罠を仕掛けた犯人
おつかいを終え、孤児院に戻ってくる。
ノクスはあらかじめ宣言していた通り、荷物を持つ素振りさえ見せなかった。
その代わりとでも言うように、腕にはセレナを抱えている。
片腕が塞がっているのだから仕方ない。
歩幅の小さいセレナを歩かせるのは流石に気が引けるというものだ。
そう頭では理解しつつも、視線がノクスの反対側の腕の方へと向いてしまう。
(もう片方の手、空いてるんだから手伝ってくれたっていいだろ)
心の中だけで、軽く悪態をつく。
門を押し開け、孤児院の中へと足を踏み入れると、やはり子どもたちに囲まれた。
わっと寄ってくる小さな影たちを、セシルが慣れた様子で諌める。
その隙に、こちらは建物の中へと足を進めた。
両手いっぱいに抱えていた買い物袋の中身もすべて片付け終え、ようやく一息つく。
そして、与えられた部屋の前へと向かった。
扉の前に立ち、すぐには開けない。
昨日の出来事を思い返し、警戒をする。
静かに息を吐き、一歩引いた状態で慎重に扉に手を掛け、ゆっくりと開いた。
扉が開かれた拍子に、視界の上方から勢い良く落ちてくる影。
それは空を切って床へと落下し、ゴトンッと鈍い音が部屋の中に響いた。
コロコロと乾いた音を立てながら、空のバケツが床の上を転がっていく。
「あー、これってさぁ。悪戯好きのちびっ子くんが仕掛けてたやつ?」
ひょい、とノクスが身体を乗り出して覗き込む。
「多分な。誰がやっているのかハッキリ分かってないけど。こんな古典的な悪戯、子どもたちの誰かだろ」
苦笑混じりにそう返しながら、俺は転がったバケツへと手を伸ばした。
拾い上げようと腰を屈めたところで、ふと違和感に気付き、動きを止める。
「……ちびっ子“くん”?」
中腰のまま、顔だけをノクスの方へと向ける。
孤児院の子どもたちは五人。
年上組のセシルとジェイクが、このような幼稚とも思える悪戯をするとは考えにくい。
だとしたら候補は年下組の三人となるわけだが。
その内、男の子は一人しかいない。
「そそ。フレイって言ったっけ?あのやんちゃくん」
(やっぱりあいつか)
こういうことをやりかねないとは思っていたが、案の定だった。
予想していた通りの名前に、納得半分、呆れ半分。
ため息が漏れそうになるのを飲み込んだ。
そのせいか、一気に力が抜けたような感覚に襲われ、途端に身体が重く感じられる。
落ちていたバケツへと手を伸ばして拾い上げる。
片膝に手をついて体勢を支えながら、ゆっくりと立ち上がった。
「お坊ちゃんたちが洗濯しに行ってた時だったっけ?ちっちゃい身体で頑張って椅子を運んでさ、ここで椅子の上に登って、背伸びしながら仕込んでたんだよねぇ」
さらりと語るノクスの説明に、思わず眉がひくつく。
「知ってたんなら止めろよ」
間髪入れずに返すと、ノクスは悪びれもせず肩を竦めた。
「えー?あんなに一生懸命仕掛け作っちゃってさぁ。こっそり応援したくなるのも仕方ないよねぇ?」
「……本音は?」
少し間を置いて問い返す。
絶対にそれだけが理由じゃないと確信があり、冷ややかな視線を向ける。
ノクスは「んー……」と漏らしながら視線を泳がせ、それからにっこりと笑った。
「おもしろそうだったから!」
「こいつ……」
思わず言葉が漏れる。
まったく悪びれないその態度に、呆れと諦めが同時に押し寄せてくる。
ふるふると拳を震わせ、その頭を殴りたいとさえ、考えてしまった。




