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呪華ノ鎖  作者: 雪ねこ
第二章
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呪華の見た目

「……レイン。クローディアス」


名を呼ばれ、俺とクローディアスは、ほぼ同時にセレナへと視線を向けた。


セレナがその場で、すっと立ち上がった。

姿勢を正し、まっすぐにこちらを見る。


「私を見て、どう思いますか?」


その問いに、思わず声が重なった。


「「は?」」


俺とクローディアス、二人分の間抜けな声。


張り詰めた空気の中で、いきなり自分の見た目について評価を求められたようなものだ。

戸惑うなという方が無理だった。


だが彼女は至って真剣そのものの様子。


「なにをいきなり……」

「真面目な話です」


戸惑い混じりに言い掛けた言葉を、間髪入れずに遮られる。


「そんなこと急に言われても……」


思わず「なぁ?」と視線をクローディアスへ投げた。


「……花の月下美人と比較して、私の容姿はどう見ますか?」


「容姿って……、身長のせいで少し幼く見えるけど、それさえ目を瞑れば……、月下美人、そのものだな」


白く透き通るような肌。

月光を受けたように淡く輝く髪。

人形のように整った顔立ちと、どこか現実味の薄い存在感。


下手に触れれば壊れてしまいそうで、一夜しか咲かない儚い花。

月明かりの下で人を魅了する、月下美人を体現したようだった。


「そうです。月明かりの下で一夜限り咲く、儚さの象徴である白銀の月下美人。それを体現したような容姿でしょう?……自分で言うのは気恥ずかしいのですが」


話しながら、その言葉の通り、流石に気恥ずかしいのだろう。

段々と視線が逸らされていった。

自分で自分の容姿を最大限に褒めているようなものなのだから仕方ない。


拳を作り、口元を片手で隠す。

ひとつ、小さく咳払いを落としてから、改めてこちらを見た。


「私が言いたいのは、私たち呪華は“元となる花”の特徴をそのまま写し取るように顕現する存在だということです。能力もまた同じ。その花の見た目や、花言葉、そこから連想されるものを使用する。私は“月光”。フィサリスは“幻覚”。……つまり、嘘や偽り、といった類のものですね」


一度、言葉を切り、記憶を辿るように、ゆっくりと続けた。


「あの髪色から推測するに、……鬼灯、でしょうか」


クローディアスが口を挟む。

その言葉に、セレナは小さく頷いた。


鮮やかな紅緋色。

わずかに黄味を帯びた、目を引くほどに鮮やかな赤。

その色は、容易に鬼灯を連想させた。


そんな髪色を持つフィサリスに当てはめるとしたら、ピッタリな花だろう。


「恐らく」


短く返される。


だが、

「だけどティアもコレットも……、黒ユリって見た目ではないんじゃないか?」

自然と、疑問が口をついた。


その在り方はともかく、その容姿は正反対のものに思えた。


純白で塗りつぶしたような真白。

一見すれば、悪意など微塵も感じさせない無邪気な表情。


ただひとつ、髪の隙間から覗く赤い眼だけが、異質さを際立たせているが。


それでも。

外見だけを見れば、

黒ユリよりも、

白ユリを想起させた。


同様に、コレットも黒ユリのような外見をしていない。

そういう意味では、共通していると言えるのかもしれない。


「そうですね。それもあって、例外と考えています。おまけにティアは、花言葉のひとつ。呪いにまつわる能力しか使えないんですもの。……コレットが同じ黒ユリだとしても、象徴としている花言葉が違うのかも」


セレナが続ける。


確かに、同じ花でも花言葉は複数存在する。

だからこそ、同じ花を象徴していても、その在り方が異なっていても不思議ではないか。


「……だから、ティアを取り込むとか言っていたのか」


ぽつりと、呟きがこぼれる。


同じ黒ユリ。

同じような存在。


その前提があったからこそ、あの発想に至った。

そう考えれば、辻褄は合う。


到底受け入れられる話では無いのだが。


「で、話は戻すんだけどさぁ」


ノクスがパンッと軽く手を叩くような調子で口を開く。


逸れていた思考を、強引に引き戻すように。

分かりやすく説明する為に必要だったとは言え、すっかり本題から話が逸れてしまった。


「その聖女サマのお気に入りのマスターが、孤児院の生き残りの子どもってことだよねぇ。エッグい事件から目を背けて、幻覚の中で、毎日を繰り返して、幸せ満喫してます、ってやつ?」


後半はもはや嘲笑しているような言い方だった。


「で、それを暴いちゃったから、今こうして逃亡中っと。戦力はほぼ黒犬くんひとり。あはは、絶望的だねぇ」


口にしている絶望的な内容とは裏腹に、楽しそうにケラケラと笑っていた。


「おまえたちは戦力として数えないのか?」


思わずクローディアスが返すと、

「無茶言わないでよぉ~。ボクは非力なんだからさぁ」

あっけからんとした様子で、わざとらしく両手を広げてみせた。


「彼の戯言はおいといて」

「戯言ってひどーい」

「戯言でしょう?」


ノクスの軽口を取り合うこともせず、セレナは淡々と切り捨てた。


「ともかく、私は夜にしか役に立てません。加えて威力も弱い。高威力の力を使う場合は、その間、誰かに時間稼ぎをしてもらう必要があります」

「お坊ちゃんは黒ユリちゃん庇いながらになるしねぇ。このままだと、普通に厳しいよねぇ」


ノクスがちらりと、馬車の方へ視線を向けた。


「っ、だったら、どうするんだ。このまま尻尾巻いて逃げるのか?」


苛立ちを滲ませた声が落ちた。

クローディアスの視線が、まっすぐノクスへと突き刺さった。


「それもいいかもねぇ」


ノクスが、くすくすと笑う。

あまりにもあっさりと、本気とも冗談とも取れるような声音で、さらりと言ってのけた。


「で、ここで提案。今ここに4つの選択肢があります」


4本指を立てて、こちらに向けながら続ける。


「4つ?」


「ひとつは黒犬くんの言う通り、尻尾を巻いて無様に逃げ帰ること。

 ひとつは黒犬くんひとりに頑張ってもらって、この状況に抗うこと。

 ひとつは諦めて、仲良く聖女サマに殺されましょうって彼女らの前におめおめと出ていくこと。」


指を1本ずつ、もう片方の手で小指の方から順番に折り畳みながら、淡々と並べていく。


どれも現実的とは言い難い。

それどころか、むしろ、そのどれもが最悪に近い選択肢だった。


「そしてもうひとつは……」


残った指は、あと1本。

人差し指のみ。


わざとらしく間を置き、言葉を続けた。


「――お坊ちゃんにひと肌脱いでもらうこと」


ノクスの口元に、ゆるやかな弧が描かれる。

思考が、一瞬だけ止まってしまった。


「俺……?」


突然、自分の名が挙がったこと。

そして、その言葉の意味すら、すぐには理解が追いつかない。


ノクスはそんな様子を楽しむように、目を細めていた。


「そそ」


促されるままに近付くと、すぐ隣まで引き寄せられた。

そのまま、耳元へと顔を寄せられる。


他の誰にも聞こえないように、

囁かれたその内容に、


「なっ……!?」


思わず声が漏れた。


一気に顔へと熱が集中する。

自分でも分かるほどに、頬が熱い。


咄嗟にノクスの顔を見上げると、彼は楽しげに、意地の悪い笑みを浮かべていた。


まるで――


どうする?と、試すように。

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