまで一気に言い切ってから、ようやく息を吐く。
それでも。
少しだけ間を置いて、視線を戻す。
「でも、一度惹かれたらもうどうしようもないでしょう?」
その言葉は、諦めとも、受け入れともつかない静かな響きだった。
ティアが小さく瞬きをする。
その反応を見ながら、ふっと力の抜けた笑みを浮かべてしまった。
「セレナ、ノクスのこと大好きなんだね」
ティアが少しだけ首を傾げながら、何気なく言った。
その一言に、ほんの少しだけ言葉が詰まる。
「……えぇ」
すぐに笑って返した。
けれど、その笑みはいつもより少しだけ穏やかだった。
「誰にも渡したくありません。それこそ、ティアにだって」
さらりと出てきた言葉は、冗談のようでいて、どこか本音が混じっている。
ティア一瞬だけきょとんとしたあと、すぐにふっと表情を緩めた。
「ふふっ、いらなーい。私はレインがいるから!」
軽く跳ねるような声。
その無邪気さに、少しだけ肩の力が抜ける。
不意に、部屋に軽いノック音が響いた。
「ティア。セレナ。おやつ持って来たぞ……、って、うわっ!?」
扉を開けながらクローディアスが中へ入ろうとした、その瞬間。
まるで入れ替わるように、ティアが勢いよく飛び出していく。
軽い足音とともに白い髪がふわりと揺れ、クローディアスのすぐ目の前を掠めた。
「っ、危な……!」
反射的に体を引いたクローディアスが声を上げる。
あと一歩遅れていれば、まともにぶつかっていた。
紅茶とケーキの乗ったサービスワゴンが傍にあるあたり、わざわざ部屋まで運んできてくれたのだろう。
「ごめんクローディアス!後で食べる!」
背を向けて走り抜けながら、ティアは振り返るようにして顔だけをクローディアスに向ける。
そのまま迷い無く、クローディアスの来た方向、レインがいる部屋へと駆け出して行った。
「あ、あぁ……」
クローディアスは、少し遅れて短く返事をした。
視線の先には、廊下の奥へと消えていく白い影。
その後ろ姿を見送りながら、安堵したようにふっと小さく息を吐く。
「仲直り、出来そうですね」
遅れて、廊下の先を覗き込みながら、ぽつりと呟いた。
「……だな」
私の言葉に同感とばかりに、短い声が返ってくる。
「私もようやく解放されそうですし、ノクスのご機嫌取りにでも行くとしますか。どうせ鬱陶しいことになっているのでしょう?」
軽く肩を竦めながらそう言うと、クローディアスはわずかに目を細めた。
それなりの期間、ティアに独占されていたのだ。
就寝時間だけはノクスといられたけど、それだけの時間であの男が耐えられるとは到底思えない。
「それは有り難い」
「折角持ってきてくれたのに、手間掛けさせてごめんなさいね」
そう続けると、クローディアスは首を横に振った。
「気にしなくていい。それよりノクスをさっさとどうにかしてくれた方が助かる」
切実とも言えるその訴えに、思わずくすりと笑ってしまった。




