監視付きの食事
あれからどれほどの時間が経ったのか。
気付けば、窓の外にはすっかり朝の光が満ちていた。
今ごろはもう、朝食の時間もとっくに過ぎている頃だろう。
ベッドに横たわるティアは、あれから一度も目を覚ますことなく、眠り続けていた。
浅く苦しげだった寝息は落ち着き、胸がゆっくりと上下しているのがわかる。
その様子に、わずかに張り詰めていた気が緩む。
今なら、少しくらいは離れても大丈夫かもしれない。
そう思いはしたものの、どうしてもこの場から離れる気になれまかった。
そんな中、クローディアスが気を利かせて、俺の分の食事を部屋まで運んでくれるというので、その言葉に甘えることにした。
やがて。
コンコン、と。
扉を手の甲でノックする音が響いた。
「入りますよ」
低く落ち着いたクローディアスの声。
それが聞こえたのとほぼ同時に、扉がゆっくりと開かれる。
こちらが返事をする間もなく、クローディアスは部屋の中へと入ってきた。
片手には食事の乗ったトレー。
固めのパンが二つと、具の少ないスープ。
質素ながらも、温かな湯気がかすかに立ち上っている。
もう片方の手で扉を静かに閉めると、俺のすぐ近くの机の上に食事を置いた。
そのままクローディアスの視線が、ベッドで眠るティアへと向けられる。
「昨日よりは落ち着いているようですね」
控えめな、声量を抑えた声。
ティアの眠りを妨げないように意識していることが伝わってくる。
「あぁ。熱も少し下がってきてるみたいだ」
短く答えながらも、無意識に俺の視線はティアへと向いていた。
「それは良かったです」
安堵したように青い目が細められる。
「看病しているあなたの方が倒れては、元も子もありません。食事はきちんと摂ってください」
その声音は淡々としたものだった。
けれど、その言葉には気遣いが確かに感じられた。
「わかってる」
短く返事をする。
それだけで済ませて、椅子に座ったまま動かずにいると
「……はぁ」
と、背後から深く押し殺した溜め息が聞こえた。
思わずびくりと肩を跳ねさせる。
「わかっている、と言うだけで動かないのは、わかっていないのと同じことです」
ぎぎぎ、と音がしそうなほどに、ぎこちない動作で、ゆっくりと振り返る。
そこには、腕を組んだまま、冷ややかな目でこちらを見下ろすクローディアスの姿。
叱責するような口調でありながら、相変わらず声量自体は抑えられていた。
「食事を運んだ意味がなくなりますので、今すぐ、摂ってください」
あまりの気迫に気圧されて、
「は、はい……」
と、思わず敬語で返事をしていた。
腰掛けていた椅子の向きを変え、食事が置かれた机へと向き直る。
パンを手に取り、一口サイズに千切り、それをスープにつけて口に入れた。
時間が経っていた筈なのに、温め直してくれたのか。
口の中に絶妙な温かさが広がった。
だが、食事を始めてもなお、クローディアスの視線はこちらから外れない。
まるで途中でやめることを許さないと言わんばかりに、背中に視線が突き刺さる。
それが気まずくて、振り返った。
「……食べづらいんだけど」
小さくぼやくように言うと、クローディアスは驚いたように、わずかに目を見開いた。
「カーディナの屋敷ではいつものことでしょう?使用人の控える前での食事など、慣れてるでしょうに」
当然のように告げられた言葉に、ぐっと言葉が詰まる。
確かに、その通りだ。
だが――
「……それとこれとは話が別だろ」
思わず、低い声で返していた。
そもそも、カーディナでの生活から離れて随分と経つのだ。
常に誰かが後ろに控え、食事マナーに気を遣う、そんな生活とは無縁な日々の方に慣れ掛けてる今。
久々に後ろに控えられては、居心地が悪くて仕方ない。
まるで監視されているような空気も相まって、肩身が狭く感じてしまった。




