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呪華ノ鎖  作者: 雪ねこ
第二章
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セレナの抱える違和感

「どう思うー?」


屋根の上に腰を下ろしたまま、隣に座るセレナへと声を掛ける。

クローディアスに半ば押し切られる形で追い出され、外へと出向いていた。


「なにがですか」


視線だけがこちらに向けられる。

問い返す声は淡々としているが、彼女がこちらの意図を理解していないはずがない。

わざとらしいその反応に、思わず笑みを浮かべてしまう。


「言わなくてもわかってるでしょ~?黒ユリちゃんのことだよ~」


くすくすと笑いながらからかうように言うと、セレナは何も言わずに視線を前方へと戻した。

視界に映るのは大聖堂。


予約をしていた信者たちだろうか。

列を作り、順番を待っているように見える。


正面から中に入るのではなく、その列から敢えて距離を取る。


近くで見るよりも、少し離れた場所から眺めた方が見えるものがある。

そう判断した結果、礼拝の参加者に紛れることもなく、屋根の上という位置を選んでいた。


その光景を眺めつつ、話を続ける。


「……私たちは呪華です。人間じゃない。呪いという概念が、人間の形を模倣して動いているようなもの。……体調を崩すなんて有り得ません」


感情の起伏をほとんど感じさせない声。

ただ事実だけを並べているような声色だった。


「たとえ大怪我をしても、(心臓)さえ破壊されなければ。時間さえ待てば、いずれ綺麗に治ります」


話しながらセレナは視線を落とし、眉を顰めた。


「だからこそ……、ティアの今の状態は、おかしい……」


風が屋根の上を通り抜け、セレナの髪を静かに揺らす。

その横顔は、少しだけ寂しそうな表情を浮かべていた。


ふと、古い記憶が頭をよぎる。


アステルに連れられて訪れた、アルビオン家の地下施設。

捕らえた呪華の調査や危険性の確認の為に使われている場所。


罪人を捕らえる牢獄を思わせる作り。

湿った空気と、わずかに漂う鉄の匂い。

石壁に囲まれた薄暗い通路の奥。

その一室に、セレナはいた。


奴隷が着るようなボロボロの粗末な衣服を身に纏い、両手には手枷を嵌められたまま、静かに床へと座り込んでいた。


騒ぎ立てることもせず。

かと言って受け入れているという雰囲気でも無い。

諦めに近い雰囲気を醸し出していた。


呪華(彼女ら)にとって食事は娯楽と同義。

それ故に、食事は一切与えられずに閉じ込められているという。


劣悪な環境。

食事も、娯楽も、会話すらもほとんど無い空間。

そんな場所に長く閉じ込められれば、普通の人間であれば心も身体も壊れるのが当然だろう。

体調を崩すなというのが無理な話だ。


それでも彼女らが生きていたのは、人間では無いから。


それを身をもって体験し、理解しているからこそ、セレナは“体調を崩すなんて有り得ない”と断言しているのだ。



「――。――ス。――ノクス!」


途切れ途切れに名前を呼ばれ、ようやく意識が引き戻される。


「何をぼーっとしているんですか。ちゃんと集中してください」


しっかりしなさい、とでも言うように。

少しだけ強い声音で叱責される。


気が付けば、すぐ目の前にセレナの顔があった。


こちらを覗き込むように顔を近付けられ、思わず目を瞬かせる。

先ほどまで辿っていた記憶の中の、薄暗い牢獄の中の彼女とは違う。


そこにいるのは、はっきりと光を宿した銀色の瞳を持つセレナだった。

その対比に、思わず目を細めてしまった。


「ごめんごめん。ちょっとだけ考えごとしてたや」


軽い声音で返しながらも、流石に悪いことをしたと眉を下げる。


「もう……」


セレナはそれ以上は責めることもせず、小さく息を吐いて前方へと視線を戻した。

その横顔を一瞬だけ見て、こちらも意識を切り替える。


片手に持っていた双眼鏡をゆっくりと持ち上げ、覗き込んだ。

ここまで距離が離れていれば、裸眼では人影の判別が精一杯だ。

全体の流れや雰囲気を掴むだけなら問題ないが、細かな動きまでは追えない。


レンズを覗き込むと、大聖堂内の様子がはっきりと見える。


静まり返った空間の中、長く伸びた列の先。

そこに立つのは、三人の聖職者だった。


三人とも、ベールを深く被っており、顔がよく見えない。

けれど、その立ち位置やベールの隙間から覗く髪。

それだけでも、十分に判別は可能だ。


列の先頭に立つコレット。

そのすぐ後ろに控えているのは、フィサリスだ。

黄色のグラデーションの掛かった紅緋色。

肩に触れるか触れないかの短い髪から、間違いないだろう。


列の先頭に来た信者へと、コレットが手を翳す。

すぐに信者が頭を下げ、列から抜ける。

その繰り返し。


この時、何気なくスコープの先を別の場所に向けて。

目を細めた。


「……へぇ……?」


思わず漏れた声。

面白いものが見れたと言わんばかりに。

口端が自然とつり上がった。

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