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呪華ノ鎖  作者: 雪ねこ
第三章
87/106

セレナの過去

最初に目覚めた時。


視界に広がっていたのは、青白い月と、満天の星空。

そして醜く争う男たちの姿だった。


名前も知らない。

どういう人たちなのかも分からない。

ただ、偶然その場を通り掛かっただけの通行人。


生まれ落ちたばかりの私に、不用意に触れたひとりがいた。

そのひとりに、不運にも、契約という呪いを施してしまった。


力の使い方も、制御の仕方も分からないまま。


目の前で惨劇が起きた。


最初は言い争いだったものが、すぐに殴り合いへと変わり、やがて刃が抜かれた。

誰かが誰かを止めるためではなく、奪うために振るわれる暴力。


私を巡るように。

私を手に入れようとするように。


私はただ、その光景を呆然と眺めていた。

何が起きているのかも分からないまま。

止めることも、逃げることも出来ずに。


気付いた時には、地面は赤く染まり、誰も立っていなかった。




あれからどのくらい時間が経ったのか。

まだ日も昇る気配も無かったから、それほど長い時間ではないのだろう。


ぼんやりとした頭のまま、ゆっくりと立ち上がる。


血溜まりで素足が汚れるのも気にせず、人だったものの傍へ近付いた。


そこで、落ちていた剣のひとつを拾い上げる。

幼い子どものように小さい身体では、それはあまりにも重くて、持ち上げるのも一苦労だった。

それでも、他に方法は思い付かなかった。


引きずるようにして剣を持ち上げると、そのまま自分の首元へとゆっくりあてがう。


どうしてこんなことになったのか、わからない。


それでも、彼らが口にしていた言葉が、どれも私を自分のものにしようとするもので。

原因は自分にあるのだと、嫌でも理解させられた。


生きていてはいけない。


そう考えて、ゆっくりと目を伏せた。


剣を握る手に、わずかに力を込める。

冷たい刃が首筋に触れたまま、呼吸が浅くなっていく。


そして覚悟を決めるように、そっと刃を引こうとした、その瞬間。


「いたぞ!捕らえろ!!」


声と同時に、細く長い蔓が勢い良く伸びてきた。

どこからともなく放たれたそれは、瞬く間に私の両腕へと絡み付いた。


「っ……!」


反射的に剣を握り直し、腕を引こうとする。

けれど蔓は思っていた以上に強く、まるで意志を持っているかのように締め付けてくる。


皮膚に食い込み、鈍い痛みが走った。

息が詰まり、力が入らなくなる。


やがて、剣を握る指先から力が抜け、手から滑り落ちてしまった。

カラン、と乾いた金属音が響く。

刃は地面の上で一度跳ね、そのまま転がっていった。


複数の馬の蹄が、すぐ傍まで迫ってくる。


やがて、私は完全に囲まれていた。


馬上から見下ろす者。

地上へと飛び降りる者。


複数の人間が、逃げ場を塞ぐように私の周囲を取り囲んだ。


そのうちの先頭に立つ人物。

白い装束を纏った者が、私の両腕を拘束している蔦の先を強く握り締めている。


他の者たちは皆、鎧を着込み、武器を構えていた。


その中の誰かが、低く言葉を発した。


「対象発見。確保する」


その冷たい声を合図に、私は白装束の人物によって担ぎ上げられた。


嫌な予感がして、弾かれたように暴れる。


「離せっ!」

「私を置いていけ!!」


言葉はほとんど叫びに近かった。


ここに捨て置けと、縋るように懇願する。


けれど、誰ひとりとして耳を貸す様子はない。

淡々とした動きのまま、容赦なく運ばれていく。


腕を振ろうとしても、蔓がさらに強く絡みつき、思うように動かない。

必死にもがくほど、拘束は逆に締まっていく。


拘束されていない足も、あまりに小さく非力で。

何度蹴り上げても、びくともしない。


「このまま死なせろぉおお!!」


悲鳴に近い叫びだけが、夜空に吞み込まれていった。

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