甘い寄り道
今日もまた、昨日と同じようにフィサリスにおつかいを頼まれ、街へと買い物に出る。
躊躇いつつもこの機会にお願いしたいと渡された買い物リストに目を通す。
それなりの人数を抱える孤児院だ。
当然、日々必要になる物資の量も少なくはない。
だが、無理のない範囲で一度に持ち帰れる程度に抑えられているあたりに、フィサリスの気遣いが見て取れる。
数日分の食料。
サイズも用途も異なる複数の衣類。
日常的に消費される消耗品の数々。
どれも生活を支えるために欠かせないものばかり。
必要とされている物は、やはり前日と同じものだった。
リストから目を離し、何気無く周囲を見渡してみる。
(このまま昨日と同じように、普通に買い物を済ませて戻るか……?)
それもひとつの選択肢だろう。
言われた通りに動き、孤児院へ帰れば、それで今日の役目は終わる。
けれど、この胸の奥に残る違和感を独りで抱えておくには気持ち悪くて。
その違和感を抱えたまま、何事もなかったように過ごすには、あまりにも居心地が悪い。
気付けば、足が自然と別の方向へと向いていた。
「レイン?」
進路を変えたことに気付いたティアに、後ろから声が掛けられる。
「少しくらいいいだろ?おやつでも食べながら、少し休憩しようぜ」
軽く振り返りながらそう返すと、ティアは一瞬きょとんとした顔をして、
「おやつ……!」
と、ぱっと表情を明るくさせた。
目に見えて嬉しそうに変わるその反応は、あまりにも分かりやすい。
無理もない。
食事時には、いつもノクスが甘いものを必ず用意してくれていたのに、この街に来てからはずっとお預けをくらっていたのだ。
微笑ましいその様子に、思わず頬を緩ませてしまう。
「早く早く!おやつ買いに行こ!」
ついさっきまで後ろを歩いていたはずなのに、気づけばティアは駆け足になっていた。
あっという間に横をすり抜け、そのまま前へ出て追い越される。
かと思えば、くるりと振り返り、今度は両手でこちらの手を包み込むように掴んできた。
そのまま、ぐい、と軽く引っ張られた。
「ほら、早く行かないと!」
弾むような声。
足取りも軽く、まるで目的地が既に決まっているかのように迷いがない。
「そんなに急がなくても大丈夫だよ」
苦笑混じりにそう言いながらも、引かれるままに歩調を合わせる。
「クローディアスも早く!置いて行っちゃうよ!」
ぐいぐいと俺の手を引っ張りながら、俺の更に後ろを歩いていたクローディアスにも声を掛ける。
それまで神妙な面持ちで歩いていたクローディアスは、その声に目を細めた。
「まったく……」
呆れたように呟きながらも、その口元には苦笑が浮かんでいた。
まるで毒気を抜かれたように。
肩を竦め、「今行く」と短く応じると、そのまま歩調を速めて後を追った。
ドーナツをいくつか購入して、店の外に設置されていた木製のベンチに腰を下ろす。
ティアが待ちきれなかったとばかりに、早速ドーナツにかぶりついた。
数日ぶりに味わった甘味に、ふわりと表情を綻ばせる。
「ねね、レイン。甘いの中にも入ってるっ」
弾んだ声でそう言いながら、齧りかけのドーナツをこちらへ差し出してくる。
柔らかい生地の断面には、薄桃色のクリームが顔を覗かせていた。
少しだけはみ出したクリームが指先に付いているのも構わず、得意げに見せつけてくる。
「ほんとだ。美味しいか?」
そう返すと、ティアは更に嬉しそうに「うん!」と頷いた。
まるで子どもみたいに、満足げな顔をして、もう一口とかぶりつく。
もぐもぐと頬を動かしながら、幸せそうに目を細めていた。
ふと、指先に付いたクリームに気付いたのか、ティアがぴたりと動きを止める。
それから何の躊躇いもなく、口元へと指を近づけ――
ゆっくりと舌先でなぞるように、ぺろりと舐めとった。
その何気ない仕草に思わず目を奪われて、視線を外せなくなっていた。




