表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪華ノ鎖  作者: 雪ねこ
第二章
55/76

甘い時間への乱入者

「おやぁ?みんなでここでおサボりですか~?」


不意に視界に影が差し込む。

頭上から降ってきたのは、どこか楽しげで、からかうような声音だった。

驚きのあまり、びくりと肩を跳ねさせた。


「びっ……くりしたぁ……」


不意に声を掛けられて、バクバクと鳴る心臓が痛い。


「なんだノクスか」


見上げた先に立っていた人物を確認して、ようやく息を吐く。

そのまま、恨めしげに彼を睨み付けた。


安堵と同時に、少しばかりの苛立ちが混ざる。

まさかこんな場所で合流するとは思ってもいなかった。

だからこそ気を抜いてしまい、その分、余計に驚かされた。


「なんだとは失礼な」


ノクスは大袈裟に肩を竦めてみせる。

わざとらしくため息をつきながら、芝居がかった口調で続けた。


「人が一生懸命働いている時に、みんなで仲良くおサボりって。ひっどいよねぇ?」


わざとらしく語尾を伸ばし、こちらの反応を覗き込んでくる。

その視線は、責めるどころか、完全に面白がっていたように見えた。


「そんな風に言うものじゃないですよ」


その腕の中から、静かな声が割り込む。

ノクスに抱えられたままのセレナが、落ち着いた声音でノクスを窘めた。


「レインたちだって、思うところがあったのでしょう?」


セレナのその言葉に確認をしてしまう。


(……やっぱり)


「ってことは、セレナたちも気付いていたのか」


確かめるように問い掛けた。


「あれだけ一字一句、揃いも揃っておんなじ会話を繰り広げられたら、おかしいって気付くでしょ~」


冗談めかした口ぶりだが、その目は冷静そのものだった。


「確信が持てなかったので、あの場では何も言いませんでしたけど」


続けて、セレナが静かに言葉を重ねる。

落ち着いた口調のまま、ゆっくりと視線を俺の隣へと向けた。


「クローディアスだって、そうでしょう?」


不意に話を振られたクローディアスは、わずかに目を見開いた。

少しだけ沈黙したあと、小さく息を吐く。


「……ああ」


短い、けれどしっかりとした肯定。


「お坊ちゃんも黒犬くんも分かりやすく顔に出てたもんね~。お互いに顔を見合わせちゃってさぁ」


その時の光景を思い出しているのか、ノクスの肩が小刻みに揺れる。

袖で口元を隠しているけれど、堪えきれていないのは明らかだった。


「あの素っ頓狂な顔。……あはっ!思い出しただけで笑えるよねぇ」


くっくっとひとしきり笑ったあと、何事もなかったかのように手を伸ばす。

そのまま流れるように、ドーナツの入っていた袋に腕を突っ込んだ。

止める間もなく、袋の中からひとつを掴み取り、そのまま口に運ぶ。


すぐにティアが「あ……!」と声をあげた。


「……それ、俺らの分なんだけど」


思わず突っ込むと、ノクスはにやりと笑う。


「いいじゃんいいじゃんひとつくらい。こういう時こそ糖分補給でしょ?」


悪びれることも無く、返された。


その横で、ティアがむーっと頬を膨らませり。

抗議の視線を向けているが、ノクスはまるで気にしていない。

あっという間に食べ切ると、最後に指先に残った油分を、ぺろりと舐め取った。


「それ、私のだったのに……!」


頬をぷくりと膨らませたまま、ティアがノクスをじっと睨む。

目は真剣そのものだが、どこか子どもじみた抗議の仕方で、怒りよりも“納得いかない”という感情の方が強く見えた。


当然のように自分だけのものだと言い張っていたけれど、そこに突っ込む者は誰もいなかった。

そもそもクローディアスは甘いものが苦手なのだから、なにも問題無いのだろうけど。


「えー?名前なんて書いてあった~?」


ノクスは悪びれる様子もなく、肩を揺らして笑う。

軽く首を傾げる仕草すら、わざとらしく見えた。


「書いてなくても分かるでしょ!」


食い気味に言い返すティア。

手元のドーナツ袋をぎゅっと抱え込むようにして、これ以上は渡すまいと、完全に守る姿勢に入っていた。

その必死さに、ノクスはさらに楽しそうに目を細める。


「じゃあ早い者勝ちってことで」


さらりと流すように言い切る。


「だめっ!」


即座に否定する声。

間髪入れずの反応に、ノクスはまた小さく笑った。


「そういえば調査はいいのか?」


ふと気になって問い掛ける。


噂の真相を探るために動いていたはずなのに、こんな場所にいるのが不思議だった。

ノクスはこちらに視線を向けると、「んー?」と気の抜けた声を漏らし、くすりと笑う。


「少しくらいいいでしょー?聖女サマは相変わらずって感じだし。外での調査もさ、ちょーっと行き詰まっちゃてるって感じ?」


まるで深刻さを欠片も感じていないように、袖をひらひらと揺らしながら続ける。


「たださぁ?」


わざとらしく言葉を区切り、ノクスは楽しげに口元を歪めた。


「どーも、おんなじ一日を繰り返してるのって、孤児院の中だけっぽいよねぇ」


軽い口調ではあったものの、告げられたその言葉は確信めいていて。

少しだけ周囲の空気が重くなった気がした。


そんな空気を破るように

「ってことで――」

と明るい声で続けるノクス。


くるりとその場で身を翻す。

背中を向けた拍子に、柔らかな風を受けて裾がふわりと揺れた。

そのまま首だけをこちらへ向けられる。


「孤児院に帰るついでに、ボクたちもお買い物付き合うよ~」


そのままにこりと笑みを浮かべる。


「ま、荷物持ちはしないけどね?」


「ついて来るだけかよ」


思わず突っ込んでしまう。

その反応を受けて、ノクスは楽しげに肩を揺らして笑っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ