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呪華ノ鎖  作者: 雪ねこ
第二章
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2人を探して

ワインレッドの絨毯の上を、駆け抜ける。

足を踏み出すたび、厚く敷かれた絨毯が足音を呑み込み、柔らかくこもった音だけが長い廊下に響く。


離れた部屋からは、爆発音や金属音が絶えず聞こえていた。

壁越しですら衝撃が伝わり、空気が震えていた。


(おかしい……。人の気配が無さ過ぎるだろ)


大聖堂という神聖な施設である以上、見回りの人間や、泊まり込みで務めている者がいても不自然ではない。


ましてや、これだけ派手に暴れているのだ。

異変に気付いた誰かが、様子を見に来てもおかしくない。


だが、誰ひとりとして姿を見せない。


廊下の左右に並ぶ扉の奥からも、人の気配は一切感じられなかった。


何処に行ったのか。

そんな疑問が浮かび掛けたところ、頭を振って考えを振りほどく。


今はそんなことを考えてる場合じゃない。


視線を前へ戻し、意識を引き締めた。


足を止めることも無く、思考を巡らせる。

ジェイクとフィサリスの居場所は何処かと。


似たような扉ばかりが並んでいる。

この中をしらみつぶしに調べていくのは、あまりにも非効率だ。

そんなことをしている余裕は無い。


かといって、聖堂内の構造なんて把握している筈もない。

どの部屋がどこへ繋がっているのか、見当すらつかなかった。


ふと、ひとつの扉の前で立ち止まる。


視線だけが忙しなく動き続ける中で、ふと足が止まる。

気付けば、ひとつの扉の前に立っていた。


両開きの扉。


「図書室……」


扉の横に掛けられた表札。

それを見て、ぽつりと呟いた。


ジェイクはよく本を読んでいたことを思い出す。

それこそ、食事中でさえ。

フィサリスに注意されるまで、ページをめくる指は止まらなかった。


「ここなら、もしかしたら」


小さく息を吐き、そっと扉へ手を伸ばす。

重みのある取っ手に指を掛け、ゆっくりと押し開いた。





――――






続けざまに、矢が放たれる。


クローディアスとティアは、ほぼ同時に跳び退いた。

直前まで2人が立っていた場所へ、4本の黒紫の矢が突き刺さる。


獲物を捉えられなかったそれは、黒い花弁となって散り、ふわりと舞って消えた。


「それ、返してもらうわよ」


コレットの声が響いた直後、再び黒紫の矢が放たれる。

狙いは、クローディアスの左手にあるメイスだった。


「っ!」


メイスの柄の端に命中し、強い衝撃が腕全体に伝わる。

反動に耐え切れずに、クローディアスはメイスから手を離してしまった。


地面に落ちる寸前。


すかさずフィサリスが姿勢を低く落とし、強く床を蹴る。

落下しかけたメイスへと右手を伸ばす。


床の上を転がる前に、その柄を掴み取った。


そのまま、膝をついた姿勢から身体を捻る。

流れるような動作で、握り直したメイスを斜め上へと振り抜いた。


クローディアス目掛けて振るわれるメイス。


「させない」


その間にティアが割って入った。


身体を滑り込ませるように前へ出ると、双剣を交差させてメイスを受け止める。

金属同士がぶつかり合う、重い衝撃音が響いた。


フィサリスの一撃は重く、受け止めた瞬間、ティアが微かに表情を歪めた。


それでも、受け止めたメイスを押し返す。

身を屈め、体勢を低く踏み込んで回し蹴りをする。

細い足首が、フィサリスの脇腹へとめり込んだ。


「かは……っ……!」


瞳孔が大きく見開かれる。

喉の奥から空気が漏れ、唾液が小さな粒となって吐き出される。


遅れて、フィサリスの身体が弾かれるように大きく吹き飛んだ。


「余所見はダメよ?」


柔らかな声が、すぐ耳元で落ちる。


その瞬間、クローディアスの視界に影が差した。


(近い……!)


気づいたときにはコレットは、すぐ目の前にいた。


攻撃するでもなく、ただ視線を合わせるのみ。


蒼い瞳が、クローディアスの姿を真正面から捉える。

その奥に、淡い薄桃色が滲んだ。


だが、すぐにコレットが「あら……?」と不思議そうな声をこぼす。


浮かべていた柔らかい笑みが、すっと引っ込む。

代わりに、きょとんとした表情へと変わっていた。


「おかしいわ?ねぇ、執事のあなた。あなたってば、全然魅了されないのね?なんでかしら?」


コレットは興味深そうにクローディアスを見つめる。

想定外の反応にも関わらず、相変わらずその声音は軽い。

まるで珍しい玩具でも観察しているかのようだった。


「おまえなんかに信仰心も好意も、魅力すらも、まったく持ち合わせていないからじゃないか?」


ぎろりと鋭く睨みつけ、吐き捨てられる、冷たく短い返答。

その言葉に、コレットは目を瞬かせた。


「ふふ、そういうこと?それなら納得」


クローディアスの剣が、目の前の彼女を追い払うように横薙ぎに振るわれた。

コレットは白い布をふわりと翻しながら、軽やかに後方へ跳んだ。

刃の切っ先が、鼻先を掠める。


「怖い怖い。執事のくせに、随分乱暴なのね?」


着地と同時に、くすくすと軽やかに喉を鳴らして笑う。

豊満な胸元へそっと手を添え、言葉を続けた。


「この身体。結構人気なのよ?それすら魅力を感じてくれないなんて……。男として不能なのね、あなた」


「下品な言葉しか言えないのか」


「ふふ、ひどい言い草ね」


コレットは肩を竦め、楽しげに笑っていた。


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