治療の代償
扉を開け、馬車の外へと出るなり、ふっと力が抜け落ちた。
安堵からか。
それとも、ティアに生気を分け与えた影響なのか。
突然、膝から崩れ落ちそうになる。
「レイン!?」
すぐ後ろから、驚いた声が聞こえた。
咄嗟に、両脇の下へ細い腕が差し込まれる。
ぐらついた身体を、そのまま後ろから支えるように抱き留められた。
お陰で地面へ倒れ込まずに済んだ。
視界の先では、これまで少し離れた場所で見張りをしてくれていたのだろう、クローディアスが慌てたようにこちらへ駆け寄って来ていた。
「レイン様!」
焦った声と共に、足音が近付いてくる。
「っ……、悪い」
息を吐きながらそう言うと、背後から慌てた声が返ってくる。
ティアは、今にも倒れ込みそうな俺を前にして、焦りと驚きが入り混じった表情を浮かべている。
俺の言葉に、ぶんぶんと勢いよく頭を横に振った。
「全然悪くない……!そんなことより大丈夫!?」
「大丈夫だよ。ちょっと気が抜けたっぽい」
答えながらも、身体にはまだ倦怠感が残っていた。
それでも今は倒れている場合じゃないと、自分の身体に鞭を打ち、膝に力を入れる。
ぐらつきながらも、どうにか体勢を立て直した。
「ほら、大丈夫だから、な?」
そう言ってみせるものの、目の前の2人の表情はまったく晴れない。
ティアは今にも泣き出しそうな顔でこちらを見上げているし、クローディアスも露骨に眉を寄せていた。
「いやぁ~、無事に治せたっぽいね〜。良かった良かった」
クローディアスが走って来た方向から、ノクスとセレナの2人がゆっくりと歩いて来る。
こちらの状態が見えていないのかと思わせる、空気を読まない軽い口調だった。
普段ならば、空気読めだとか咎めたくなるものだが、今回ばかりはその軽さが有り難く感じられた。
「最悪の事態は避けられて良かったです」
セレナも静かにそう続ける。
淡々とした声音ではあるものの、その声には安堵の色が滲んでいた。
そんな何気ないセレナの一言に、ティアとクローディアスが同時に、ぴくりと反応した。
「最悪の事態?」
「え、どういうこと?」
しまった、と思うよりも早く、2人の視線がこちらへ突き刺さった。
ティアは純粋に不思議そうな顔をこちらに向けていただけだが、クローディアスの方は完全に“説明を求める顔”になっている。
嫌な予感しかしない。
咄嗟に
「あー!なんでもないなんでもない!」
と両手をぶんぶんと振って誤魔化しにかかった。
このまま追求されたら確実に面倒なことになる。
いつもなら、こういう“面倒な追及役”はクローディアス1人だけだ。
だが今回は違う。
ティアまでいる。
このままでは、2人がかりで説教される未来しか見えなかった。
「そんなことより!」
ほとんど勢いに任せて言葉を遮る。
「ティアが元気になったんだからいいだろ?」
半ば強引に話題を逸らす。
最初こそ、ティアは「むぅ……」と納得しきれていない顔をしていた。
けれどすぐに、その表情は別のものへ変わった。
不満ではなく、不安と心配。
「もしかして……、無理させた……?」
まるで自分の所為だと言わんばかりの言葉に、思わず目を瞬かせる。
(……まぁ、状況だけ見ればそう考えてしまっても仕方ないか)
ティアは不安そうにこちらを見上げたまま、俺の服の裾を握り締めていた。
その様子に、自然と口元が緩む。
「おまえのせいじゃない」
くすりと笑いながら、ティアの頭へそっと手を乗せた。
「ちょっと疲れただけだから。気にすんな」
柔らかなわしゃりと白髪を軽く撫でると、ティアがくすぐったそうに目を細めていた。




