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呪華ノ鎖  作者: 雪ねこ
第二章
53/70

繰り返される一日

朝食の時間になると、その違和感はさらに色濃くなった。


木製の長机に並べられた質素な食事。

スープに浸して柔らかくして食べる前提の固めのパンと、作りたてと分かる具の少ないスープ。

決して豪華ではないが、粗末というわけでもない。


これが日常だと、子どもたちも、その内容に不満を漏らす様子はない。

慣れた手つきでパンをちぎり、スープに浸し、当たり前のように口へと運んでいる。

その光景は、落ち着いていて、とても穏やかなものだった。


なにもおかしくは無い、当たり前の朝の光景。

それなのに。


(昨日と、同じ……?)


その光景に強い既視感を覚えて、食事の手が止まってしまった。

木製のスプーンを手にしたまま、周囲を見渡してしまう。


年少の子の隣に座り、世話をしながら自分の食事を進めている年長の子。

片手に本を持ち、ページを捲りながら、静かに食事を取っている子。

椅子を揺らしながら騒ぐ落ち着きのない子と、それを叱る子。


どれも見覚えがある。

見たことがある光景だ。

つい昨日、目にしたばかりの配置。

同じ位置に座り、同じ順序で動き、同じ仕草を繰り返している。



光景だけならば、ただ昨日と同じ行動を、今日も繰り返しているだけだと考えることも出来る。


よくある毎日の、繰り返し行われる日常のいち光景。

だから、多少の一致は不思議でもなんでもない。


だが。


(これは、おかしくないか?)


耳に入ってくる子どもたちの何気ない会話。

そのひとつひとつが、記憶の中の昨日の会話と、重なってしまう。


まるで、同じやり取りをそのまま繰り返しているかのように。


「ちょっとフレイ!行儀悪い!」

「えー?行儀悪いってんなら、ジェイクはどうなんだよ」

「ジェイク、食事中は本を読むのをやめなさい。あと、フレイも。ちゃんと椅子に座って食べること」


叱責するフィサリスの台詞も、聞き覚えのある。

その手元には、やはり黒いペンが置かれていた。

昨日と同じ位置に、同じ向きで。


無意識に、隣へと視線を移す。


隣に座るティアが、甘いものが無いことに不満そうに肩を落としていた。

目の前に出されたパンのひとつを両手で持ち、そのままガジガジと齧り付いていた。

スープに浸して柔らかくするということすらしていない。


更にその隣ではクローディアスが、一口大のサイズに千切ったパンを口に運びながら、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべていた。

何かに引っかかっているような、納得のいかないものを飲み込んでいるような顔。


ふと、こちらの視線に気づいたのか、わずかに顔を上げる。

何か言いたげに口を開きかけて、すぐに閉じてしまう。


この場で口にすることを躊躇ったのか、結局何も言わないまま、視線を逸らされてしまう。


少し離れた席では、ノクスとセレナが静かに食事を進めている。

二人とも余計な会話はせず、目の前の食事に集中している様子だ。



食事を終えると、フィサリスとセシルが手際良く洗い物を始めた。

長机の上に並んでいた皿やカップが子どもたちの手によって次々と集められ、台所の方へと運ばれていく。

水音と食器の音が部屋に響いていた。


その間に、俺とクローディアス、ティアの三人で洗濯へと回る。


一度経験した作業。

二度目ともなると、初めて行った昨日と比べて、動きに迷いが無かった。


「あ、全部干し終えたんですね。ありがとうございます」


洗い終わった洗濯物をすべて干し終わったタイミング。

背後から、フィサリスの声が掛かる。


「いえ……、これくらいなら全然」


戸惑いを押し隠すように、昨日と同じ言葉を返す。


(同じことを言われた。それなら、この後も……)


思考を巡らせながら、二、三歩後ろに下がる。

すると、目の前を水の一閃が駆け抜けた。

放たれた水の塊が、すぐ傍の壁にぶつかり、ぱしゃりと派手に弾ける。


「えー!?なんで避けるんだよー!!」


振り向くと、案の定そこにいたのはフレイだった。

小さな手には水鉄砲。

しっかり狙いを定めて放ったはずの一撃が、寸前でかわされたことがよほど不満だったらしく、唇を尖らせていた。


「絶対当たったと思ったのに」「避けるなんておかしいだろ」などと、ぶつぶつと不満を零していた。


「フレイ!悪戯も程々にしなさい!」


すぐさまフィサリスの叱責が飛ぶ。


「わわっ!フィサリス姉ちゃんが怒ったー!逃げろ逃げろー!」


先ほどまでの不満はどこへ行ったのやら。


叱られたことすら楽しんでいるように、フレイは満面の笑みを浮かべたまま、軽やかに踵を返す。

そのまま、ぱたぱたと足音を立てながら駆け出していってしまった。


反省の気配など欠片もない。

むしろ「構われていること」を全力で楽しんでいるような後ろ姿だった。


その様子を見送りながら、フィサリスが「もうっ」と小さく息を吐く。

呆れと諦めが混じったような表情を浮かべる。

やがて彼女はこちらへと向き直ると、申し訳なさそうに軽く頭を下げた。


「ごめんなさい。あの子、悪戯ばっかりで」

「いや、気にしなくて大丈夫。水も掛かって無いし」


そう返すと、フィサリスは少しだけ目を細めた。

困ったように、だけど少しだけ肩の力を抜く。


「そう、ですね……。ありがとうございます」


遠くでは、まだフレイの笑い声が響いている。

誰かを追いかけ回しているのか、時折ぱしゃりと水鉄砲の音が混ざり、そのたびに子どもたちの騒がしい声が耳に届く。


違和感が、確信に変わった光景だった。

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