帰路はむさ苦しい空間の中で
白い外壁にそびえ立つ門の前。
街の外とを繋ぐ出入り口のすぐ傍で、ミーナとマナが見送りをしてくれていた。
停められた馬車の外に、2人で並んで立っている。
コレットの魅了で操られていたとはいえ、ミーナが武器を手にして俺たちに襲い掛かってきた夜のことは、どうやら覚えていないらしい。
身体の方も問題はなく、健康そのものに見えた。
ひとまず、その事実だけで十分だった。
知らないなら、知らないままの方がいい。
そう判断して、あの夜のことを伝えることはしなかった。
ジェイクはこのまま俺たちと一緒に屋敷へ連れて帰ることに決まった。
その後はアステルによってアルビオン家へと送り届けられ、そのまま保護される手筈になっている。
本人はだいぶ消耗していたものの、命に別状は無いらしい。
それだけでも十分救いだった。
……ただ。
「なんで男だけなんだよ……」
思わずぼやいてしまう。
馬車の中は、俺とクローディアス。
その向かいにノクス。
そして、ノクスの隣にジェイク。
気付けば、妙にむさ苦しい空間が出来上がっていた。
原因はティアだ。
帰りは自分が御者台に乗ると言い張り、頑として譲らなかったのである。
行きは当然のように、ノクスとセレナが御者台に座っていたというのに、いったいどういう心境の変化なのか。
しかもセレナまで、
「ティアだけだと不安なので、監視として付き添います」
と、当然のように、ティアと一緒に御者台に座ることを決めてしまった。
結果として、御者台にはティアとセレナが並んで座る形になっている。
馬車がゆっくりと動き出す。
向かい側に座るジェイクは、その表情に疲労の色を残しながらも、どこかぼんやりと窓の外の景色を眺めていた。
それまで着ていた修道服ではなく、孤児院で着ていた簡素な服に着替えている。
もう首元を隠す必要も、理由さえも無いのだから、女性物の修道服をわざわざ纏う理由も無い。
「まぁでも、安心していいと思うよ~?」
ふと、ノクスが口を開いた。
馬車の揺れに合わせて身体を揺らしながら、まるで世間話でもするような声音だった。
「安心って、なにが?」
「アルビオンって、意外とお節介焼きだからさぁ。きっとボクと同じ扱いしてくれるっしょ~」
「ノクスと同じ扱い?」
思わず聞き返す。
向かいに座るノクスは、にやりと口元を歪めた。
「ん~?なになに?気になる?」
「そりゃあ、まぁ……」
からかうように言われて、つい本音が漏れてしまう。
気になるかと聞かれれば、当然気にはなる。
だが、このまま聞いていいものか。
迷いもあって、返事が曖昧になってしまう。
そんな俺の葛藤を楽しむように、ノクスは口元を歪めた。
「それはねぇ――」
焦らすように、期待させるように言葉を溜める。
思わずごくり、と息を吞んだ。
ようやく教えてくれるのかと思った、その時。
「教えな~い」
「なんだよそれ!?」
即座にツッコミを返す。
途端にノクスが、堪えきれないといった様子でくすくすと笑い出した。
からかい半分、悪戯半分。
それでもどこか憎めない笑い声が、狭い馬車の中に広がっていく。
その笑い声を聞きながら、ようやく少しだけ肩の力が抜けた気がした。




