もう1人の黒ユリ
「だから……、お姉様、か」
同じ黒ユリの呪華。
だからこそ、ティアのことを姉だと呼んでいたのか。
「なんで姉を殺そうとする」
コレットは瞬きをして、不思議なことを訊かれたとばかりに首を傾げる。
「だって一緒にいたいじゃない?せっかく巡り会えたのに、離れ離れになるのは寂しいもの」
コレットは、どこか寂しげに眉を下げる。
その表情だけを見れば、ただ誰かを想う少女のようにも思えた。
当たり前のことを言っているだけにも思える。
せっかく会いたい人に会えたのだから、離れたく無い。
一緒にいたいという気持ち自体は自然だ。
だが、だからこそ、殺そうと考えるその思考が理解出来ない。
理解すらしたいとは思えないが。
「あぁでも……」
ふと、コレットは思い出したように口を開いた。
その視線は上の方へと向けられ、漂わせている。
人差し指を頬に当てながら、言葉を続けた。
「あぁでもマスター持ちっていうのも羨ましいわよね。どうやって契約したのかしら?フィサリスみたいに出来なかったし……」
んー、と考えを巡らせながら、独り言を呟く。
そして、何かを思い付いたように、口元に笑みが浮かべられ、
「お姉様を取り込んでひとつになれたら、私もマスター持ちになれるのかしら?」
宙を漂っていた視線が、こちらへと向けられた。
背筋がゾッとした。
「っ……、本気で言ってるのか……?」
絞り出すように言葉を返す。
だが、コレットはその問いに答えない。
それどころか、名案を思い付いたとばかりに、両手を重ね合わせた。
「お姉様とひとつになって、それで確かめてみればいいわよね!」
楽しそうに、言葉が弾む。
「ダメだったら捨てちゃいましょ」
悪びれる様子は、どこにもなかった。
それどころか、それが当然の選択肢であるかのように、恐ろしい言葉を口にしていた。
まるで物のように。
少しでも気に入らなければ興味を無くし、粗雑に扱う子どものように。
人を人として扱わない感覚。
「お姉様や白銀の花を連れてるせいなのかしら……。フィサリスの術の効果が薄いんだもん。他のみんなみたいに、幻を信じて動いてくれない……。面倒だわ」
コレットは、その場をうろうろと歩き出した。
その視界にはこちらは既に映されておらず、ぶつぶつと独り言のように不満を並べていた。
そして、次の瞬間。
パン、と両手を合わせ、乾いた音が響かせた。
「……あの醜い金の亡者の豚みたいに」
くすり、と笑う。
「殺して、みんなのご飯にでもしてしまいましょう!えぇ、そうしましょう!」
振り向いたその顔には、場違いなほどに明るい、
歪んだ満面の笑みが浮かんでいた。
「なにを、言っている……?みんなの、ご飯……?」
その言葉の意味の理解が、追いつかない。
理解しようとすればするほど、理解したくないと拒絶する。
そんなこちらの動揺を気にも留めず、コレットは首を傾げた。
不思議そうな顔を浮かべ、「んー?」と声を漏らす。
「随分と前だったかしら?ここにいた乱暴な犯罪者をね、殺してあげて、炊き出しにして街の人たちにご馳走したの」
まるで思い出話をするような口調で、さらりとおぞましいことを口にしていた。
「なんでそんなに怖い顔をするの?喜んでくれたんだからいいじゃない。あの子だって、私が偶然立ち寄らなかったら、死んでいたのよ?処分にも困ってたんだから、一石二鳥……、ううん、一石三鳥じゃない」
悪意の欠片も感じられない声音。
そして、ふわりと微笑みを浮かべ、
「ふふ、大丈夫」
ゆっくりと、こちらに近付いてくる。
「私はお姉様。お姉様は私」
ゆっくりと、当然のように。
「同じ存在なんだから、なにも問題ないわ」
「おまえとティアは違う」
押し殺したような低い声で、はっきりと拒絶する。
そのまま彼女を睨み付けた。
「え?」
コレットが足を止め、目を瞬かせる。
感情が堰を切ったように溢れる。
ティアなら、
目の前の命を、無差別に“物”のように扱ったりはしない。
確かに、初対面のときに一度だけ「ちょうだい」と言われたことはある。
自分のものにしたいと、ねだるように。
けれどそれは、俺に対してだけだ。
誰にでも向ける言葉じゃない。
「おまえみたいな奴と契約を交わすなんて――」
怒りや嫌悪をそのままに、そのまま剝き出しにして、目の間の彼女へとぶつけた。
「こっちから願い下げだ!」




