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呪華ノ鎖  作者: 雪ねこ
第二章
75/86

頭上からの襲撃

「フィサリス!」


コレットの声が聖堂内に響き渡る。


俺たちの立つ場所。

その中央目掛けて、フィサリスが頭上から落ちて来た。


紺色のベールとスカートがふわりと広がる。

その手には、メイスが握られていた。


先端部は、提灯のように膨らんだ袋状の果実を思わせる異様な形状をしているメイス。


それを思い切り、床へと叩き付けた。

落下によって加えられた重力とともに叩き付けられた衝撃で、ダンッ!!と、重く鈍い音が聖堂内に轟いた。


敷かれていたワインレッドの絨毯越しに、その下の大理石のタイルが割れる。

蜘蛛の巣状に亀裂が走り、絨毯の隙間から、白い破片が飛び散った。


直後。


メイスの先端部が、緋色の光を灯す。

その内側になにかを孕み、膨張するように明滅する。


いち早く嫌な予感を感じ取ったらしいティアが、真っ先に声をあげた。


「避けて!!」


叫ぶのとほぼ同時。

細い腕がお腹へと回され、強引に身体を引き寄せられる。


「うわっ……!?」


視界がぐるりと回転した。

ティアは片腕だけでこちらを抱え込むように引き寄せ、そのまま力任せに地面を蹴り上げる。


さらにもう片方の手では、クローディアスの襟首までもが掴まれていた。


ティアの叫びに似た警告に、ノクスもすぐに反応をした。

足元にいたセレナを抱き上げ、大きく後方へと跳び退く。


次の瞬間。


メイスの先端部が、限界まで膨れ上がったように赤熱し、


――轟音とともに、緋色の衝撃が爆ぜた。



「あっぶなー……。黒ユリちゃんナイス判断」


巻きあがる黒煙で視界が塞がれる中、煙の向こう側からノクスの声が聞こえてきた。

軽口を叩ける余裕があるあたり、どうやら無事らしい。


「げほっ、げほっ……!」


ティアの隣では、クローディアスが苦しそうに咳き込んでいた。

突然襟首を掴まれ、そのまま強引に引っ張られた所為で、首が絞まったらしい。

片膝をつきながら、涙目で喉元を押さえている。


「ご、ごめんなさい!クローディアス、大丈夫……!?」


慌てて手を離しながら、ティアがあわあわと謝る。

彼女自身も、避難の為に仕方なかったとは言え、あまりにも雑なやり方だった自覚はあるらしい。


「っ、いや……、むしろ助かった……っ」


咳き込みながらも、クローディアスはどうにか礼を言う。

あまりにも強引な手段ではあったものの、あのまま反応が遅れ、突っ立ったままだとしたらと考えると背筋が冷える。



不意に、背後から風を切る鋭い音が、耳に飛び込んできた。

反射的に振り返る。

同時に腰の短剣を抜き放ち、飛来したそれを刃で弾いた。


キンッ!と軽い金属音が響く。


矢だ。


全体が黒で統一された、不気味な意匠の矢。

鋭い矢じりを、一輪の黒ユリの花弁が包み込み、矢柄(やがら)は黒い蔦の模様が絡み付くように這っている。


「あらら、防がれちゃった」


軽やかな声が響く。

視線を向けると、コレットは先ほどと変わらず、台座の上にいた。

立ち上がり、余裕たっぷりに微笑みながら、両手で“それ”を構えている。


先ほどまで旋律を奏でていた、変わった形状のハープ。


飛んできた矢と同じく、先端には黒い花弁が咲いている。

湾曲した黒い弓身には、蔦のような装飾が這い、不気味な妖しさを放っていた。


その構え方はどう見ても、楽器というよりも、弓のものだった。

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